表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
4/60

三.ステルス駆逐艦

東シナ海 アメリカ海軍【エセックス】遠征打撃群 駆逐艦【マイケル・モンスーア】

 ズムウォルト級駆逐艦はアメリカ海軍の区分では駆逐艦に分類されているが、かなり奇妙な軍艦であった。外見を見て、まず気づくのは船首の特殊な形状である。ズムウォルトの船首は下方向に傾斜していて先端は水面下にある。通常の船とは逆である。波浪貫通型船首(ウェーブピアシング)と呼ばれるこの形状は高速でも安定して航行できる特性があるが、レーダーの電波を上空に反射してステルス性を向上する効果もある。乾舷も普通とは逆に内側に傾いているタンブルホーム船型も同様だ。艦橋構造物も内側に傾斜した平面の壁で構成され、アンテナや各種機器は壁の中に埋め込まれ、手摺さえ外からは見つけることが出来ない。つまりこの軍艦は極めてステルス性が重視された艦であるということがわかる。

 そもそも船体そのものが巨大だ。満載排水量は1万5000t弱で、アメリカ海軍の現存する唯一の“巡洋艦”タイコンデロガクラスよりも巨大な“駆逐艦”なのだ。そして甲板には2つの砲塔らしきものが見えるが、なぜか砲身が見えない。それはレーダーに捕捉されないように格納されているからだ。もし射撃状態のズムウォルト級が貴方の目の前にあったとすれば、貴方は駆逐艦には不相応な巨大な大砲を見ることができるだろう。それこそがズムウォルト級駆逐艦を象徴する兵器である62口径155ミリ単装砲AGSだ。AGSとは先進砲アドヴァンス・ガンシステムの略で、長射程誘導弾を使った場合にその射程は185kmに達する。

 ズムウォルトはつまるところ旧来の砲艦の再来である。冷戦後にアメリカ海軍が掲げた新戦略“海からの(フロム・ザ・シー)”を体現する艦であり、洋上から陸上に対して火力を提供し、それによって国益を守るのが最大の任務なのだ。アメリカ海軍の戦略は敵艦隊の撃滅という日露戦争後に日本を相手に始まって冷戦の終わりとソ連崩壊によって事実上終焉した目標から、大航海時代から始まる本来の海軍的任務に移行したのである。

 そしてズムウォルト級の2番艦として第7艦隊に配属されたのがDD1003【マイケル・モンスーア】なのだ。その艦長を任されたのがアメリカ海軍初の女性戦闘艦艦長であるポーリー・レントン中佐だ。彼女はCICで部下たちとともに中国軍の動向に注意を払っていた。

 そこへ通信士が受信した命令文を持ってやってきた。レントンは受けとって黙読した。発進元はハワイの太平洋軍司令部であった。レントンは読み終えると、主要な士官は艦長室に集まるように命じた。




東シナ海 アメリカ海軍空母【ジョージ・ワシントン】

 アダムス艦長が艦内を歩いているとパイロット同士が言い争っているのが見えた。パイロットの1人が飛行隊長になにかを言い寄っていて、もう1人のパイロット―たぶんウイングマン―がそれを抑えている。

「何事だね?」

 アダムスが飛行隊長に尋ねた。

「コルビッツ大尉が日本に出撃させろ、とうるさいんです」

 するとコルビッツは、今度はアダムスに言い寄ってきた。

「それが我々のやるべき任務でしょう。同盟国が侵略を受けているんですよ?それなのに俺達はそれを目の前にして中国と戦争ごっこをしている。こんな状況が許されるわけがない」

「コルビッツ大尉。戦争ごっこだと?これも立派な任務だ。軍の職務をバカにするようなマネは許さんぞ」

 そこへ任務群司令であるフランク・スチュワート少将が姿を現した。

「艦長。君の飛行隊を借りたいんだが」

 アダムスはスチュワートのところへ駆け寄って幾つか言葉を交わした。それからコルビッツの方に目を向けた。

「よし。だったらお前を日本に出撃させてやる」




強襲揚陸艦【エセックス】

 第31海兵遠征隊はこの時点でアメリカ軍が日本に投入可能な陸上戦力の全てであった。

 海兵遠征隊は各種部隊で増強された海兵大隊を基幹として編制される小規模な遠征部隊で、その規模のために僅か揚陸艦3隻でも展開して自前の物資だけで独立して2週間作戦行動が可能であるという機動性の高さを誇る。海兵遠征隊の任務は紛争が発生した地域にまっさきに出撃し、その拡大を抑えて後続部隊の到着する時間稼ぎをすることである。

