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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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三九.転換点

ソウル 青瓦台

 高麗の首脳部はまるで葬式に参列しているかのような顔をしていた。

「つまり、総攻撃は失敗したということか?」

 大統領の詰問に国防部長は頷かざるを得なかった。

「現地の司令部は福岡の占領地の持久に方針を転換しました」

「まぁ、戦争というのは相手がいるものですからね。負けるときは負けますよ」

 ユリョン情報院長が他人事のように付け加えた。

「それで問題は我々の方針ですよ」

 ユリョンの言葉を受け、国防部長が声を荒げた。

「こうなれば福岡を持久するまでです。我々は日本の国土を占領しているのですから、それを背景に日本と交渉ができます」

「だが国連決議では即時撤退が謳われているが?」

 大統領の問いには外交通商部長が答えた。

「国連には我々を撤退させる物理的な手段などありません。持久できれば日本政府との交渉の余地は十分にあります」

 国防部長と外交通商部長は攻勢作戦が失敗して衝撃を受けたようではあるが、戦争そのものの見通しについてはまだまだ楽観的であった。そんな2人を情報院長は冷ややかな目で見ていた。

「しかしアメリカ軍が介入してくれば…」

 しかし大統領の方はそれほど楽観的ではなかった。国防部長はすぐに弁明した。

「大丈夫です。空海軍のみで防御にまわった陸軍部隊を撃滅することはできません。持久は可能です」

 ユーゴ紛争でNATO空軍が度重ねる空爆を行なってもセルビア軍に対してほとんど打撃を与えられなかった事例からも分かるように、空軍力や海軍力の打撃は強力ではあるが絶対的ではないのである。

「またアメリカ陸軍ですが、緊急展開部隊が相手であれば、それほど危険視する必要はありません。問題は重装備の部隊ですが、それの到着を遅らせられるように既に手を打ってあります」

 それから国防部長はアメリカ陸軍の重旅団戦闘団の装備を載せた船の迎撃に向かった孫元一級潜水艦について説明した。だが大統領は2人の閣僚に対して不信感を抱きつつあった。




航空自衛隊背振山分屯地

 東の空が白みつつあった。7月3日の朝を迎えようとしていた。

 背振山山頂には航空自衛隊第43警戒群のレーダーサイトが置かれていたが、緒戦で破壊されて現在に至るまで復旧していない。機能を停止した基地であった。

 だが、日付が変わるころより、その基地のグランドに次々と入れかわり立ちかわりにティルローター機MV-22オスプレイが着陸して部隊を下ろした。そして空が明るくなる頃に部隊の集結を終えた。増援として派遣されたアメリカ陸軍第27歩兵連隊第二大隊の面々であった。




国道385号線と県道136号線の交差点

 自衛隊の防衛線の背後へと迂回することに成功した高麗海兵隊大隊であったが、遠征軍司令部の方針転換により撤退が命じられた。迂回に成功した将兵達にとってみれば、まさに骨折り損のくたびれもうけといった状況だった。しかし、それ以上に将兵達にとって問題なのは彼らが自衛隊の防衛線の内側へと侵入した結果、逆の視点で見れば自衛隊の包囲下に入ってしまったということだ。そこで海兵隊の指揮官は突破作戦の計画を若干、変更することで対応しようとしていた。

 元来の計画ではダム湖の南に陣取る第19普通科連隊第一中隊及び第二中隊の陣地正面から南下してくる部隊の前進と呼応して、迂回した部隊が陣地の背後を襲い防衛線を瓦解させる計画だった。その計画を南下する部隊によって陣地に篭る自衛隊部隊を拘束し、その間に迂回部隊が背後から陣地を攻撃して突破を図るというものに修正した。

 早速、海兵隊は砲兵隊に撹乱のための射撃を要請するとともに、山中の第一中隊の陣地に向けて海兵連隊の迫撃砲を撃ち込んだ。

 幸い海兵隊の砲兵隊は陸軍ほど弾薬を消費していなかったので、強力な砲撃を行なうことができた。この時、自衛隊第19普通科連隊側は交差点の西側に第三中隊、南側に第四中隊が配置されていたが、激しい砲撃の為に陣地に篭ってやり過ごすしかなく、まったく移動できない状況に陥ったのである。つまり第一中隊と第二中隊は友軍の援護がない状態で高麗軍部隊の集中攻撃を受けることになった。



 桜井雄一は同じ小隊に属するレンジャーである宮永1等陸曹とコンビを組み、交差点に近い国道を見下ろせる場所に陣取っていた。四方八方から砲撃の激しい爆音が轟いていたが、彼らの周辺は不思議なことに静かだった。

 その理由はすぐに分かった。第19普通科連隊第一中隊の背後にまわりこんだ高麗軍部隊が交差点から北上して、彼らの前に現れたからだ。桜井は狙撃銃を構えて目標となる指揮官などを探す一方、宮永は無線で中隊本部に敵の出現を報告した。

 報告を受けた中隊本部は二方向からの挟撃を恐れた。




第19普通科連隊本部

 一方、連隊本部は師団司令部と緊密な情報交換をしつつ状況を見定めていた。

「それで高麗軍は攻勢を止めたというのか?」

 連隊長の野木1佐は次々と入ってくる情報をまとめ、そのように感じていた。高麗軍は攻勢を止めた。とすれば次はどうするか?

