表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第三部 反攻の章
59/60

四.七面鳥撃ち(前編)

空母<ジョージ・ワシントン>

 甲板には4機の戦闘機がスタンバイしていた。どの機体もアメリカ海軍の誇る最新鋭のステルス戦闘機、F-35Cだ。そして、そのうちの1機は海兵隊を乗せたオスプレイを佐世保までエスコートしたコルビッツ大尉だった。

「コルビッツ。良かったなぁ。本物の戦闘だぞ」

 僚機のパイロットがからかうようなに言った。コルビッツは同盟国が攻撃されているにも関わらず示威行為を続ける中国への対応に注力していたことを不満がっていた。しかし、ようやく彼が望んだように同盟国を助ける為に行動を開始するのだ。

「そう言うな。今思えば、俺は恥ずかしいことをしていたと思うよ」

 コルビッツは上司に喰いついていたことを後悔していた。

「まぁいいさ。お前が口だけの男じゃないってことを艦長に見せてやるんだ。さぁ出撃だぞ」

 2人の乗るF-35Cがカタパルトに接続された。カタパルトオフィサーがそれを身振り手振りで示して2人が了解を示す頷きをすると、カタパルトオフィサーは発進の合図をした。

 次の瞬間、蒸気の圧力によって2機のF-35Cは強制的に加速され、空母の甲板より前方の空中へと放り出された。コルビッツと僚機のパイロットはエンジンの出力を上げ、そのまま一気に上昇して、闇夜の中に消えた。




駆逐艦<マイケル・モンスーア>

 一方、ただ1隻で敵勢力圏における活動を続けている<マイケル・モンスーア>は対馬へと接近していた。これは高麗空海軍の日本脱出とは関係なく偵察任務の為の行動であったが、高麗軍の新たな行動に対応する為に追加の命令が加えられた。

 <マイケル・モンスーア>は対馬上島の西海岸を南下しつつ接近していた。その付近は海岸線近くに街道が通っておらず人の目が少ないと考えられたからだ。そして、ある程度接近すると無人偵察機シースカウトを発艦させた。目標は対馬空港である。



 CICには<マイケル・モンスーア>の主要な幹部が集まっていた。

「艦長!対馬で待機中のE-737が離陸した模様です」

 艦付の情報将校であるレモラ大尉が報告した。<マイケル・モンスーア>の主要な目であるSPY-3フェイズド・アレイ・レーダーは逆探知回避の為に止められていたが、代わりに赤外線センサーが周囲を監視していて、それが離陸するE-737の姿を捉えていた。

 高麗空軍は4機のE-737を保有しているが、そのうち2機を対馬空港に配備して交代して対馬海峡の空を開始していた。そして今、空中で哨戒をしている機体と交代する為にE-737が1機、離陸したのである。

「おそらく空中で哨戒中のE-737が対馬に戻るでしょうね。離陸したE-737は追跡できるの?」

 レントン艦長が尋ねると、レモラはすぐに答えた。

「レーダーを使って哨戒を開始すれば、ESMで追跡できる筈です」

 レモラの言うとおり、ESMは高空を飛んで哨戒中のE-737の発するレーダー波を捉えている。の時、E-737は対馬を中心とする半径50kmほどの円を描くように上空を時計回りに右旋回していた。

「それにしてもレーダー波の探知が弱いですね。この距離で、あの機体のレーダーの出力ならもっと大きな反応がある筈なのに…」

 ウェブスターが疑問を口にすると、レモラがそれにすぐ答えた。

「きっと遠距離探知に力を入れているのでしょう」

 それからレモラは詳しく説明をした。E-737はE-3CやE-767のような円盤状の回転式レドームではなく板状の固定式レーダーを搭載している。この固定式レーダーは前後左右に向けて装着されたフェイズド・アレイ・レーダーから構成されていて、電力を特定のアンテナに集中することで特定方向の監視能力を強化できる。

「おそらくE‐737は機体左側のレーダーに電力を集中して出力を最大にして、できるだけ遠距離で敵を探知しようとしているのです。特定方向にのみ電力を集中すると、他の方向のレーダーに十分な電力が供給できなくなり探知能力が下がりますが、機体を旋回させることで問題を解決しているのです。これで円の外側に対しては高い探知能力を確保できます」

 ここでレモラは一呼吸を置いた。

「しかし内側への警戒は甘くなる」

「なるほど。だから反応が弱いのか…」

 ウェブスターが言った。

「しかし、それではESMだけでの追跡は困難なのでは?」

「友軍のAWACSがE-737を追跡していて、データリンクを通じて情報を受け取れます」

 レモラが不安を払拭した。友軍のAWACSとは航空自衛隊のE-767であった。

「では、両方のE-737を同時に攻撃できる?」

 艦長の問いに火器管制を担当するノートン大尉が頷いた。

「<マイケル・モンスーア>なら可能です」

 すると艦長は満足そうな笑顔を見せた。

「では、哨戒中のE-737が着陸するのを待ちましょう」

 5分後、対馬を離陸したE-737が高空に達してMESAレーダーを作動させた。それと交代して先ほどまで空中哨戒をしていたE-737が対馬空港へと降下して行った。その様子を近くの丘の頂近くを飛んでいたシースカウトが監視していた。

