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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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三八.包囲網

 天拝山の山頂を占領した陸上自衛隊部隊は体勢を整えるとすぐに山を下った。彼らの目標は山の中腹で友軍と交戦中の高麗軍の背後である。


 麓から登ってきた自衛隊部隊を迎撃していた高麗部隊は突然の背後からの攻撃に驚愕した。この時、兵力的には両者とも均衡していたが、前後を挟まれたことにより高麗側は圧倒的な不利に立たされる事になった。

 上と下から激しい銃撃を浴びせられ、逃げ場を失った高麗兵たちは追い詰められ、遂には耐え切れずに散り散りになった。多くの兵士がバラバラに逃げ出して、いくらかは捕虜になった。




都府楼南駅東側

 一方、第24普通科連隊の攻撃はそれほどうまくいかなかった。都府楼南駅周辺は線路の西側では田畑が広がる開けた地形だが、東側では住宅地が駅を基点にして扇状に広がっており、激しい市街地戦を戦うことになった。

 高麗兵は塀や家屋を盾にして陣取り、攻撃してくる自衛隊と撃ちあっていた。自衛隊は最初は国民の財産である家屋に対する攻撃に躊躇していたが、連隊長が号令を出して積極的な攻撃を進めた。

 高麗兵が立てこもる建物には容赦なく迫撃砲や戦車の砲撃が浴びせられ、施設隊は障害になるものがあれば時に爆破してでも排除した。

 それでも陣地に立てこもる高麗兵の抵抗は頑固で、戦闘は膠着状態に陥っていた。



 事態を打開したのは篭っていた山中から出陣してきた第42普通科連隊第1中隊の介入である。彼らは配属された90式戦車4輌を前面に押したてて、高麗軍の警備部隊を蹴散らしつつ県道31号線を北上した。そして高麗兵が篭る都府楼南駅周辺の北側を通る県道505号線への入り高麗兵の背後に回りこんだ。

 これに驚いたのは篭っている高麗軍大隊である。包囲される判断した大隊指揮官はすぐに上層司令部に指示を仰いだ。

 ここで高麗軍司令部はまたミスを犯した。戦況の判断を誤ってしまったのである。もしここで予備として待機している首都師団機甲旅団を投入すれば第24普通科連隊ならび第42普通科連隊第一中隊を蹴散らし、自衛隊の反撃を瓦解させることも可能であっただろう。だが久留米への突破作戦成功の可能性を捨て切れていない司令部は突破後の止めの役を担う機甲旅団の投入を躊躇したのである。そして司令部は大隊に対して死守を命じた。

 その間に自衛隊側は包囲網を完成させていた。




鳥栖市内

 川を越えた第7師団部隊は西日本鉄道の線路を越え、九州自動車道が大分自動車と長崎自動車道とに繋がる鳥栖ジャンクションの南に陣を構えた。

 次に前進の基準となるのは国道3号線である。高麗軍が久留米攻略の為に使ったルートの1つで、高麗軍部隊のまさに側面だ。それなりの防御を固めていると考えられたので、入念に攻撃の準備が整えられていた。



 その頃、高麗軍、特に再度の南進のために準備中だった第9旅団はようやく迫っている危機に気づきつつあった。

 鳥栖ジャンクション南に第7師団が陣を張っていることに気づいた彼らは先制して脅威を排除することを選んだ。そして準備を進めつつ、司令部に南進作戦の継続の可否を尋ねたのだった。

 そして第9旅団長ペク・キョクイルは早速、1個大隊規模の機甲部隊―戦車3個中隊に機械化歩兵1個中隊を配属―を派遣し、自衛隊部隊の排除を命じた。



 高麗軍大隊は斥候部隊を先頭に立てて進んできた。JR鹿児島本線を越え、国道3号線の交差点を越え、国道500号線を東へと進んだ。

 交差点から200メートルほどは道の両側に家々が立ち並んでいた、やがて開けた場所に出た。開けた場所からさらに200メートルほど先にまた家々が並んでいるが、地図によれば、そこは田畑の海の中に浮かぶ小さな島のようなもので、高速道路の周辺は全般的に田畑が広がる開けた場所であることを高麗軍指揮官が持つ地図が示していた。



 自衛隊の前哨陣地はその田畑の中に島のようにポツンと浮いている宅地の中にあった。暗視装置で前進してくる高麗軍の車列を認めた陣地の隊員は特科隊に対して砲撃を要請した。

 高麗の斥候隊が開けた場所に出てくるのを待って先遣隊に配属された特科隊は激しい砲撃を浴びせた。それを担ったのは自衛隊の最新の自走砲である99式自走155ミリ榴弾砲である。

 99式自走砲は射撃管制装置と連動した精密な射撃能力、それに自動装填装置を使用した毎分6発以上という連射能力を持ち、高麗軍はこれまでの戦闘で経験したことのない激しい砲撃を浴びることになった。

高麗の斥候隊は一旦、後退した。

 もちろん高麗軍もやられてばかりではいられない。砲兵隊に支援を要請―弾薬節約の為に陸自のそれに比べると控えめだった―するとともに、自前の迫撃砲で高速道路のまわりに砲撃を撃ち込んだ。