「もしかしたら主攻をこちらに移したのかもしれません」

 情報担当の幕僚が指摘した。ありうる話である。大宰府防衛線を正面から突破することに失敗した高麗軍が攻撃の軸を背振山地に移して、こちらからの突破を目指しているのかもしれない。

 だが、野木は違うような気がした。もしそうなら突破の為に部隊を高麗海兵隊の側で動かそうとする筈だ。そうした急な部隊の展開は必ず何らかの形で捉えられるはずである。しかし、そういう報告はなにもない。

 とすれば高麗はこちらから自衛隊の防衛線を突破しようとしているのではないのか?だとすれば突然の砲撃の理由はなにか?そして野木はある結論に達した。

「高麗軍は守勢に転換するために出陣した部隊を呼び戻そうとしているんじゃないか?」




ダム湖の南 第19普通科連隊第一中隊の陣地

 中隊長は連隊長の命令に目を丸くした。ダム湖から南下してくる高麗軍には最低限の抵抗のみをして、南から背後に迫る高麗軍に攻撃を集中せよというのである。第19普通科連隊は全力をもって孤立した高麗軍を叩くことに決めたのである。

 しかし、それにはまず高麗の砲兵を黙らせる必要があった。装甲車両を持たない第19普通科連隊は砲撃の下を攻撃の為に移動することはできないからだ。



 接近する高麗部隊を監視している桜井らにGOサインが下った。仲間の配置が終わるまで時間が欲しいので、出来る限り遅滞してほしいというのが中隊長の要望だ。

 もとより高麗軍の前進スピードはそれほどではなかった。徒歩歩兵が闇夜の中を待ち伏せを警戒しながら進んでいるのだから、当然であった。そして2人はそれをもっと遅くさせるつもりだった。

「桜井、いけるか?」

 宮永は暗視装置内臓の双眼鏡を構えて狙撃を支援する体勢をとった。レンジャーの一員として狙撃術の基礎は習得しており、桜井の観測手として支援するつもりだった。

「はい。目標を捉えました」

 桜井の方は部隊の指揮官らしき人間に照準を合わせていた。

「それじゃあいくか」

 宮永のその言葉を合図に桜井は攻撃を開始した。



 桜井らの前に現れたのは高麗軍大隊の中で先遣隊に指定された1個中隊であった。中隊長は先頭を進み、部下の前で陣頭指揮を執っていたが、それが仇になった。桜井に真っ先に狙われてしまった。

 目の前で突然、中隊長が血を噴出して倒れ、訓練された将兵達はすぐにその意味を理解した。

「狙撃だ!散開しろ!」

 先頭を中隊長とともに進んでいた第1小隊長が部下に命じた。が、その直後には桜井に撃ちぬかれ倒れた。隣に居た通信手も指揮官と運命を共にした。

 脱出を図った高麗軍部隊は恐慌状態になった。




第4特科連隊陣地

 一方、第4特科連隊は高麗海兵隊砲兵部隊に対して猛烈な対砲兵射撃を実行していた。第4特科連隊は同じ師団の普通科連隊に比べ緒戦における損害も少なく、しかも今までの間に激しい砲撃をあまり行なわなかったので大量の砲弾を備蓄していた。それが今、高麗軍砲兵隊に対して炸裂していた。

 対砲兵レーダーが高麗砲兵隊の放つ砲弾の軌道を捉え、そこから逆算して砲兵の配置を追う。そうしたデータは指揮所と各砲を結ぶ火力戦闘指揮統制システムFCCSを通じて自衛隊の主力野砲である155ミリ榴弾砲FH-70と砲手達に送られ、砲弾が撃ち込まれるのである。

 しかし高麗側も黙ってやられているわけではない。彼らにとって幸いなことに高麗海兵隊砲兵隊は自走砲を装備しており、素早い陣地転換が可能で、自衛隊側が砲弾を撃ちこむ前に移動してしまうこともあった。また彼らも少数ながら対砲兵レーダーを装備し、自衛隊の特科隊に対して射撃を行なっていた。自衛隊ほど正確ではなかったが、それでも第4特科連隊は無傷というわけにはいかなかった。

 だが、それにより普通科部隊への攻撃はだいぶ弱まった。

 というわけで前回、高麗の攻勢終了!後処理が終わったら次は海自のターンとか言ってましたが、後処理のために2~3話は陸自のターンが続きそうです。それが終わったら海自のターンですよ!本当ですよ!


(2012/5/17 訂正)

 登場する兵器の間違いと誤字を修正

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