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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
48/60

四六.甑島沖海戦5

洋上 第1護衛隊群

「総員、対水上見張りを厳となせ!」

 逆探知を防ぐ為にレーダーを停止している護衛艦隊において、乗員の目は重要な索敵手段になっていた。各種光学機器が発達しているとは言え、この天候の下では心もとないものである。

「後はSH頼りだな」

 今、全力で索敵に臨めるのは哨戒ヘリコプターのみである。敵潜水艦が船団に達する前にヘリコプターの網に引っ掛ってくれるのを祈るしかない。だが、群の持つ8機だけでは心もとない。ヘリコプターの増援を要請し、地方隊の航空隊から2機が派遣されることになったが、到着まで暫しの時間が必要だった。




海中 <孫元一>

「潜望鏡を下ろせ!」

 海面に出ていた潜望鏡が油圧の力で海中に引き込まれ、艦橋の中に収納された。

「おそらく目標だ」

 214型潜水艦の潜望鏡は非貫通型であり、潜望鏡の先端にはカメラがついていて、その映像をテレビを使って見ることができる。従来型の潜望鏡のような顔を押し付けて覗き見るアイピースも備えているが、それは艦長の威厳を象徴する程度の意味合いしかなく、この時も艦長はアイピースを覗き込んでいたが、慣習的にそうしただけであった。

「そのようですね」

 副長以下部下達は発令所に設けられたテレビモニターを通じて潜望鏡の捉えた画像を見ていた。しかし哨戒ヘリコプターのレーダーに捉えられないように短時間、水面ギリギリの高さ程度までしか上げていない潜望鏡が雨中で捉えた敵は、輪郭がぼやけていて船影が識別できなかった。軍艦か貨物船かどうかさえ判断が難しかった。

「敵がレーダーを使っていれば陣形を把握できたのですがね」

 そして相手の陣形が分かれば貨物船を狙い撃ちすることもできた。

「もっと接近しますか?」

 副長の提案に艦長が唸った。副長の言うとおり接近すれば、それだけ精密な観測が可能になるが、その反面、自衛隊に探知される可能性が高まる。しばらく考えているうちに艦長は突拍子もないことを思いついた。

「1隻沈める!」

 突然の艦長の言葉に周りの部下達は驚いた。

「しかし。まだ敵の陣形を把握できていません」

「だからこそだ。混乱に乗じて接近し、目標を探す。沈む船によって敵のソナーの探知能力もだいぶ落ちる筈だ」

 艦長の主張はそれなりに筋が通っていたが、副長は納得できなかった。

「しかし!今、下手に攻撃を加えれば、こちらの存在を相手に知らせるだけの結果になりかねません!」

 隠密性を武器にする潜水艦にとってそれは最も恐れるべき事態である。だが艦長は判断を曲げなかった。

「イギリスのSASも言っているだろ?危険を冒さなければ勝利は無い」

 決意を固めた艦長を前に反対し続けた副長は口を閉じた。そして艦長は命じた。

「対水上戦闘用意。魚雷発射準備!」

 さっきまで反対していた副長は艦長の命令を復誦し、ほかの部下達もきびきびと動き出した。

「魚雷1番から8番用意!」

 発射諸元は先ほどの潜望鏡観測を基に大まかに算出し、発射直前に再度の観測を行って確認をしてから1番から4番までの魚雷を発射して、どれかの船を撃沈する計画だ。そして、その混乱を突いて接近し、貨物船団を発見したら残る5番から8番魚雷でこれを攻撃するのだ。

 しかし船影がぼやけて、船の種別さえ類別できない状況では、目視だけでは正確な距離を測るなど不可能だ。推定値にはかなりの幅がある。最新の自動追尾魚雷といえども命中率は極端に低い筈だ。分が悪い賭けだったが、それでも艦長はその可能性に賭けた。

「潜望鏡上げ!」




上空 SH-60K

 艦隊の前方を警戒する哨戒ヘリコプターの1機、そのセンサーマンがほんの一瞬だけレーダーに不審な影が映るのを見た。

「レーダー、前方に反応あり。クラッターの可能性もありますが」

 これまでも彼は謎の影に何度も騙されてきた。流木のようななんでもないものでも、SH-60Kのレーダーは敏感に反応してしまうのだ。

「いや。念のために確かめて見よう」

 報告を聞いた機長は機体を海面近くまで降下させた。

「ディッピングソナー、下ろせ!」

 機長の命令を聞いてセンサーマンは、相変わらず雨粒が叩きつける海面を覗きながら、この状況でどれだけの精度が得られるだろうと考えながら吊り下げスイッチを押した。機体からワイヤーに吊るされた円筒形のディッピングソナーが海面下に下ろされる。

