表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
51/60

四九.甑島沖海戦8

海中 <孫元一>

 2発の爆雷に揺さぶられ、発令所は恐慌状態にあった。

「艦内各所で浸水発生!対応が追いつきません!」

「右舷横舵が反応せず!動きません!」

「魚雷室に猛烈な浸水が!艦首が下がっていきます!」

「ソナー損傷!探知不能です!」

 次々と入ってくる報告は絶望的なものばかりであったが、艦長はなんとか<孫元一>を生き延びさせようと努力した。

「後部ツリムタンクに注水!バランスを保て!」

 艦長は矢継ぎ早に指示を出し、事態の収拾を図っていた。しかし、もはや艦長にはどうしようもないこともあった。

「艦長!魚雷室の浸水が治まりません!どうしますか?」

 魚雷室には歪んだ魚雷管扉から怒涛の勢いで水が流れ込んでいた。魚雷室の水兵達は必死に浸水を止めようとしたが、それは無駄な努力であった。

 辛い決断だった。戦闘配置で隔壁が閉鎖されて艦内の他と区画とは孤立している。魚雷員は閉じ込められているのだ。そのような状況下で必死に浸水を防ごうとしている。しかし助けを送ることはできない。艦のほかの箇所でも浸水があって人手が必要であるし、隔壁を開けば魚雷室に入り込んだ海水がさらに艦内に広がることになる。だから、魚雷室の浸水は魚雷室の要員で何とかするしかない。それができないとなれば、艦長がするべき決断は1つ。

「やむをえない」

 艦長は魚雷室の艦内電話に繋ぐように指示を出した。

『艦長!こちら魚雷室。浸水が止まりません!指示を!』

 艦長の指示を求める魚雷員に対して艦長は意を決して言った。

「残念ながら、魚雷室を助けることはできない」

『やはりそうなりますか』

 魚雷員は艦長の言葉を予期していたのか、その口調は落ち着いたものであった。

『分かりました。艦長、この艦を救ってください。最後に魚雷管室を代表して言わさせてください!我々は、艦長の下で戦えたことを幸せに思っています!』

 それから艦内電話が一方的に切れてしまった。発令所が騒然とする中、艦長は身体を震わせながら尋ねた。

「航行は継続できるか?」

 艦長が尋ねると、航海士官は頷いた。

「モーターは生きていますし、生きている舵でなんとかできる筈です」

 それを聞いて艦長はようやく艦の生存に希望を抱けた。

「よし。とにかくこの海域を離脱しよう。針路3-4-0へと離脱する」

 艦長の命を受け、満身創痍の<孫元一>は北西に向けて進みだした。




護衛艦<ひゅうが>

 SH-60Kが爆雷を投下して以来、高麗の潜水艦の続報は届いていなかった。FICに詰める護衛隊群司令官である水無月と藤堂ら幕僚達は潜水艦捜索の様子を固唾を呑んで見守っていた。

「もし潜水艦が無傷なら、何らかの攻撃が行われている筈です」

 水無月の傍らに立つ藤堂が司令官に指摘した。

「爆雷が何らかの損傷を与えているか、それとも攻撃を諦めさせたのか…どちらにせよ、任務は達成ですね」

 藤堂の言葉は納得できるもので、FIC内には楽観的な空気が流れつつあった。しかし水無月は最後まで気を抜くつもりは無かった。

 その時、艦のソナールームから報告が入った。

『ソナーが回復しつつあります』

 ようやく攪拌された海水が安定して、ソナーが効果を発揮できるようになりつつあった。そして、すぐに<ひゅうが>のソナーマンは怪しい探知を捉えた。

『ソナー感!潜水艦です。損傷を負っているようで、浸水音が聞こえます』

 ソナーマンに続いてCIC―艦隊の指揮中枢であるFICと艦の指揮中枢であるCICはそれぞれ独立して存在している―の相田艦長から呼びかけがあった。

『攻撃しますか?』

 相田の問いに水無月は藤堂と目を合わせてから答えた。

「攻撃しよう」


 高麗潜水艦にもっとも近い艦艇は<ひゅうが>だったので、<ひゅうが>が攻撃を担うことになった。

「アスロック攻撃始め!」

 相田が命じると、艦の火器管制全般を担当する砲雷長が攻撃シークエンスを開始した。

「アスロック発射始め、用意!」

 <ひゅうが>は甲板上にミサイル垂直発射装置VLSを16セル装備していて、そこに1セルあたり4発装填できる発展型シースパローESSMを32発と07式垂直発射魚雷投射ロケットを8発を搭載していた。ここで言うアスロックとは後者を指す。