 アメリカは日本と韓国の戦争に介入するかどうかはまだ不透明な状況であるが、アメリカ太平洋軍は戦争行為にならない範囲で行動を行なう決断をした。第31海兵遠征隊から増強1個中隊を基地の警備増強を名目に佐世保に派遣するというのもその1つであった。というわけで第31海兵遠征隊の大隊上陸チームC中隊が【エセックス】の甲板に集結していた。彼らは5機のMV-22オスプレイに搭乗して佐世保を目指すのである。



 MV-22はCH-46シーナイトやCH-53シースタリオンといったそれまでの大型輸送ヘリコプターを代替する目的で開発されたヘリコプターと飛行機の間の子的な航空機、ティルトローター機で、離着陸時にはプロペラを上に向けてヘリコプターのように垂直に飛行し、上空ではプロペラを前に向けて飛行機のように高速飛行できるのである。



 C中隊の指揮官、ウィンターズ大尉は大隊長のアフマド中佐から指示を受けていた。アフマド中佐はアラブ系の将校である。9.11同時多発テロ以来、アメリカにおけるアラブ人の立場は芳しくはないが、アフマド中佐は祖国への献身を一層示して、その状況を何とかしようと考えた者の1人であった。その立ち位置は第二次世界大戦時の日系人部隊に通じるものがある。

「名目はあくまでも警備の増強だが、君がやるべき任務は情報収集だ。日本側の了解もとってあるから、必要に応じて偵察班を派遣しろ」

 C中隊は大隊司令部直轄の武器小隊から迫撃砲1門を、STA小隊―つまり観測及び目標要求小隊―から数個の偵察班を配属されていた。実のところ、派遣部隊の主力はSTA小隊偵察班なのだ。

「よし。出撃だ」

 C中隊の海兵たちはそれぞれ割り当てられたオスプレイに乗り込んだ。ウィンターズ大尉は先頭のオスプレイに乗った。まず護衛のAH-1Zヴァイパー攻撃ヘリコプター2機が発進し、それに続いてオスプレイが1機ずつ飛び立った。彼らは上空で護衛の戦闘機と会合する手筈であった。




空母【ジョージ・ワシントン】

 2機の戦闘機がカタパルトに接続されていた。戦闘機はかつて連合艦隊司令長官山本五十六の搭乗する一式陸攻を撃墜したことで知られるP-38戦闘機に由来してライトニングIIの愛称が与えられている。形式番号はF-35C。それはアメリカ軍が空海軍及び海兵隊の主力となるべく開発した統合打撃戦闘機(ジョイント・ストライク・ファイター)であった。

 F-35は空軍向けのA型、垂直離着陸機であるB型、そして空母艦載機であるC型の3タイプが存在するが、C型は海軍において敵に第一撃を与える機体と位置付けられていて、そのためステルス性が一番高く、しかも燃料搭載量がもっとも多いという特徴を持つ。



 2機のF-35Cには長崎へ向かう海兵隊部隊の護衛が命じられた。護衛機の存在をアピールして敵の攻撃を抑止するためか、本来ならステルス性を維持するためにレーダー波を遮断できる機内の武器格納庫に収められるのが通例のミサイルを翼の下に吊るしている。そのコクピットに収まっているのはコルビッツ大尉であった。

<たく。お前がゴネたせいで俺までとばっちりじゃないか>

 ウイングマンが無線越しにぼやいている。

「いいじゃないか。これが軍人の任務ってもんさ」

 戦闘機の背後でジェット・ブラスト・デフレクターが立ちあがった。甲板作業員や他の航空機をジェットの排気から防護するための壁であるJBDのお陰でコルビッツはエンジンの出力を上げる事ができる。F-35に搭載されるF135ターボファンエンジンは推力が双発機に近い17t以上になる化け物のようなエンジンである。その排気は凄まじいものになる。

