四〇.逆包囲
背振山地
高麗軍の砲撃が弱まったのを見て自衛隊は攻撃のために行動を開始した。第19普通科連隊の各中隊が攻撃位置まで前進し、増援として派遣されレーダーサイトに降下したアメリカ陸軍部隊も自衛隊が用意した車輌―自衛隊員個人の私物も混じっていた―を使って戦場まで向かっていた。
一方、桜井と宮永は狙撃で高麗軍中隊の前進を阻止し続けていた。2人は小まめに狙撃位置を変えながら攻撃を続け、高麗軍を釘付けにしていた。だが限界に近づきつつあった。
別の斥候班が高麗軍の別働隊と接触したという報告だった。どうやら高麗軍は別働隊を迂回させ、桜井と宮永を包囲するつもりのようだ。
「桜井!後退するぞ!」
2人は森の中に駆けて行った。
第19普通科連隊第1中隊から選抜されたレンジャー斥候班は奮闘したが、数で勝る高麗軍部隊に押されつつあった。それでも遅滞の役割は十分に果たしたと言える。その間に第1中隊と第2中隊は北上してくる高麗軍部隊を迎え撃つ準備を整えたのである。
この2個中隊は事前に用意されていた予備陣地に入った。第1中隊の1個小隊がダム湖の北から攻めてくる敵に備えるための警戒部隊となり、主力が道沿いで阻止線を張った。そして第2中隊は山中で敵に備えた。最初に敵に接触したのは第2中隊だった。
森の中を突破しようとした高麗軍部隊の先遣隊らしい1個小隊が自衛隊の防衛線の前に姿を現したのである。第2中隊の前哨陣地の1個班が高麗軍先遣小隊を撃退すると、中隊長はすぐに連隊長に報告をした。
報告を受けた第19普通科連隊長の野木1佐はただちに他の中隊に行動開始を命じた。第1中隊と第2中隊への攻撃を開始した高麗軍を背後から襲撃するのである。
高麗軍は野木1佐の読みどおり大規模な攻撃を行なってきた。前哨陣地を守る幾つかの小銃班は陣地から銃撃を加えて時間稼ぎをしつつ、中隊の81ミリ迫撃砲の支援を受けつつ主力の陣地まで後退した。
そして第2中隊は自分達の陣地正面まで前進してきた高麗兵部隊にあらん限りの火力を浴びせた。相手はほぼ2個中隊の兵力でそれをほぼ一点に集中して突撃してきた。守る第2中隊は元の兵力が半分な上に広く分散していたので、高麗兵の突撃を受けた部隊と突撃してきた高麗部隊の兵力にはだいぶ差ができた。それでも自衛隊員たちは巧妙に構築された陣地と81ミリ迫撃砲のような重火器の支援を受けて互角以上に渡り合っていた。
国道385号線を守る第1中隊の前にも高麗軍は現れた。相手の兵力は1個中隊で、先ほど桜井らに足止めを喰っていた部隊である。
こちらの部隊は森林を進んでいた部隊のように互角の戦いを繰り広げることはできなかった。兵力はほぼ同等な上に、広く散開していた森の中の第2中隊と異なり、第1中隊は道路上に火力が集中するようにキル・ゾーンを構築していたからだ。
その中には主陣地に戻っていた桜井と宮永の姿もあった。2人を含めた狙撃班は原隊には戻らず、そのまま部隊と部隊の間に入り、支援の任務についていた。
「なんだか可哀相になってきましたね」
桜井は自衛隊の激しい銃撃と迫撃砲攻撃を浴びている高麗軍の姿を見て思わず呟いた。
「あいつらは俺達の国に土足で踏み込んだんだ。当然の報いさ」
一方、宮永の方は双眼鏡を片手に新たな目標を探しながら、そう吐き捨てた。
「見つけたぞ。指揮官らしき奴だ」
宮永の観測を基に桜井は目標を見つけ、引き金を引いた。高麗軍はまた1人若い将校を失った。
国道385号線を進んでいた高麗軍は完全に阻止されてしまった。
一方、山中の高麗軍部隊はなかなか善戦していた。一点突破をはかった高麗軍に対して矢面に立たされた第2中隊は浸透を許しつつあった。高麗軍も突破を確信しつつあった。第19普通科連隊長である野木1佐が第3中隊と第4中隊に攻撃を命じたのはその時であった。
命令を下した後、野木1佐は指揮所が置かれている天幕の外に出た。久々の外の空気だった。澄んだ空気を吸い込み、空を見上げてから、あたりがだいぶ明るくなっていることに気づいた。山中の為にまだ朝日は拝めないが、もう朝だ。
第1中隊と第2中隊が高麗軍を阻止している間に第3中隊と第4中隊は前進していた。
連隊の総予備として坂本峠を背後にして陣取っていた第4中隊は国道385号線を北上し、県道136号線との交差点で停止した。そこが攻撃発起点だった。高麗は警戒の兵士さえ置いていなかった。高麗軍は全てを賭けて全兵力を突破に注ぎ込んでいたようだった。
