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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第三部 反攻の章
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三.動き出す作戦

 第3部、いよいよ本格始動です

高麗連邦共和国 青瓦台

 高麗の大統領府は半ばパニック状態になっていた。アメリカの正式な参戦宣言、そしてそれに続く済州島に対するミサイル攻撃。状況は悪化の一途なのは明らかであった。

 キム・ユリョン国家情報院院長はその状況がひどく不可解だった。米軍の参戦も、自衛隊が自国の領土外で作戦を行い高麗領を攻撃したことも、事前に予測されて然るべきことであったからだ。それなのに高麗政府の高官達はまるで天変地異に不意に遭遇したかのように狼狽している。

「問題は、我が国土への直接的な攻撃の危機が格段に高まったという事です」

 イ・セチャン国防部長が明白なことをまるで新発見の事実を公表するかのような態度で言った。

「自衛隊は専守防衛の枠を超えて行動しています。アメリカ軍は最初からそんなことを気にはしません。我々は即刻、本土防衛の態勢を整えなくてはなりません」

「具体的になにをするんだ?」

 チョン・ウジュン大統領が尋ねると、国防部長はただちに答えた。

「空軍と海軍の哨戒部隊を本国に戻します。一部は九州戦線に残しますが、主力を戻して本土防空と対潜警戒を強化します」

「それでは九州派遣部隊は、<千里馬>遠征部隊はどうなるのだ?」

 大統領の問いに国防部長は平静を装って答えた。

「派遣部隊は攻勢より守勢に転じ、現在の勢力圏で持久するように命じました」

 国防部長は大統領に自分が事態を十分に掌握しているように装っていたが、内心では事態の急転に押しつぶされそうになっていた。ただ自己保身だけは忘れていない。

「持久作戦であれば空海の支援がなくても、陸軍部隊は現状を維持することは可能です。ギリギリまで補給は続けますが、現在の物資があれば孤立しても当面は持ちこたえられるはずです」

 すると大統領は違う話題を出してきた。

「そうだ。<独島(ドクト)>はどうしている?<独島>は我が海軍の象徴だ。なにがあっても撃沈されるわけにはいかない」

「現在、<独島>は僚艦<馬羅島(マラド)>とともに博多港で補給物資を降ろしている最中です。それが終了次第、本国へ戻します」

 国防長官はそれから話題を元に戻した。

「とにかく、我が陸軍は日本の領土の一部を占領している。これを足掛かりに日本に外交的譲歩を勝ち取ることも可能なはずです。外交工作の失敗で、攻勢作戦を撤回しなくてはならなくなったのは残念ですが…」

 それを聞いたソン・ペクイル外交通商部長は激昂して立ち上がった。

「まて!我々の責任だと言うのか!」

 国防部長も言い返す。

「アメリカに中立的な立場をとらせていれば、このような事態にはならなかった筈だ」

 キム・ユリョンは2人の言い争いを冷ややかな目で見ていた。確かに外交通商部が対米工作に失敗したのは事実だろう。しかし、アメリカが参戦する以前に高麗軍の攻勢は失敗に終わっていた。

 国防部長は部隊を再編成した上で再度の攻勢を行うと主張していたが、ユリョンの情報網は現地司令部が既に現在の勢力圏の持久に傾いていた事実を掴んでいた。今回の方針転換は、国防部長は米軍参戦によるものだと装っていたが、実のところは現地司令部の判断を追認したものに過ぎないのである。

 言い争いを続ける2人を尻目にユリョンは大統領に助言を行った。

「そろそろ潮時でしょう。国連決議の受け入れを考えるべきです。あの決議で我が国が実質的に失うものはありません」

 すると国防部長が割り込んできた。

「いえ、まだです。日本本土に占領地がある限り、我々の敗北は確定していません」

「しかしアメリカ軍が参戦してくる以上、すぐに取り返されてしまうのではありませんか?」

 ユリョンが懸念を述べると、国防部長は首を横に振った。

「我が陸軍は簡単には負けません。それに我が軍には、まだ日本攻撃の為のオプションがあります」




五島列島沖上空

 アメリカ海軍は反撃の時には自らが先頭に立って戦うのだと考えて、準備を進めていた。真っ先に行うべきは情報収集であり、空母<ジョージ・ワシントン>からE-2Dホークアイ早期警戒機とEA-18Gグラウラー電子偵察機を発進させ、対馬海峡を航行する駆逐艦<マイケル・モンスーア>とも連携をとりながら、高麗軍の動向を監視していた。

