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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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四七.甑島沖海戦6

護衛艦<いかづち>

 一方、<まきぐも>と比べると古い世代の艦である<いかづち>に出来ることは少なかった。

 <いかづち>の艦長は曳航具4型の妨害を魚雷が受け付けないのを見ると、すぐに曳航具を放棄することを命じた。曳航具は艦の航行能力に悪影響を及ぼすからだ。

 曳航具と艦を繋ぐワイヤーが切断されると、<いかづち>は急加速した。ジグザグに針路を変更しながら魚雷をかわそうと言うのである。後は魚雷の燃料が<いかづち>に到達する前に切れることを願うばかりであった。

 しかし、残念ながら戦場の女神は<いかづち>に微笑まなかった。白鮫魚雷は<いかづち>との距離を確実に詰めていった。

「まもなく命中します!」

「耐ショック姿勢!衝撃に備えよ!」

 それからの数秒間は乗組員達にとっては永遠にも思えるような時間であった。しばしの沈黙。もしかしたら、外れたのか?そんな考えが手近な物に掴まっている乗組員達の頭を過ぎった、次の瞬間に激しい爆音が艦内に轟いた。



 白鮫魚雷は<いかづち>の艦底下で爆発した。まず激しい衝撃波が<いかづち>を襲い、激しく揺さぶった。しかし、真の脅威はその直後に襲ってきたバブルパルスであった。爆発で生じたガスの塊が巨大な気泡となって<いかづち>の船体を押し上げたのである。その直後、今度は水圧により気泡が潰れ海水が殺到した。<いかづち>の船体はその海水の流れに捕まり、先ほどとは完全に逆方向である海面下へと引きずり込まれたのだ。この一連の動きに<いかづち>の船体は耐え切れず、遂に破断した。

 魚雷の爆発点を中心にして2つに分かれて船体はそのまま僅かな時間で海面下へと沈んだ。まさに轟沈であった。生存者は十数名だけだった。




潜水艦<孫元一>

「1隻、撃沈しました!」

 ソナーの報告が静まり返った発令所の中に響いた。撃沈した相手が何者かははっきりしなかったが、敵を撃沈したのだ。発令所は沸きかえった。

「落ち着け!」

 艦長が声を張り上げた。艦長の声で艦内は一気に静まった。

「本番はこれからだ。全速で突入する!」

 海中は護衛艦が魚雷回避の為に全速航行して海水を掻き乱し、その挙句に魚雷が爆発して船が1隻沈んでいるために攪拌され、ソナーの効力がだいぶ低下していた。ソナーが撃沈した相手を特定できなかったのもその為だ。そして、その中を進めば、全速航行しても発見される可能性は小さい。

「全速前進!」

 モーターが唸り声をあげて、<孫元一>の船体は護衛艦隊に向かって行った。




護衛艦<ひゅうが>

 甲板ではヘリコプターが引っ切り無しに着陸しては離陸を繰り返していた。増援に派遣されてきたSH-60や航空自衛隊の救難ヘリコプターも加わって、撃沈された護衛艦の生存者を救出すべく動いていた。勿論、その間も敵である潜水艦の捜索が続けられていた。

