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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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四三.甑島沖海戦2

 知らぬ間に第1部の話数を超えてしまいました。そんな感じで、海戦第2回です。

 谷口率いるP-1は空中で何度も旋回し、ソノブイ・バリアに高麗の潜水艦が引っ掛るの待っていたが、ソナーマンはなかなか“探知(コンタクト)”の一言を発しなかった。

「敵はこちらに気づいているか…」

 谷口1尉はP-1の静粛性にそれなりの自信を持っていたが、それでも最新鋭の潜水艦を誤魔化しきれないようだ。相手が無音航行に徹しているのなら発見は簡単にはできない。

「逃げちゃいましたかね?」

 SS-1の加治木1曹がふと漏らした。

「どうだろうな?」

 谷口は海底地形図や海流図に目を通しながら応えた。加治木が指摘するように、相手がソノブイ・バリアの隙間を突いて逃げ切った可能性も無きにしも非ずである。あまりに長い時間、探知が無ければ突破された可能性を考えなくてはならない。だが、そう思って移動したら、実はまだ潜水艦は元の場所に居て、哨戒機が去るのを着底でもしてじっと待っていたということもあるから難しい。

「さて、どうする?」

 燃料はあと4時間ほど哨戒活動を続けるに十分な量がある。

「とりあえず、あと1時間、ここで哨戒を続ける。それから後のことを考えよう」

 対潜哨戒には根気が必要であった。




高麗海軍潜水艦<鄭地>

 高麗海軍の潜水艦はまだその場に居た。騒音を抑える為に推進器を止め、惰性と船体の重量によって少しずつ沈降しながら微かに進んでいる状態で、乗組員たちは必要最低限のこと意外の作業を止めて音を出さないように努めていた。

「まだ上空に居ますね」

 <鄭地>のソナールームでソナーマンが艦長に報告をしていた。

「しつこい奴だ」

 艦長はソナールームの天井を見上げて漏らした。それから顔を同行してきた航海士官に向けた。

「変温層はないのか?」

 航海士官は首を横に振った。

「確認できていません。まだ朝ですからね」

 変温層は温度が大きく異なる海水の境い目で、音波を跳ね返してしまう特性がある。その下に潜りこむことで、境い目より浅い深度を進む潜水艦や水上艦艇、航空機などのソナーから逃れることができる。

 そうした変温層は大抵の場合、太陽の光によって海面近くの海水が温められた結果に生じる。今は日が昇ってまだ時間が経っていないので、海水はなかなか温められないのだ。

 こうなればひたすら音を出さないように黙り込んで、神に祈るしかない。そして、先に音を上げたほうが負けだ。

「我慢比べになるな」

 するとソナーマンが指を鳴らして、艦長の注意を惹いた。

「新たな航空機が接近してきます」




洋上

 護衛艦<いせ>から発進した対潜ヘリコプターSH-60Kは現場の海域に到着した。P-1<ウツセミ7>への増援として派遣された機体である。

 SH-60Kはアメリカ海軍の対潜ヘリコプターSH-60を日本独自に改良したもので、ソナーや対潜戦闘システムが近代化されている。P-1のようにソノブイを使うほか、機体からワイヤーで吊るして海中に投入するディッピングソナーを装備している。

 谷口はSH-60Kの参加を喜んだ。ヘリコプターのローター音を聞いて、静かなP-1の騒音のことを忘れてくれるかもしれないと考えたからだ。谷口はSH-60Kに北から南へと高麗海軍の潜水艦を追い込むように索敵をするように要請した。

「追い込み漁といかないか?」

 谷口の誘いにSH-60Kの機長は応じた。SH-60Kは早速、谷口らは最初に潜水艦を探知したポイントの北へ飛んで、ディッピングソナーを海中に下ろした。




高麗海軍潜水艦<鄭地>

 <鄭地>のソナーはSH-60Kのローター音、それにディッピングソナーは水面に当たる音を捉えていた。

「我々をソノブイバリアに向けて追い込もうとしているようです。どうします?」

 ディッピングソナーは探知距離は小さいが、それを載せる哨戒ヘリコプターは小回りが利く。敵が執拗に捜索を続ければ、いずれは発見させるだろう。

 考え込みながら艦長は発令所に戻った。ディッピングソナーの捜索をやり過ごすにはもっと深く潜りたいが、惰性で進む今の<鄭地>の速度では舵が利かない。しかし速度を得るためにスクリューを回せば、ソノブイに捉えられる可能性がある。

