表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
44/60

四二.甑島沖海戦1

 いよいよ皆さんお待ちかね!海戦パートです

7月3日

背振山地

 攻勢が続いている間に第6師団が到着していたらしい。第6師団は東北南部を担当地域とする3個普通科連隊編制の師団で、第20普通科連隊が西部方面普通科連隊の担当地域を、そして第22普通科連隊が第19普通科連隊の担当地域を引き継ぎ、第44普通科連隊は佐賀市市街で待機し、師団の予備戦力となる。

 第19普通科連隊は高麗軍の第三次全面攻勢を撃退した後に、再びダム湖の北のS字カーブの陣地まで前進していた。道路をさらに進んだ先にある川に架けられた仮設橋は爆破され、それ以上は前進できなかった。

 その後、第22普通科連隊の部隊が陣地を引き継ぐべく次々と到着した。第22連隊の隊員たちが陣地に入り、第19連隊が入れ替わりに後方へと下がっていった。

「ふぅ。これで一息つけるな」

 古谷が部下を整列させながら呟いた。桜井らレンジャーとも合流したが、小隊の人員は古谷も含めて16人まで下がっていた。彼らの前には第22普通科連隊の隊員たちが乗ってきた中型トラックが並んでいて、それに乗りこんで彼らは対馬海峡に面する唐津市まで行き、第16普通科連隊戦闘団と合流することになっている。合流した時点で戦闘団は解かれ、第4師団として行動するのだ。




東シナ海

 高麗海軍の潜水艦3隻が南下したという情報は海上自衛隊を緊張させた。目標は九州に続々と派遣される増援部隊を載せた船舶であることは明らかであった。

 増援部隊が上陸する港は主に大分県の別府港、熊本県の熊本港、八代港などであるが、おそらく東シナ海に面する後者2港へ向かう船舶が攻撃対象であると考えられた。

 そこで海上自衛隊は五島列島、島原半島、薩摩半島を結んだ三角形の海域に重点を置いて哨戒活動を活発にしていた。

 第2護衛隊群の残存艦、第14護衛隊の護衛艦、航空隊、それにオーバーホールを切り上げて戦列に復帰した第4護衛隊群が加わって高麗海軍の潜水艦を追っていた。第4護衛隊群の中で<まきぐも>は第3護衛隊群と行動を共にしていたので、代わりに高麗潜水艦の攻撃で戦力が半減した第2護衛隊群のDDGグループから残存艦艇を引き抜いて数をあわせた。

 しかし、隠密行動中の潜水艦の痕跡はなかなか捉えられなかった。



 上空を1機の航空機が飛んでいた。海上自衛隊の哨戒機P-1である。純国産のこの新型対潜哨戒機は4発の国産ターボファンエンジンで飛行し、最新の兵器システムを搭載していた。

 P-1、コールサイン<ウツセミ7>は鹿屋基地を拠点する第1航空隊に所属する機体である。機の指揮官である戦術(タクティカル)航空士(コーディネーター)の谷口1尉は自分の席の前に取り付けられた機体から張り出したバブルキャノピーに顔を押し付け、海面を舐めまわすように凝視していた。海上に見える痕跡、例えばシュノーケルの引く航跡を見つけようということのようだが、はっきり言えば無意味な行為だった。

 ディーゼル・エレクトリック艦といえども連続潜行時間はかつてとは比べ物にならないくらい長く、また燃料電池を使ったAIP機構を持つ孫元一級潜水艦は原潜に準じるほどの性能である。敵対水域のど真ん中でわざわざシュノーケルなど使うわけも無く、また仮に使っていたとしても彼の目が捉えるより先に、HPS-106対水上フェイズド・アレイ・レーダーが見つけて、それを担当するセンサーマン(SS)-3である安田1曹が谷口に知らせてくれる筈だ。

 勿論、そんなことは谷口も百も承知である。確実に南下している筈の敵潜水艦をなかなか見つけられない焦りが彼にそうさせたのである。

 すると2機の戦闘機らしき機影を見たとパイロットの須磨2尉から報告が入った。その方向に目を向けると、確かに2機のF-4戦闘機らしき機影がこちらに向かってくる。その翼には日の丸が見えた。

「友軍です。味方のF-4EJ改ですよ」

 敵味方識別装置(IFF)と対潜作戦指揮艦―護衛艦<いせ>が指定され、第2護衛隊群司令官の二ノ宮海将補が対潜作戦司令官になる―からの通報の両方で確認した航法通信士(ナビ・コム)の河津1曹が報告した。F-4EJ改を装備する第301飛行隊は最前線をF-15やF-2を装備する飛行隊に明け渡し、専ら東シナ海の哨戒を行なっていた。一世代前の機体とは言え、高麗空軍が襲い掛かってきたら彼らが頼りである。

「あれに乗るってのもどんな気分なんだろうなぁ?」

 接近してきたF-4EJ改のパイロットに手を振って挨拶をしながら谷口が口にした。彼はP-1に満足してはいたが、高機動な戦闘機を駆ってみたいという気持ちも少しあった。

