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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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四四.甑島沖海戦3

 アクティブソノブイによるコンタクトからすぐに加治木は分析を開始し、すぐに精密な位置を測定した。だが、すぐにそれも古いデータになる。

「ソノブイ23にコンタクト!目標が速力を上げて移動を開始しました」

 パッシブソノブイの監視を継続していた東横が報告した。当然のことながらアクティブソノブイが発した探信音を高麗潜水艦のソナーも捉えて、P-1<ウツセミ7>に探知されたことを悟って逃走を選んだようだ。

「SS-2、こちらタコ!追跡を続けろ!攻撃準備!」

 谷口は部下達に命じると、自分は加治木の分析した精密な位置情報を基点にして、東横の探知報告も加味して敵艦の針路を推測した。

「パイロット!こちらタコ!急降下だ!」

 須磨2尉は谷口1尉が指定した針路に向けて機体を急降下した。谷口はさらに矢継ぎ早に指示を出す。

「SS-3!こちらタコ!MADセンサー用意!」

 安田1曹が務めるSS-3はソナー以外のセンサーシステムを取り仕切る役目を負っている。ソナーには専任のセンサーマンが2人もついているのに対し、ESMやレーダーなどを複数のセンサー系をSS-3が1人で仕切っているわけだから、いかに対潜哨戒機においてソノブイが重視されているかが分かるというものである。

 しかし、だからと言ってSS-3の重要性が低いというわけではない。対水上戦は彼の独壇場であるし、対潜戦においても攻撃時に最後の目標捕捉を行うという重大な任務が与えられている。それに用いるのがMADセンサーだ。

 MADとは磁気探知機の略で、巨大な鉄の塊である潜水艦が通過するときに発生する磁気の乱れを探知するものである。探知距離は極めて短いが、精密な位置確認には有効な探知手段だ。

「タコ!こちらSS-3!MAD準備良し!」

 安田が準備を進めている間にもP-1<ウツセミ7>の機体は海面に向けて急降下していた。海面まで近づくと、須磨2尉は操縦桿を引いた。

「タコ!こちらパイロット!水平飛行に移ります!」

「よし。SS-3、MAD作動開始!」

 谷口が命じると、安田はMADセンサーの起動ボタンを押した。P-1は低空を舐めるように飛び、敵潜水艦の反応が出るのを待った。それはすぐに訪れた。

「タコ、こちらSS-3!MAD、コンタクト!真下に居ます!」

 安田の報告を聞いて谷口はすぐさま決断した。

「攻撃に移るぞ!」




高麗潜水艦<鄭地>

「敵哨戒機、本艦直上を通過!」

 ソナーマンの報告は艦長にとって死刑宣告に等しかった。わざわざ低空を飛んでいるということは、おそらくMADセンサーによる捜索を行っていたのであろう。そして直上を通過したとならば確実に探知されている。敵がこちらの位置を把握したのであれば次に来るのは…

「次は攻撃が来るぞ!ノイズメーカー用意!」




上空 P-1<ウツセミ7>

 P-1は急旋回して針路を反転した。針路は先ほど敵艦を探知した地点に向けられている。

「オーディナンス、こちらタコ!魚雷、用意。1番はパッシブ、2番はアクティブ!」

 谷口は武器整備士の丸亀曹長に魚雷の準備を命じていた。P-1の機首下にはウェポンベイがあり、国産の12式短魚雷と威嚇用の対潜爆雷を搭載していた。

「タコ、こちらオーディナンス。準備良し」

 丸亀は2本の魚雷を作動状態にし、安全装置を解除した。1本目は相手の発する音波を追跡するパッシブモードに、2本目は自ら探信音を発し、その反射を捉えるアクティブモードに設定されている。

「オーディナンス、こちらタコ。MADが目標を再探知しだい投下する。待機せよ」

 全ての乗員が安田の次の報告を待った。緊張が高まり、皆が黙り込んだ。わずか数秒間のことであったが、当人達にはまるで数時間の出来事のように感じた。

「こちらSS-3、コンタクト!」

 安田のその一言でほかの乗員達が一斉に動き始めた。

「オーディナンス、こちらタコ!投下!投下!投下!」

 谷口の命令を聞いて丸亀が投下ボタンに添えていた右手の人差し指に力を込めた。次の瞬間、2本の魚雷がウェポンベイから続けて海面に落下した。




高麗潜水艦<鄭地>

「魚雷です!感知しました!後方400!」

 ソナーの叫び声が艦内に響く。それに艦長の怒声が続く。

「方向舵、取り舵一杯!潜行舵、下げ舵一杯!」

 魚雷が迫ってくる中、<鄭地>の船体が傾いた。1900t近い巨大な艦が急速な針路転換でその身を揺さぶり、海を掻き乱す。

「魚雷、さらに接近!後方200!」

 十分に海中を掻き乱したと判断した艦長は次の命令を発した。

「スクリュー停止!ノイズメーカー射出!」

 艦首を下に向けた状態でモーターが停止し、惰性でより深い海へと沈降している<鄭地>。その船体から1本の円筒形の物体が射出された。その物体は<鄭地>の録音されていたスクリュー音を海中に流した。偽のスクリュー音を発してパッシブ追尾の魚雷を引きつける囮であるノイズメーカーだ。

