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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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三七.反撃開始

佐世保基地

 アメリカ陸軍第25歩兵師団は日本とも縁が深い部隊である。“トロピック・ライトニング”の異名を持つこの師団は太平洋戦争勃発直前にハワイで編制され、その後に日本との戦争に投入されることになった。ガダルカナルを皮切りに、ニュージョージア、ルソンの戦場で日本軍と戦い、日本の降伏後には占領軍として関西地区に進駐した。

 朝鮮戦争、ベトナム戦争を経てハワイに帰還した第25歩兵師団はアジア地区における緊急展開部隊として見なされるようになり、日本有事に際しては日本への増援第一陣に指定され、今回も実際に陸軍部隊の第一陣として九州に上陸した。

 ハワイのスコフィールド・バラックスから展開した第25師団第3旅団は歩兵2個大隊を基幹とする軽歩兵部隊で、建前として佐世保の海軍基地警備の任務に就いていたが実のところまだ役目が与えられていなかっただけであった。

 兵士達は中隊ごとに交代で海兵隊とともに警備任務に就いていた。6個のライフル中隊のうち2個中隊が警備に、2個中隊が休息に、そして2個中隊が非常事態に備えて待機という態勢だった。そして突然、待機中の2個中隊と重火器中隊の一部が呼び出された。

 2個中隊が集結すると彼らの前には第27歩兵連隊第2大隊の指揮官と海兵隊のMV-22が待っていた。大隊長のジョン・ハースト中佐は兵士達が集まるのを待って宣言した。

「諸君。戦場に行くぞ」




朝倉市郊外

 闇夜の中、ただ西に見える閃光と爆音だけが男達にこれから赴く先が戦場であることを知らせている。擬装が施された74式戦車に87式偵察警戒車、それに90式戦車や89式装甲戦闘車といった重車輌が出撃のときを待っていた。

 彼らは陸上自衛隊の切り札である第7師団の先遣隊であった。高麗軍の攻勢が始まると戦力予備部隊となっていた彼らは、すぐに出撃の準備をした。だが彼らに久留米防衛の命令は下らなかった。代わりに命じられたのは高麗軍の進撃路を迂回しての北上だった。国道210号に沿って東へと向かい、高麗軍が突破しようとしているところよりもずっと上流から筑後川を渡った。そして最終的に第7師団先遣隊が集結したのは鳥栖の10キロ東にある朝倉市であった。集結したのは第71戦車連隊に第7偵察隊と普通科中隊、特科大隊を加えた戦闘団で、自衛隊の貴重な機甲部隊であった。

 そして、第7偵察隊を先頭にして遂に機甲部隊が西へ向けて進撃を開始した。国道500号線に沿って縦隊で進む戦闘団。やがて小郡市に入り、筑後川から分かれて北へ、筑紫野市方面へと向かう宝満川に渡る橋の前まで達しようとしていた。

 最初に到達したのは戦闘団主力から先行していた偵察隊で、87式偵察警戒車のセンサーが橋の前に築かれた防御陣地を発見した。戦闘団の司令官は強行突破を選択した。90式戦車を前面に押し立てて突撃した。

 配属された特科大隊の99式155ミリ自走榴弾砲、それに普通科中隊に同行していた96式120ミリ自走迫撃砲が突撃を支援するために高麗軍の陣地に砲弾を叩き込んだ。といっても、戦車隊が陣地に接近するまでに陣地の兵士を釘付けにするために行なった短時間のもので、それほど大きな被害をもたらしたわけではないが、それでも突然の砲撃により高麗兵は衝撃を受け、塹壕の中で固まってしまった。

 そこへ90式戦車の小隊が突撃してきた。至近距離から高麗の陣地に120ミリ主砲を撃ちこみ、塹壕を乗り越えて蹂躙する。そして、後ろから普通科中隊が追従してきて、残った高麗兵を制圧した。

 その間に戦車隊は橋を渡り、宝満川を越えた対岸で防御態勢をとった。かくして自衛隊は久留米市に向けて南進する高麗軍の根元を攻撃するための進撃路を確保した。



 不可思議なことに高麗軍は自分が攻撃を受けるとはまったく思っていなかったようだった。だが、戦場では珍しいことではない。どうしても人は自分の都合のよいように物事を考えがちである。

 高麗軍は久留米市を背にして防衛線を敷いている自衛隊部隊―第12旅団―に気をとられて、側面を守っていた部隊からの通信が途絶えたことを気にも留めていないようであった。また防御部隊そのものも呆れるほど脆弱であった。偵察隊が川を渡って偵察を行なったが、宝満川に架かる橋を守っている部隊以外に防御部隊を置いていないようであった。

「単に忘れていただけなのか…それとも兵力が払底しているのか…」

 戦闘団を自ら指揮していた戦車連隊長は偵察隊の報告を聞いて、高麗軍の守りの弱さに驚いていた。

「これほどの好機はありません。戦闘団主力を前進させましょう」

 幕僚の進言に連隊長は無言で頷いた。



 第7師団先遣隊が高麗軍の防御ラインを突破して更なる進撃を行なう報告を受けた西部方面隊は待機中の別の部隊にも前進を命じた。待機中の部隊とは高麗軍の第三次攻勢により散り散りになった第8師団の各部隊だった。彼らは攻撃で一時バラバラになったけれども、各地で集結を終えていた。