第3中隊はトラックに乗り県道136号線を東へ進んでいた。ピストン輸送で運ばれてきた自衛隊員たちは国道385号線との交差点の1キロほど手前で降ろされ、そこから山の中へと入っていった。第3中隊は第2中隊を攻撃する高麗軍部隊を南西方向から囲む形になった。
第3中隊の後ろには米軍部隊、第27歩兵連隊第2大隊の将兵達も続いていたが、彼らは第3中隊が車を降りたずっと手前で徒歩に切り替えて山中に入っていった。
そして第3中隊と第4中隊は連隊長の命令を受けて、高麗軍に背後から襲いかかった。
国道385号線を北上していた高麗軍部隊は第1中隊に激しく叩かれたところへ背後から第4中隊に襲撃されて瞬く間に崩壊した。多くの将兵が降伏し、一部が散り散りになって逃げ出した。
一方、山中の高麗軍部隊はなかなか頑固に抵抗した。激しい銃撃が交わされたが、最終的に高麗軍は死体を残して包囲網の中で唯一穴が開いていた北西方面へと逃げていった。
ジョン・ハースト中佐は部下をなんとか配置につかせることに成功していた。中佐は2個中隊を横隊に並べ小さな丘の稜線に配置し、包囲網の穴を抜けてくるであろう高麗軍を待ち構えるように陣地を構築した。陣地と言っても塹壕を掘る時間もなく兵士を武器とともに並べただけのものであった。
彼らが使う武器はM4カービン、M249ミニミ軽機関銃と言った自衛隊のそれとかわり映えしないものもあったが、さらに7.62ミリ汎用機関銃M240、12.7ミリ重機関銃M2、40ミリ擲弾発射機Mk19といった各種重火器も加わっていて、それを60ミリ迫撃砲と81ミリ迫撃砲が後方から支援することになっていた。高麗軍はそうした兵力を配置し終えた直後にハースト中佐の思惑通りに突っ込んできて、米軍伝来の最終防御射撃を浴びることになった。
丘の上から高麗軍を見下ろすように配置されていた米軍の将兵達は高麗軍を十分に引き寄せてから引き金を引いた。
先頭を進んでいた高麗の兵士達は瞬く間に倒され、他の兵士達は伏せて動けなくなってしまった。高麗軍が止まった後も激しい銃撃が加えられた。特に強力なのはM2重機関銃で、木に当たれば太い幹もへし折れ、人体に命中すれば文字通り千切れて吹き飛んでしまう。その光景を見て高麗の将兵は士気を喪失していった。
さらに銃撃を受けている面々の後ろを後続していた高麗の将兵達には迫撃砲が浴びせられた。各中隊の60ミリ迫撃砲、増援として配属された重火器中隊の81ミリ迫撃砲の集中砲火を浴び、銃撃に晒されていなかった高麗の兵士達もその場に釘付けにされてしまったのである。
米軍の火力に高麗軍部隊が拘束されている間に自衛隊は素早く動いた。第2中隊は陣地から飛び出し、第3中隊も高麗兵の後を追った。自衛隊の2個中隊は高麗軍の退路を断ち、日米は4個中隊をもって約2個中隊の高麗軍を包囲した。高麗軍がこの事実に気づいたのは、米軍が射撃を止めて降伏勧告を行なったときであった。
既に手持ちの弾薬を撃ちつくしていた高麗軍部隊は勧告を受け入れるしかなかった。
かくして背振山地に浸透した高麗軍大隊は壊滅した。それを知った高麗海兵隊主力もこれ以上の戦力喪失を恐れて後退し、背振山地方面における戦闘は終わった。後は大宰府防衛線を突破した高麗陸軍部隊である。
とっと海戦に進みたいので、早足です。あじけない内容かもしれません。陸の後処理は次回で終えられるようにしたいです。
さてF-Xですが、F-35に決定して以来、インターネット上でもその決定に対して批判が相次いでいます。
よく挙げられるのは価格ですが、パッケージ価格190億円、機体単価百数億円という報道が正しいのであれば、私はそれほど高価だとは思いません。F-35のステルス性と高度なアビオニクスを考えれば妥当な価格ではないでしょうか?ちなみに対案としてよく出されるタイフーンの場合、サウジ向けで機体単価140億円だそうです。当時の為替レートですので、現在はもっと安くなっていると思いますが、F-35が突出して高いわけではないでしょう。
私がネット上のF-35批判を見て驚いたのは、批判する人々の兵器の価格に対する感覚です。F-35が高いと主張する人々の言葉によればイージス艦が500億円以下で建造でき(実際には1400億)、タイフーンは40億円以下で購入できるというのです。確かにそういう世界ならF-35は高すぎるのかもしれないですが…