 日本時間で日付が変わる頃であった。最初の異変を察知したのはE-2Dホークアイだった。

「どういうことだ?高麗軍機がどんどん本国に戻っていくみたいだぞ?」

 対馬に駐留するKF-16が出撃して対馬海峡上空を哨戒し、その援護の下で九州に展開する高麗軍機が本国へ向け次々と飛んで行くのをE‐2Dの大型レーダーが捉えていた。第1陣は壱岐諸島のF‐15Kのようだ。それに海軍の哨戒機も本国へ向かっている。

 この事実はただちに母艦である<ジョージ・ワシントン>へ、さらにそこからアメリカと自衛隊の両軍に伝達された。その報告を受けた両軍の司令部は配下の部隊に新たな命令を次々と発した。




玄界灘 潜水艦<まきしお>

 まっさきに行動を開始したのは海上自衛隊の潜水艦部隊だった。特殊な任務を帯びて高麗軍の勢力圏内に潜入した3隻の潜水艦、<そうりゅう><はくりゅう>そして<まきしお>はずっと待機状態だったが、遂に作戦開始の命令が届けられたのだ。



 <まきしお>の艦長は不満げであった。それは彼の艦が担当したエリアに原因がある。3隻のうち<まきしお>型だけは一世代前の艦であり、もっとも簡単なエリアが割り当てられていた。それが気に入らなかったのだ。

 発令所に不機嫌そうな顔で立っている艦長のもとへ通信士が駆けてきた。

「艦長!命令電文を受信しました」

 艦長は無言で通信文を受け取った。総理大臣が演説を行った時点で作戦の準備を終えていて、後は命令を待つばかりだった。

「1番から6番、機雷射出!」

 <まきしお>には通常搭載される89式長魚雷の代わりに旧式の80式長魚雷を改造した自走式機雷が搭載されていた。その機雷が6基、魚雷管から順番に海中へと放たれた。

 海中に放出された6基の機雷は、外見は魚雷のような姿であり魚雷のように海中を進んだ。進むにつれて扇状の広がっていき、そして事前に設定された位置に近づくと海底へと沈んでいき着底した。これから放出された6基の機雷は海底で沈底機雷として敵を待つことになる。

 6基の機雷が沈底した位置を上空から見ると一直線に並んでいて、それは糸島半島と志賀島を結ぶラインに相当した。すなわち博多港の広いとは言えない出入り口、チョークポイントだ。博多港は出入りする船舶は必ず糸島半島と志賀島の間の狭い海域を通らなければならず、攻撃側から見れば封鎖はしやすい。それが<まきしお>が任された理由である。

「次弾を装填せよ」

 そう命じながら、艦長は“あっけないものだ”と考えた。敵支配下の港湾への機雷敷設任務。敵支配下の港湾への機雷敷設任務。普通に考えればかなり困難な任務であると考えられるが、実際には<まきしお>高麗軍の妨害を受けることは無かった。それが艦長には拍子抜けだった。

 その原因は<まきしお>の性能と高さと、高い乗員の技量もあるが、最大のものは高麗海軍の警備が薄くなったことだ。九州沿岸を哨戒していた高麗海軍のフリゲートが突如、高麗本国に向けて転進したのである。艦長には理由が分からなかったが、きっと友軍が何か対策をしたのだろう。博多港にはもう最低限の艦艇しか残っていない。

 ただ、それは艦長にとって残念なニュースでもある。高麗軍が博多港を捨てる決心をしたのなら機雷封鎖の意味が無くなってしまう。港内に残る僅かばかりの獲物が苦労に足りる目標であることを祈るしかなかった。

「艦長!魚雷管、再装填終わりました」

 当然ながら魚雷管には自走機雷が装填されている。

「1番から6番、発射!」

 再び<まきしお>から6基の自走機雷が発射された。先ほどの機雷網の手前に、もう1つの機雷網が形成された。二重の機雷網で高麗艦を確実に捉えようというのである。



 一方、空でも高麗軍の本国への脱出と言う報告を受けて、新たな作戦が始まろうとしていた。

 第1部の「情勢は甚だ悪し」を改訂し、設定の変更を反映させました。

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