 2本の12式魚雷のうち前方を進むパッシブモードの方は、<鄭地>の射出したノイズメーカーに食いついてしまった。

「敵、一番魚雷、ノイズメーカーを追尾中!まもなく命中します!」

「総員、耐ショック姿勢、衝撃に備えよ!」

 艦長が部下に命じるのとほぼ同時に、12式魚雷がノイズメーカーに直撃した。爆発音に続いて激しい衝撃が<鄭地>の船体を襲い、揺さぶった。




上空 P-1<ウツセミ7>

 上空からでも海面に立ち上がった水柱を観測できた。

「やったか?」

 キャノピーから水柱を確認した谷口が機内電話を使ってソナーマン2人に尋ねた。爆発直後にソナーがまともに機能するとは思えなかったが、それでもつい聞いてしまった。

「タコ、こちらSS-1。撃沈、確認できません。海中が爆発で攪拌されています」

「タコ、こちらSS-2。こちらも確認できません。2番魚雷がまもなく敵艦の位置に達します」

 予想通りの答えとは言え、撃沈を確認できないのに谷口は少し落胆した。

「よし。パイロット、こちらタコ。目標上空を再び通過しろ。SS-3、MADセンサー準備」




高麗潜水艦<鄭地>

 自ら探信音を発して目標を追跡する2番目の12式魚雷であったが、目標を見失ってしまった。<鄭地>が魚雷を探知した直後に行った急回頭、それに1番魚雷の爆発。その2つにより海水が掻き乱されて、音波を反射する水の壁を形成していた。

 その為に12式魚雷のソナーは<鄭地>を見つけられず、そのまま水の壁を突き抜けて進んだが、水の壁の下へと潜っていた<鄭地>の姿は進む先に無かった。結局、2番魚雷は再び<鄭地>の姿を捉えることなく海中に消えた。

「敵2番魚雷、外れた模様です」

 断言できなかったのは攪拌された海水の為にソナーの効力がかなり落ちて、艦の背後から前へと抜けていった魚雷の推進音を高性能艦首ソナーでも微かにしか捉えられなかったからだ。

「ソナーが良く効きません。敵哨戒機、新たな魚雷は確認できません」

 残念そうに報告するソナーマンであったが、艦長はそれほど残念とは思っていなかった。こちらのソナーが効かないということは、相手も同様ということであり、今こそ逃げるチャンスだ。

「電動機、出力一杯!潜行舵、下げ舵一杯!急速潜行!」

 <鄭地>は掻き乱された水の障壁の下に隠れ、モーターを目一杯回して、さらに深く潜ろうとした。




上空 P-1<ウツセミ7>

 ウツセミ7は再び低空まで降下し、MADで鋼鉄の船体が引き起こす磁気の乱れを探す。

「タコ、こちらオーディナンス。海面に破片らしきものなし」

「こちらも発見できない」

 自分の席のキャノピーから海面を舐めるように監視する谷口だったが、海上に敵潜水艦撃沈を示す痕跡は見当たらない。

「攻撃は当たらなかったのか?」

 谷口は敵潜水艦が生存しているものと考えることにした。

「タコ、こちらSS-3!コンタクト!」

 安田は興奮した声で叫んだ。しかし、すぐにトーンダウンした。

「反応は微弱…」

 谷口はその報告を聞いて、敵が潜行していると考えた。深く潜ろうとして、水面から離れていっているので、海上で捉えられる磁気の乱れも小さくなっていっているのだ。

 勿論、敵が先ほどの攻撃で撃破され、海底に向かって沈没しつつあるという可能性もある。しかし谷口はあくまでも敵が生存しているものとして行動することにしていた。

 急速潜行をしているのだとすれば、モーターも高い出力でスクリューを回している筈だ。咄嗟にそこまで判断して谷口は判断を下した。

「オーディナンス、こちらタコ!魚雷2本投下!パッシブモード!」




高麗潜水艦<鄭地>

 ウツセミ7は<鄭地>の艦首側からアプローチして、MADで磁気の乱れを観測した直後に魚雷を投下した。魚雷を投下した時には、P-1の機体は<鄭地>の上を通り過ぎていて、投下された2本の12式魚雷は<鄭地>を背後から襲うことになった。

 水の障壁の為に<鄭地>はP-1の接近に気づかず、また急速潜行の為にモーターの出力を一杯にしていたので、自らのスクリュー音に紛れた魚雷の足音にソナーマンが気づけなかった。

 攪拌された海水の層を突き抜けて、その下まで潜ると魚雷のソナーは<鄭地>のスクリュー音を明確に捉えられるようになり、パッシブモードで自ら探信音を発することなく一直線に突き進んだ。

 すぐに1番魚雷が、数秒後に続けて2番魚雷が<鄭地>の船体に直撃した。2本の魚雷の炸薬が爆発し、<鄭地>の艦尾を吹き飛ばし、残る部分を激しく揺さぶった。

「急速浮上!」

 艦長は咄嗟に命令したが、急速潜行中に艦尾を吹き飛ばされた<鄭地>を立て直すことはできなかった。惰性と魚雷の爆発の力で船体は潜り続け、深くなるほど高まる水圧が艦内に海水を大量に流れ込ませる。バラストタンクから海水を排出しようとしたが、浸水の勢いはそれを上回っていた。

 数十秒後、<鄭地>は深度数百メートルの海底に叩きつけられた。幸い頑強な船体は魚雷の爆発と着底の衝撃から艦の前半分を守っていた。発令所より前は浸水も酷くなく、乗員は生き残っていた。しかし、もはや<鄭地>には戦闘艦として一切の価値を失っていた。

 高麗海軍が米軍来援阻止の為に派遣した3隻の214型潜水艦のうち1隻が失われた。あと2隻である。

 1隻撃沈です。

 感想でご指摘のあった前話の誤字も修正しました。


(改訂 2012/7/25)

 指摘のあった誤字を修正。

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