 その頃、甲板では戦闘機を飛び立たせるべく甲板要員たちが忙しなく働いている。彼らは仕事ごとに色分けされているジャケットとヘルメットを身につけていて、コルビッツ大尉はその中でも緑色のジャケットを身につけたカタパルト要員たちである。彼らはF-35とカタパルトの固縛を確認すると、コクピットのパイロットとカタパルト管制装置に座るカタパルト士官に小さな黒板を見せた。そこにはF-35Cの現在の重量―正確には現在そうなっている予定の重量―が書かれている。

 それを確認するとカタパルト士官は原子炉から供給される蒸気を調節した。カタパルトの蒸気圧は機体の重量や天候、気候に応じて細かく調節される。もしこれを誤れば、戦闘機は海面に突入したり、逆に固縛されている前輪だけが機体から外れて飛んでいくことになったりするのだから、その責任は重大である。カタパルト士官がGOサインを出した。

 それを見たコルビッツはエンジンの出力をアフターバーナーなしでの最大出力まで上げた。それとともにカタパルト士官が発進ボタンを押した。

 蒸気圧により一気に機体を飛行速度まで加速させ、空中に押し出した。2機のF-35Cは一瞬落下した後、急上昇していった。




佐世保基地

 2機のF-35CライトニングIIと2機のAH-1Zヴァイパーに護衛されて10機のオスプレイがヘリポートに交代で着陸して兵士たちを次々と吐き出していく。ウィンターズ大尉が真っ先に降り立ち、部下達を誘導していく。

 一時間して200名弱の兵士たちが全員降り立った。これが北九州有事におけるアメリカ地上軍の最初の展開であった。




駆逐艦【マイケル・モンスーア】艦長室

 集まった指揮官たちにレントン艦長は早速任務を説明した。

「つまり、対馬海峡の偵察任務を行なえ、ということですか?」

 副長のウェブスター少佐が艦長の説明を端的にまとめた。

「そうなります」

 艦長はウェブスターの言葉を肯定すると、集まった指揮官たちはそれぞれに思考を巡らせ、任務の達成が可能か考えた。

「レモラ大尉。対馬海峡における高麗軍の状況で分かっていることは?」

 副長は艦付の情報将校に尋ねた。

「情報はあまり多くありません。ただ艦隊は分散して、上陸部隊を輸送する艦艇の護衛を行なっているようです。我々が最も警戒すべきは高麗空軍のE-737早期警戒機で、一定の水上捜索能力を持つと考えられます。ただ、なんにしろ高麗海軍が我々を攻撃しようとはあまり思わないでしょうね」

「それはなぜだね?」

 【マイケル・モンスーア】のステルスシステムに全責任を持つ電子戦担当士官のストレイヤー大尉が尋ねた。

「高麗軍は【マイケル・モンスーア】のレーダーエコーやスクリューキャビテーションに関する十分なデータを持っていません。我が艦を確実に識別することが不可能なのですよ」

「だからと言って攻撃をしないとは限らないぞ!」

 それを聞いてレモラは嘲笑しながら言葉を返した。彼はいささか自信過剰なところがあった。

「対馬海峡は中立船舶で溢れているのですよ。そんなところで識別不明の艦船を攻撃するなんてマネできますか?」

「そこまで!」

 いい加減にケンカになりそうなところを艦長が止めた。

「レモラ大尉の意見は十分な説得力がありますが、しかし、戦場なのは間違いありません。ストレイヤー大尉の懸念するような事態も当然、想定して行動しなくてはなりません。他に意見のあるものは?」

 誰も居なかった。

「よろしい。これより任務に向かいます!」

「アイアイ、サー」

 しかし現実のズムウォルト級は2隻だけで建造中止とか言われていますが、どうなるのでしょう?これに限らずF-35とP-8は順調にデスマーチ中だし、LCSは文字通り炎上してるし、F-22は生産中止だし、次期偵察ヘリはコマンチはさすがにしょうがないにしても、代替の廉価版まで中止しちゃったし、20年後のアメリカ軍は大丈夫なんだろうかと思う今日この頃であります。


(追加 2012/7/25)

 一部内容を改訂。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