「攻撃準備!」

 着陸しようとするE-737の姿を見てレントン艦長は命じた。

「了解。主砲、及びスタンダードSM-6、攻撃準備!」

 ノートンが部下に命じると、艦首甲板に2基搭載されている砲塔のステルスカバーが開き、155ミリ主砲AGSの砲身が砲塔の中から姿を現した。

「飛行場には他になにがある?」

 ウェブスター副長が尋ねると、レモラがシースカウトのカメラを動かして他の機体の姿を映した。

「飛行場にはKF-16が4機、駐機しています。2機が給油中で、2機が出撃に備えて待機中。本国に戻る友軍を援護しているみたい」

「よし。全部、破壊しよう」

 ウェブスターが提案した。反対する者は1人も居ない。方針が決まると艦長は命令を下した。

「攻撃開始!スタンダードSM-6、主砲、攻撃始め!」



 ズムウォルト級のMk57VLSは複殻構造の船体の内殻と外殻の間に並べられていて、万が一の被弾の際にも被害を極限できるようになっていた。そこから2発のスタンダードSM-6ミサイルが発射される。

 スタンダードSM-6はアメリカ海軍の傑作艦対空ミサイルシステムであるスタンダードミサイルの最新版で、その射程は370kmに達すると言われている。SM‐6は<マイケル・モンスーア>を介したAWACSからの情報を基に目標を追跡しており、<マイケル・モンスーア>はレーダーを照射することは一切無かった。

 続いて主砲が空港に向けられる。まず1発、それから続けて4発の砲弾が発射された。



 <マイケル・モンスーア>から発射された2発のスタンダードSM‐6ミサイルをE-737は見つけ出すことができなかった。旋回する円の内側に向けられたレーダーの出力を落としていた上に、<マイケル・モンスーア>は陸地の近くを航行していたので、陸地の反射するレーダー波の中に紛れてしまったのだ。E-737がミサイルの存在に気づいたのは、ミサイルが終末誘導の段階に入ってからだ。

 SM‐6の従来型からの最大の改良点は弾頭に空対空ミサイルAIM-120AMRAAMと同じ誘導システムを搭載したことだ。それによりSM-6は自らのレーダーで敵を探し追跡するアクティブ・レーダー誘導方式の撃ちっ放し型ミサイルとなったのである。命中まで母艦からのレーダーによる誘導が必要だった従来のスタンダードミサイルと比べると大きな進歩である。

 勿論、弾頭レーダーが敵を捉えられるまでの距離に接近するまでの中間誘導が必要だが、それは母艦からデータリンクを通じて送られる大まかな位置情報だけで構わない。今回の場合はその位置情報ですらAWACSが提供しているので、<マイケル・モンスーア>はレーダーを使う必要が一切無かった。

 そしてSM-6は目標との距離を詰めると弾頭のレーダーを作動させた。すぐさまE-737の大きな機体を捉えた。E-737の方もESMアンテナがSM-6の発したレーダー波を捉えて警報を発した。

 E-737のパイロットはジャミングを行いミサイルの誘導を惑わす一方、操縦桿を傾けて回避しようとした。しかし、E-737の巨大な機体の動きはあまりに鈍く、ミサイルの接近に気がつくのがあまりにも遅すぎた。

 SM-6のうち1発はジャミングにより目標を見失い外れたが、もう1発が右主翼を吹き飛ばした。片翼を失ったE-737はバランスを失い、そのまま海面に向けて真っ逆さまに落ちていった。



 一方、対馬空港では着陸したもう1機のE-737が駐機場に引っ張られていた。駐機場にはE-737とKF-16が4機の5機が並ぶことに成り、その様子はシースカウト無人偵察機がしっかりと観察していて、レーザー測距装置とGPSを使い5機の正確な座標を特定していた。

 撃ちこまれたのは通常の無誘導弾であったが問題は無かった。座標も砲の照準もかなり精密であるし、155ミリ砲弾の威力であれば直撃しなくても航空機には十分な威力を発揮する。

 5発の砲弾のうち直撃したのは最初の1発、E-737を狙ったものだった。胴体に命中し、E-737は真っ二つになった。残りの4発はどれも至近弾であったが、その爆風は翼を吹き飛ばし、フレームを曲げ、エンジンに重大な損傷を与えた。5機の航空機は二度と飛べなくなった。




駆逐艦<マイケル・モンスーア>

 空中のE-737の反応が消え、シースカウトの送ってくる映像は5機の航空機が破壊される瞬間を捉えていた。

「目標を全て撃破しました」

 ノートン大尉が報告するとCICは歓声に包まれた。その中で艦長は冷静に指示を出した。

「それではシースカウトを回収次第、この海域を離脱する。それから友軍に通信。『扉は開かれた』。繰り返す『扉は開かれた』!」




空中

 コルビッツ機を含む4機のF-35Cは最大巡航速度で北を目指していたのだ。

 F-35はその寸胴な見た目からノロマな機体と思われがちで、実際にスペック上の最大速度も大して高くないが、全ての兵装を機内の格納庫に収納できるという強みがあった。ミサイルや爆弾、増槽は大きな空気抵抗となり搭載する母機の速力や機動力を制限することになるが、機内に格納するF-35の場合は兵装搭載による性能の低下は起きない。ある試験の際には兵器を搭載したF-35Aを、機外になにも装備していなかった追走のF-16が追従できなかったという逸話がある。

 海軍型のF-35Cの場合、ステルス性と航続距離を重視しているので翼面積がA型に比べると増やされており、加速性においてA型に1歩劣っているものの侮れない性能の機体であることには違いない。

 4機のF-35Cもやはりレーダーを使わず、敵の情報は専らデータリンクとESMに頼っていた。その両者の情報を合成して表示する状況認識ディスプレイには先ほどまで高麗軍の早期警戒機を示す輝点が出ていたが、消滅した。その直後、母艦である<ジョージ・ワシントン>から通信が入った。

『友軍が敵の早期警戒機を破壊した。もう対馬上空は安全だ。奴らに喰いつけ!』

 喰いつくべき相手は状況認識ディスプレイに表示されている。九州から高麗本土へ逃げようとする空軍機である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