「だが、やむをえんか…スクリューを回す。舵が利く最低限の速度を維持し、深く潜るぞ」

 <鄭地>はスクリューをゆっくりと回転させた。




P-1<ウツセミ7>

 <鄭地>は巧みに推進器を作動させ、スクリューキャビテーションをうまく雑音の中に紛れさせた。だから最初、<ウツセミ7>の2人のソナーマンはそれに気づかなかった。

 しかし、加治木1曹がふと雑音の中に混じっている微かな機械音に気づいた。

「ソノブイ25にコンタクト」

 加治木は隣のコンソールの東横とともにすぐに解析作業に移った。ソノブイ25からの音源の方位を精密に測定し、別のソノブイが目標を捉えていないか探る。別のソノブイが捉えていれば、両方のソノブイからの方位角から三角測量の原理で相手の位置を精密に特定できる。

 だが、キャビテーションはすぐに途絶えてしまった。

「目標の位置を確認できたか?」

 谷口が尋ねたが、問いから加治木が答えるまでの間の僅かな沈黙が全てを物語っていた。

「いいえ。方位角も十分な精度ではありません」

 加治木の報告がP-1<ウツセミ7>機内の雰囲気を暗くさせた。だが、谷口は諦めていなかった。

「お前はどう感じた?」

 加治木は谷口の問いの意味がよく分からなかった。

「どういうことですか?」

「お前の勘では敵はどこに居ると思っているんだ?」

 加治木はこのハイテク哨戒機の中で自分の勘が頼られるとは思ってみなかった。だが長年に渡ってソナーマンとして海上自衛隊で過ごしてきた彼は自分の感覚に自信を持っていて、それをこの場で試すことに不安は無かった。

 方位はだいたい分かる。問題は距離である。相手の発する距離を聞くだけのパッシブソナーでは目標までの距離を正確に測ることはできない。ただ実際に聞こえるスクリュー音からソナーマンが経験と勘を頼り割り出すしか方法は無いのだ。

 ソナーの反応は小さかったが、それが相手が遠いことを示すとは限らない。スクリューの回転数はそれほど高くなく、おそらく舵が利く最低限の速力を得るためにスクリューを回したのだ。推力を低く抑えているのであれば、騒音もそれほど大きくならない。

「ソノブイからそれほど遠くない…」

 ソノブイの位置がプロットされた海図を見ながら加治木は決断を下した。

「タコ、こちらSS-1。おそらくコンタクトはソノブイ25から方位3-4-0、距離は約6500の地点かと」

 谷口は加治木の報告に心躍らせた。

「よし。狩りに行くぞ。パイロット、目標の地点へと向かえ。オーディナンス、アクティブソノブイを用意しろ!」

 自ら音を発信し、相手に当たって反射し戻ってくる音波を捉えるアクティブソナー装備のソノブイは精密な探知が可能だが、探知範囲が狭くて数が限られる。パッシブソノブイで敵を捉えた後、攻撃の為に相手の正確な位置を特定するのに使う。谷口は今がその瞬間だと考えていた。



 SH-60Kの捜索活動は谷口が期待通りの効果をもたらしていた。彼らは結局、なにも探知できなかったが、低空で捜索活動を続けるSH-60Kの騒音は<鄭地>まで届き、高麗のソナーマンをひどく警戒させた。そのお陰でP-1の騒音を見過ごすことになった。



 問題の海域の近くまで達するとP-1は一気に高度を下げた。谷口は加治木が指定した海域の2キロ四方に賭けた。空振りに終われば、その隙に相手に離脱する恐れもあったが、彼はその危険を冒すことにした。

「オーディナンス!アクティブソノブイ投下!」

 谷口のその号令と同時に丸亀曹長がソノブイの投下ボタンを押した。2キロ四方の海域の四隅に1つずつソノブイを投下する計画だ。機体から離れたソノブイは一直線に海面へと向かい、着水して海中に消えた。



 続けざまに投下された4本のソノブイは順に甲高い探信音を海中に発した。そしてマイクロフォンはすぐに反射音を捉えた。

「コンタクト!敵艦です!」

 加治木は歓喜の声を上げた。同僚達も歓声で応えた。

(追加・2012/7/22)

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