 しかし護衛艦が回避行動の為に全速でジグザグ航行をしたために、<いかづち>の沈没も相まって海水が攪拌されてしまい、ソナーの効力はだいぶ落ちていた。

「各艦より報告。ソナー探知、得られません」

「ヘリも同様です。ソナーが効きません」

 友軍が撃沈され、<ひゅうが>のFICは恐慌状態にあった。水無月司令官はそんな渇を入れた。

「落ち着け!落ち着くんだ!」

 声を張り上げる水無月。それでFICの乗組員達は落ち着きを取り戻しつつあった。

「EMCONを解除する。この状況では敵艦もソナーは効きまい。潜望鏡とレーダーに頼らざるをえない筈だ」

 これまで敵潜水艦のESMに捉えられてしまうのを防ぐ為に使用を控えていたレーダーが一斉に作動し、最大出力で海面を走査し始めた。

 その時、ソナールームから新たな報告が入った。

「最初の接触の際に得られたソナーデータの解析を終了しました」

 それを聞いた司令官の水無月と幕僚長の藤堂はただちにソナールームへと向かった。



 ソナールームには既に艦長の相田1佐が駆けつけていた。司令官と幕僚長の到着を待ってソナーマンが説明を始めた。

「これをお聞きください」

 ソナーマンがコンソールの再生ボタンを押す。すると鈍い機械音がスピーカーから流れてきた。

「スクリュー音か?」

 水無月が尋ねると、ソナーマンが頷いた。

「これはシーホークが最初に敵の魚雷を捉えた際のソナーデータを解析したものです。雨音や魚雷のスクリュー音を抽出したところ、潜水艦のソナー音を確認しました」

 それからソナーマンはソナーシステムのコンソールを操作した。画面に潜水艦の図形とデータが現れた。

「データベースに一致する音紋が登録されていました。間違いなく高麗海軍の214型潜水艦です」




海中 高麗潜水艦<孫元一>

 ソナーがあまり効かないので、<孫元一>は魚雷発射直前のソナーの観測データを頼りに手探りで進んでいた。目標は日本艦隊のど真ん中だ。そこから潜望鏡観測で貨物船を探し、撃沈して、その混乱に紛れて脱出する。それが艦長の計画であった。

 目隠し状態で敵の中へと突入する艦長と乗組員は重い緊張の下にあった。

「艦長、おそらく敵艦隊の中心部です」

 海図台の前に立つ航海士官が潜望鏡の前の艦長に向けて報告した。

「潜望鏡、上げ」




海上 SH-60K

 そのシーホークは収容した<いかづち>の生存者を乗せ、<ひゅうが>への帰途にあった。2人の生存者はどちらも重症で、パイロットは一刻も早く整った医療設備のある<ひゅうが>へ送り届けたかった。

 しかし、警戒は怠っておらず逆合成開口レーダーHPS-105Bで絶えず海面を走査していた。

「レーダーに感あり!」

 降下救助員も兼ねるセンサーマンが叫び声をあげた。生存者引き上げの為に海面へと降下していった後だが、センサーマンは一瞬の探知に反応した。

「一瞬ですが、海面に反応がありました」

 報告を聞いてパイロットは迷った。できれば反応の正体を確かめたかったところだ。しかし手段が限られる。普通はディッピングソナーを下ろして潜水艦の痕跡を探すことになるが、重傷者を運ぶシーホークにのんびりと捜索をしている余裕は無い。

 しかし、SH-60Kには問題を解決する装備を搭載していた。

「パイロット、こちらセンサーマン。なんとか目標の輪郭を再現できそうです」

 センサーマンがコンソールを操作しながらパイロットに伝えた。逆合成開口レーダーHPS-105Bはレーダー波を解析し、捉えた目標の外形を映像化することが可能であった。そして、モニターに映された再現映像は確かに潜望鏡の先端の形をしていた。

「間違いありません。目標は潜水艦です」




護衛艦<ひゅうが>FIC

 SH-60Kは重傷者移送の為にその場を離れなければならならずソナーによる詳しい索敵が行えなかったが、報告は<ひゅうが>に届いた。

 FICの海図台の上には、魚雷発射時に捉えられたスクリュー音を解析して得られた大まかな位置、それに先ほどシーホークがレーダーで潜望鏡を捉えた位置が記されていた。そして2点を通る直線が引かれ、潜水艦の航跡が明らかになった。

 そして、その直線の先は、魚雷を回避する為に散開していた貨物船団の集結点まで伸びていた。

「このままでは貨物船の前に出てしまいますね」

 幕僚長の藤堂が指摘した。

「だが、相手の向かう先は分かった」

 水無月司令官は決断を下した。その表情は自信に満ち溢れていた。

「索敵活動中の全てシーホークを全て呼び戻せ。残存艦艇もだ。決着をつけるぞ!」

 かくして<孫元一>と第1護衛隊群の最終決戦が始まろうとしていた。

 前回投稿時に指摘された点を改訂しました。

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