 センサーマンはソナーを作動させた。ヘッドホンからは予想通り雨粒の音がうるさく聞こえてきた。そして、その中に特徴的な機械音も。

「魚雷だ!敵は魚雷を発射したぞ!」

 その警報はすぐに艦隊に届いた。




第1護衛隊群

 <ひゅうが>のFICで水無月司令は部下達が予想以上に冷静に対応しているのを見て驚いた。まだ自分達が魚雷で攻撃されているという実感が湧いていないのかもしれない。

「ブラックジャック04。引き続き潜水艦を捜索せよ」

 魚雷発射を探知したSH-60K、コールサイン<ブラックジャック04>は引き続き潜水艦の発見を試みるように命令された。ソナーはまだ潜水艦を探知していなかったが、騒音の中に必ず紛れている筈である。<ひゅうが>FICとSH-60機内の双方で、ソナーが捉えたデータから騒音を除去して、目標の潜水艦のソナー音を抽出する努力が併行して開始された。

 一方、護衛艦部隊の方も魚雷を迎え撃つべく行動を開始した。先を進むDDHグループの<ひゅうが>、<あしがら>、<むらさめ>、<あけぼの>が貨物船団を守るように前へ出て、魚雷の前に横並びになった。さらにDDGグループの<きりしま>、<まきぐも>、<いかづち>、<すずなみ>も速力を上げて貨物船団の前へと出ようとした。

 一方、ソナーマン達は接近する魚雷を捉えるべく耳を澄ましていたが、なかなか探知されなかった。その間にも時間が刻々と流れていく。

 しばらくしてから、その瞬間が突如として訪れた。

「ソナー感!魚雷です!」

 各艦のソナーが捉えた情報はデータリンクを通じて全て<ひゅうが>に送られ、一括して分析されていた。

 分析によると魚雷は全部で4本で扇状に広い範囲へと広がっている。高麗潜水艦も精密な測定ができたわけではなく、かなり大雑把な照準で発射したようで、うち1本はあさっての方向に向かっていて味方のどれかに当たる様子は無い。それでも脅威は脅威だ。

 <ひゅうが>の司令部の幕僚達はまず貨物船を安全な海域に退避させようと誘導した。一方、護衛艦は魚雷に立ちはだかるように向かって行った。

 <ひゅうが>と<きりしま>が前に出て、魚雷の動向を監視する。この2隻は他の護衛艦より大型な分だけ高性能なソナーを積んでいる。他の護衛艦は小刻みに舵を動かし、蛇行しながら航行することで海水を掻き乱し、魚雷のソナーを惑わそうとする。しかし、それは<孫元一>にとっても好都合な展開だった。海水を掻き乱すことで護衛艦のソナーも惑わされてしまうからだ。

 その間にも魚雷が接近してくる。<ひゅうが>と<きりしま>はその動きを監視していた。

「3番敵魚雷は目標を見失った模様です。敵1番魚雷は<いかづち>に、敵2番魚雷は<まきぐも>に向かっています」

 護衛隊群の各艦からソナーデータを受け取り、解析をしていた<ひゅうが>のオペレーターが報告をした。とりあえず輸送船が撃沈される危険は去ったが、危機はまだ続いている。




護衛艦<いかづち>及び<まきぐも>

 2隻の護衛艦でほぼ同時に同じ命令が発せられた。

「回避運動!」

 2隻の護衛艦は海水をかき混ぜる為の運動を止め、魚雷と距離をとるのに最適な針路に艦首を向けた。

「デコイ用意!」

 逃げる護衛艦の艦尾からは曳航具4型と名前がつけられた曳航式デコイが海中に投下される。騒音を発して魚雷のソナーを惑わそうというのだ。

 さらに第1護衛隊群の中でも最新の艦である<まきぐも>には最新の妨害装置を備えていた。魚雷防御システムとして従来と同様の曳航式ジャマーである曳航具4型に加え、投射型静止式ジャマーと自走式デコイを装備している。これらの新装備は魚雷が迫ってきた、より決定的な瞬間に使われることになっていて、いつでも使えるように待機していた。

 曳航具4型が海中に妨害音を発して、魚雷のソナーを妨害する。しかし高麗の最新鋭魚雷である<白鮫>は曳航具4型の妨害を受け付けなかった。




護衛艦<まきぐも>

 <まきぐも>は遂に奥の手を使う瞬間が来た。

「デコイ射出!」

 煙突の間に置かれた投射式ジャマーが何発か海に向けて射出され、一方で短魚雷発射管の脇から自走式デコイを幾つか海中に投下した。海中に騒音を撒き散らし、接近する魚雷のソナーを欺こうとする。

「魚雷接近してきます」

 CICではソナーの捉えた敵魚雷の状況が刻々と伝えられた。報告をするオペレーターを除いて乗員はみんな押し黙って、状況が動くのを待っている。緊張で胸が締め付けられるような思いをしながら、魚雷の動きに注意を向けていた。

 そして、その言葉は不意にソナーマンから発せられた。

「…目標、外れました。本艦への衝突コースから外れました」

 乗員達は喜びを行動で表すことは無かったが、明らかに表情が緩み、安堵が現れていた。だから次の瞬間に起こった爆発音は気が抜けつつあった乗員をひどく驚かすことになった。

「魚雷が爆発しました」

 デコイに命中したのか、それともあらかじめ一定距離進んだ後に自爆するように設定されていたのか、どちらにしろ魚雷は<まきぐも>から離れたところで爆発し、海上に水柱を立てた。

 前回投稿の際に指摘された誤字を修正しました。

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