「私はこれくらいで満足していますよ。音速の世界なんてとても。ゆったりなくらいが丁度いいですよ」

 須磨2尉がそう口にすると、機内の全員が笑い出した。誰もが須磨を必要ならかなり無茶な飛行をする男であり、“ゆったり”な奴ではないと知っていた。

 だがソノブイの監視を担当するソナーマンの1人、SS-2の東横2曹が突然、笑いを止めて黙り込んでしまった。それを見て他の搭乗員も顔色を変えた。しばらくして東横が声を張り上げた。

「ソノブイ17にコンタクト!」

 それを聞いた谷口はすぐに自分のコンソールを操作し、ソノブイ17のデータをロードして位置関係を確かめた。一方、東横も捉えた音紋を分析している。

「一軸推進、潜水艦です。ダイレクトパスですが、反応は微小…ただいまロスト!」

 ダイレクトパスということはソノブイからそれほど離れたところを航行していたわけではないということだ。針路は不明だが、目標は分かっている。敵は南へ向かっている筈だ。

 谷口は海流図の上にソノブイ17の位置をプロットした。高麗潜水艦は敵対水域の中で水上艦を迎撃しようと試みている。静かに素早く移動するとなれば海流を利用している筈だ。

「パイロット、こちらタコ。奴の前にまわりこむぞ!」

 機内通信を使って谷口は須磨に新たな目標を指示した。




護衛艦<いせ> 旗艦用司令部作戦室(FIC)

 対潜部隊の旗艦に指定された<いせ>には対潜活動に参加してくる全ての部隊、機体からデータが送られてくる。指揮官になった二ノ宮海将補は送られてくる莫大な情報が処理されるのを見守っていた。

 緒戦で高麗海軍潜水艦の襲撃を受けた敗残部隊の指揮官として名誉挽回の機会を与えられたことを喜ぶ一方で、敗軍の将が増援部隊を指揮下に置くことに後ろめたさも感じていた。しかしながら第4護衛隊群の旗艦は最後まで残った第1世代ヘリコプター護衛艦である<くらま>で、その情報処理能力は新世代艦である<いせ>とは雲泥の差があったのだから<いせ>が旗艦に選ばれたのは当然のことであった。

「ウツセミ7が潜水艦の痕跡を捉えました」

 オペレーターの1人がそう報告し、同時に付近の友軍部隊の動向を示すアイコンに埋め尽くされた大型画面に敵艦を示すアイコンが追加された。

「なるほど。我々は突破されたか…」

 第2護衛隊群のDDHグループは警戒水域の一番北に哨戒線を引いていたが、敵艦を示すアイコンはそれよりずっと南にあった。

 報告によれば探知した後、すぐに失探(ロスト)してしまったようでウツセミ7が最探知すべく動いている。

「増援部隊を送りますか?」

 幕僚の1人が尋ねたが、二ノ宮は首を横に振った。探知位置から友軍輸送船団まではまだ距離がある。当面はウツセミ7に任せておいて大丈夫だろう。所在不明の潜水艦がまだ2隻いるのだ。

「油断するなよ!まだ2隻いるぞ!」




P-1哨戒機ウツセミ7

 パイロットの須磨2尉は目的の海域に到着すると、ソノブイを投下できるように低空まで一気に降下した。

「オーディナンス、こちらタコ。いいぞ!投下しろ」

 谷口の命令を受けた機上武器整備員(オーディナンス)の丸亀曹長がソノブイの投下ボタンを押した。機体下部の投下口からソノブイが海面に落下していった。

 ソノブイはソナーとブイを組み合わせた造語で、その名前の通り投下されたソノブイは海上に浮いてマイクロフォンを海中に垂らし、情報を収集するのである。ウツセミ7が投下しているのは相手の発している音を捉えるパッシブソノブイで、それを一定の間隔を空けて投下し、海面にソノブイで高麗潜水艦の針路を遮るように東西方向に線を引いた。それを2列つくってソノブイ・バリアを構築し、高麗の潜水艦を捉えようというのだ。

「さぁ!来い!来い!」

 谷口はコンソールに向かって叫んだ。



高麗海軍潜水艦<鄭地(チョン・ジ)

 ドイツ製の214型潜水艦の韓国バージョンである孫元一級潜水艦は侮れない性能を持つ潜水艦であり、その2番艦である<鄭地>も例外では無かった。そのソナーはソノブイが海面に着水する音、それにP-1が海面近くを低空飛行する音を捉えていたのだ。

「ソナー探知!」

 ソナー手が報告すると、艦長はすぐに機関停止を命じた。

「なんだ?」

「ソノブイです。微かですが、哨戒機の音も捉えました。すぐに消えましたが…」

 あまり知られていないことではあるが、潜水艦のソナーは飛行中の航空機の音も捉えることができる。低空を飛ぶ哨戒機を察知することもできるのだ。だが、P-1の音紋を捉えることは難しかった。

 P-1は騒音対策が厳重になされており、P-3C以下の騒音レベルに抑えられていた。一般にターボファンエンジンはプロペラ推進式のターボプロップエンジンに比べ騒音が大きくなるものであることを考えれば、まさに驚異的なことであった。

「静粛を保て!」

 艦長は部下に改めて命じた。長い戦いになりそうだと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