 第42普通科連隊の第一中隊及び第二中隊は依然として大佐野スポーツ公園周辺で篭城を続けているし、同連隊第3中隊が合流した川の東岸の第24普通科連隊も健在である。そして最後の防衛線を担っていた第12普通科連隊の残存部隊も筑前町郊外に集結を終えていた。

 高麗軍は短時間での決着を求めるあまりに進撃速度ばかりを重視し、敵部隊を混乱させて無力化するだけで満足して殲滅を怠っていた。しかし残存部隊はやがて混乱から立ち直ってしまうのだ。つまるところ電撃戦の致命的な弱点を自衛隊に突かれてしまったのである。

 というわけで上述の各部隊が同時に長く伸びた高麗軍の後方連絡線に噛みついた。第24普通科連隊は第8戦車大隊の90式戦車2個中隊(1個小隊欠)の援護を受けて都府楼南駅周辺を占領中の高麗軍第13旅団の大隊と攻撃した。

 一方、第12普通科連隊は第8戦車大隊の残り1つの中隊の90式戦車14輌の増援を得て前進して鹿児島本線原田駅の周辺を占領した。高麗側の抵抗は薄く、ほぼ無血占領であった。こうして国道3号線、県道17号線といった鳥栖方面へのルートが遮断され、第12旅団と戦っている高麗軍第9旅団は退路をほぼ断たれた。

 そして第42普通科連隊残存部隊は戦車小隊を配属した第1中隊をもって前述の第24普通科連隊と戦闘を続けている高麗軍第13旅団大隊の背後を襲い、味方を援護するとともに、第2中隊をもって天拝山山頂で孤立した小隊の救出に向かった。




天拝山麓

 第42普通科連隊第2中隊の救出作戦は中隊直轄の81ミリ軽迫撃砲と連隊から配属された120ミリ重迫撃砲の一斉射撃から始まった。一大反攻作戦ということで、これまでの持久戦の方針から転換して弾を出し惜しみすることなく砲撃したのである。

 突然の砲撃に驚いたのは天拝山陣地を包囲していた高麗兵だった。狩る立場だったのが突然に狩られる立場に変わったのである。勿論、高麗兵たちは自分達の背後で孤立している自衛隊部隊について無警戒であったわけではなかったが、あまりに突然の変化についていけなくなっていた。

「前進、用意!前へ!」

 砲撃が止むと同時に第2中隊の隊員達は小隊ごとに縦に並んで天拝山に対して駆け出した。しばらく前進するとある小隊の隊員達に銃撃が向けられた。しかし高麗側は混乱から立ち直っていないようで、自衛隊に対する対応は組織的な行動ではなかった。

「散開!散開!」

 高麗軍と激突した小隊の指揮官は号令を発して、縦隊を組んでいた小隊を横に広げさせた。隊員達は的を囲むように広がりつつ、木の陰や障害物の後ろに伏せて銃を敵に向けた。高麗側も対抗するように横に広がって自衛隊側に撃ち返してきた。結局は壮絶な撃ち合いになった。

 お互いの発砲の際に生じる発射音や発射炎(マズルフラッシュ)を頼りに照準をして引き金を引く。両者が使うミニミ機関銃は脅威度が高いうえに目立つので、機関銃手は頻繁に動き回り射撃位置を変えなくてはならなかった。



 別の小隊は闇夜が味方したのか、敵と遭遇することなく頂上近くに接近した。隊員達は頂上が近づくにつれて緊張が高まっていった。頂上の部隊が小隊を敵と間違えて友軍相撃という事態も考えられるので、接近は慎重にやらなくてはならない。

「現在、そちらに接近中。確認できるか?交信送れ」

 小隊長が無線で頂上の陣地に呼びかけていた。

<こちらからは目視確認できない。合図をしてくれ。送れ>

 相手からの返事が返ってきた。意識ははっきりしているようであるが、小隊長は相手が疲れきっていているように感じた。

「分かった。ライトでVの字を描く。それは味方だ。確認できたら無線で伝えてくれ。送れ」

<了解。送れ>

「交信終わり」

 無線連絡を終えると小隊長は隊員の1人を呼び出して、ライトを持って合図を送るように命じた。指名された隊員は小隊の先頭に立ち、ライトを頂上の方に向けて掲げた。スイッチを入れて、Vの字を描くように手を動かして合図を送る。

<確認した。来てくれ>

 頂上陣地からの連絡が着て安全を確保すると、小隊長は部下に命じた。

「小隊前進用意!前へ!」

 隊員達は静かに、そして素早く頂上までの最後の道を駆け上った。すると陣地の一角に設置されたミニミ機関銃が見えた。機関銃手は友軍を誤射しないように、銃口を上に向けていた。救援小隊はそこから陣地の中へと入っていった。

「よく来てくれました」

 機関銃手が救援小隊を出迎えた。小隊長はその姿を見て驚いた。その機関銃手は身体のあちこちに包帯が巻かれ、あきらかに重症だった。

「君!その怪我で戦っていたのか!」

 救援小隊の指揮官の問いに機関銃手は微笑んだ。

「まだ動けますから。戦わなくてはいけないでしょう」

 そう言われて小隊長が周りを見回すと、陣地に篭って戦っていた隊員達は皆、大なり小なり負傷をしていた。動ける限り戦わなくては、とても維持できなかったであろう。

 すると下の方から激しい銃声が聞こえてきた。戦闘はまだ続いているのだ。

 おかげさまでお気に入り小説登録数が世紀末の帝國に続いて100越えを達成しました。読者の皆様、応援ありがとうございます。今後の日韓大戦をお楽しみに。

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