 そして、その間に高麗軍戦車部隊が突っ込んだ。中隊規模の戦車が開けた場所に出ると横隊に広がり、前哨陣地が築かれた集落を包囲するように展開して、一斉砲撃を加えた。家屋は破壊され、前哨陣地の隊員達は脱出のチャンスを失った。

 一方、その間に後続する部隊は前哨陣地を包囲する戦車隊の背後を進み、九州自動車道の脇まで達した。これから先が問題だった。

 高速道路は高架ではなく盛り土の上を走っていて、通常はそれを越すには道路を通すために開けられたトンネルを潜る他にない。当然ながらルートは限られ、簡単に待ち伏せをすることができる。

  高麗軍の司令官は強行突破を選択した。他に手段を選択している時間など無かった。再び砲兵と迫撃砲が高速道路の反対側にいるであろう自衛隊部隊に向けて牽制の射撃が行なわれた。

 その間に高麗軍のK1A1戦車隊が高速道路を突破した。射撃が効をそうしたのか、最初に突入した1個小隊4輌は難なく突破することができ、道の南側に扇状に広がった。それに中隊長車、副中隊長車が続く。別の小隊の4輌も突破し、道の北側に扇状に展開する。

 そして最後の小隊が突破しようとしたが、先頭のK1A1戦車の砲塔が吹き飛んだ。続く戦車も。残りの2輌がなんとか抜け出した。

 かくして畑を挟んで対峙した自衛隊の90式戦車と高速道路を突破した12輌のK1A1戦車の間で戦車戦が始まった。だが戦いは90式戦車優位に進んだ。

 K1A1は高速道路が通る盛り土を背後に背水の陣を敷いていたので、機動の余地が小さい上に、90式戦車側が数で勝っていたからだ。しかも自衛隊側は配属された普通科中隊の援護を受けることができた。89式戦闘装甲車には79式対舟艇対戦車誘導弾を装備しているし、隊員は01式軽対戦車誘導弾を持っていた。

 結果としてK1A1は次々と破壊され、壊滅した。しかし、自衛隊側も無傷で戦いを終えることはできなかった。9輌の戦車が被弾し、うち4輌が修理不可能なほど破壊されていた。

 K1A1のうち何輌かは修理可能な程度の損傷だったが、国道500号線は自衛隊が確保しており、退路は断たれていた。降伏するしかなかった。



 高麗軍は高速道路を越えた部隊を援護すべく新たな部隊を送り込もうとした。だが、それは高速道路を飛び越えて飛んできたミサイルによって打ち砕かれた。

 それは第7師団先遣隊に配属されていた96式多目的誘導弾であった。K1A1戦車隊は福岡攻防戦以来の対戦車ミサイルの間接射撃という珍しい攻撃の洗礼を受けることになった。誘導したのは孤立した前哨陣地に同行していた観測員だ。激しい敵の攻撃を浴びながらも彼らは攻撃目標を指示し続けた。それによってK1A1戦車隊は阻止されてしまったのである。

 結局、増援部隊の攻撃はそれで頓挫してしまった。

 勿論、さらなる攻勢をかけようと思えば、機甲大隊にはその余裕はあった。しかし他の部隊はそうではなかったのだ。砲兵隊は弾薬を撃ち尽くしかけていた上に自衛隊との対砲兵戦の結果、多くの戦力を失ってしまったのである。

 さらに第7師団先遣隊や他の部隊が攻勢に出たという一報を受け、守勢を保っていた第12旅団が、集結を完了した第7師団の後続部隊を配属されて北に向けて進軍を開始した。もはや高麗軍の攻勢の破綻は明らかだった。

 ペク・キョクイルは侵攻部隊司令部に対して作戦中止を進言した。




福岡市内 千里馬(チョリマ)遠征部隊司令部

 福岡市内の総合公園に陣を置いたチェ・チョンヒ将軍は第9旅団の順調な進撃に意気揚々としていたが、戦況が悪化するにつれて次第に硬直していった。そして、副官の報告に怒りを爆発させた。

「作戦中止だって!ふざけているのか!あともう一歩だというのに!」

 確かに第9旅団の先頭は久留米に達しつつあり、任務達成にはあと一歩のように見える。あくまで作戦継続を主張するチェ・チョンヒだったが、参謀達が必死に説得した。

「砲兵は弾薬が底を尽き、突破部隊は包囲されつつあります」

「既に奇襲効果は薄れています。これ以上の成果は難しいです」

「福岡という大都市を押さえているのです!今はこの戦果を維持することを考えましょう」

 参謀達の説得にチェ・チョンヒも考えを変えざるをえなかった。

「分かった。やむをえん。福岡確保の為に戦線を縮小する。部隊の脱出を許可する」

 しかし、それは簡単なことではなかった。第9旅団と第13旅団のほぼ全ての部隊が今、自衛隊の包囲下にある。

 第13旅団のある大隊はJR都府楼南駅周辺で包囲され、別の大隊はJR天拝山駅及び西鉄の朝倉街道駅周辺で孤立している。そして第13旅団最後の大隊と第9旅団は鳥栖市内に取り残された。一方、背振山地で交戦中の海兵隊部隊も連れ戻す必要がある。これを連れ戻すのは骨が折れる仕事になる。

 というわけで遂に自衛隊は高麗軍最後の攻勢を打ち破りました。取り残された高麗軍を始末したら、次は海上自衛隊のターン!の予定なんですか…予定通りになるかな?

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