 アスロックは元々米軍が開発した対潜ミサイルで、ロケットの先端に魚雷を搭載することで遠距離にいる潜水艦を攻撃する為の兵器だ。海上自衛隊もかなり昔から導入し、旧式化したのでその後継として国産の新型兵器も開発された。それが07式である。従来のアスロックよりも射程が伸び、飛翔速度が速くなっている。

 その07式に目標のデータ、現在位置や推定針路、それに音紋データが入力され、発射準備が整った。

「アスロック発射始め!撃て(てっぇ)!」

 VLSから2発の07式アスロックが発射され、北へと向かった。アスロックはしばらく飛ぶと、弾頭の97式短魚雷を切り離した。魚雷はパラシュートでゆっくりと海面に降りると、パラシュートを切り離して海中に消えた。

 水中に潜った魚雷は探信音を発して目標の捜索にかかった。




海中 <孫元一>

 ソナーが損傷していた<孫元一>は、周辺の海域が安定してソナーの能力が回復しつつあったことも、2発の魚雷が着水したことにも気づいていなかった。彼らは戦闘海域から逃げ出すことに頭が一杯になっていた。

 水中に入った2発の97式短魚雷はすぐに<孫元一>のスクリュー音を捉えて、追尾モードに入った。損傷を負って速度の上がらない潜水艦に追いつくなど、97式にとっては造作も無いことである。




護衛艦<ひゅうが>

 <ひゅうが>のFICはアスロックを発射してからずっと静まり返っていた。誰もが次のソナーマンの報告を黙って待っていた。

『目標付近で爆発音!魚雷が命中しました!』

 その報告を聞いたFICの面々は互いの顔を見て、聞き間違いではないことを確認した。

『圧潰音!目標を撃沈しました!』

 FICは歓声に包まれた。日本への増援を阻止する為に高麗が派遣した潜水艦3隻のうち2隻目を撃沈し、第1護衛隊群は任務を達成したのだ。




アメリカ海軍第75任務部隊 旗艦<ヴェラガルフ>

 TF-75こと、第75任務部隊はデータリンクを通じて海上自衛隊が高麗潜水艦を1隻撃沈したという情報を入手した。タイコンデロガ級イージス巡洋艦<ヴェラガルフ>のCICに設けられた任務部隊の指揮所で、指揮官であるティム・キャスパー准将は報告を読んでいた。

「とりあえずストライカー旅団は徒歩で戦うことを避けられそうなわけだな」

 潜水艦を撃沈した第1護衛隊群が護衛している貨物船団は今日中に入港できる予定だった。その船団はストライカー旅団の装備する兵器が詰め込まれていて、日本に展開するアメリカ陸軍の二番目の旅団が使う予定になっている。そして三番目の旅団が使う装備はキャスパーが護衛している。

 CICの大型モニターには配下の艦船のほとんどが表示されている。北東の九州に向けて針路をとる船団の先頭にはアーレイバーク級イージス駆逐艦の<マクキャンベル>と<マスティン>が進み、前衛を務めている。その後ろに6隻の貨物船が進み、旗艦である<ヴェラガルフ>とアーレイバーク級イージス艦の<ウェイン・E・マイヤー>が貨物船団の左側を固めている。つまり北からやってくる敵に備えているのだ。そして殿はやはりアーレイバーク級の<ホッパー>が担っている。任務グループの水上艦のうち、アーレイバーク級の中で旧式のフライトIである<ホッパー>だけが艦載ヘリコプターを持たない。

 この配置では船団の南側の防備が薄いということになるが、その対策も打ってある。しかしキャスパーはそれを喜んでいなかった。その対策というのが彼の統制が及ばない類のものであるからだ。しかも、その対策をしたが故に船団の南側に敵を発見しても水上艦は手を出せない、というオマケまでつくのだから尚更である。その場合、キャスパーらはその対策がうまく機能することを祈るしかないのだ。

「まぁ。なんにしろ、無事に届けらればそれで良しだ」

 というわけで2隻目を撃破しました。3隻目の前に次回は米軍の動向です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