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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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三六.阻害

ダム湖南の第19普通科連隊陣地

 高麗軍はすぐには攻撃を仕掛けてこなかった。爆破した橋を架けなおすのに苦労したのか、それとも確実に待ち構えている敵の陣地に躊躇したのか、高麗軍は占領した自衛隊の陣地周辺に待機していた。ただ一度、偵察隊が威力偵察を仕掛けてきただけで、簡単に撃退された。だが自衛隊の陣地の位置は明らかになってしまった。

 そして久留米の防衛線に対して夜襲を仕掛けたのとほぼ同じ頃、第19普通科連隊と相対する高麗海兵隊が再び攻撃を仕掛けてきた。桜井らの待機する陣地に激しい砲撃が加えられたが、昼間の攻撃とは異なり榴弾砲ではなく迫撃砲が主体であった。砲兵はやはり砲弾不足に苦しんでいるらしい。

 煙幕に紛れて高麗海兵隊が前進してきた。先頭は戦車である。しかし、第19普通科連隊の陣地から距離をとって湖岸に布陣し、そこから陣地に向けて戦車砲を撃ち込んできた。

 第19普通科連隊の隊員達は陣地に篭っているので、戦車砲の射撃くらいで被害を受けたりはしなかったが、陣地に釘付けにされることになった。

「これは…」

 桜井は距離をとって砲撃ばかりし、前進してこない高麗軍を見て思った。これは本命ではない。



 高麗軍攻撃部隊は親部隊である第5海兵連隊から2個中隊の増援を得て夜襲を実行して。そして高麗軍の本命は山中を迂回してきた歩兵部隊で、その規模は1個大隊に達していた。桜井ら第一中隊が釘付けになっている間に彼らを迂回し、さらに第一中隊の左翼を守っていた第二中隊の陣地も避けて後方に回り込んだのである。彼らは連隊の最終防衛ラインに近づいていた。




道の駅『吉野ヶ里』 第19普通科連隊本部

 連隊本部に緊張が走った。桜井らが陣取る防衛線、ダム湖畔の南にある国道385号線と県道136号線の交差点周辺に高麗軍が出没したとの一報が入ったのだ。

「敵の兵力は?」

 第19普通科連隊の指揮官、野木1佐の問いに幕僚は首を振った。

「不明です」

 野木は呻きながら作戦地図を見た。連隊の残りの中隊は第3中隊と第4中隊であるが、第3中隊は交差点の西、県道136号線沿いに防衛線を展開し、第4中隊は東背振トンネル入り口前に陣を敷いている。つまり即応できるのは2個中隊である。

「相手の兵力が分からないとなると、積極的な行動はとりづらいな…」

 陣地に篭っての防御戦なら数の劣勢を塹壕の防御力で補えるが、野戦ではそうはいかない。無闇に攻勢を仕掛ければ思わぬ被害を受けることになりかねない。

「各中隊は現位置で待機。弾薬残量を知らせよ。情報小隊を前進させ、敵情を確認させる」

 連隊長はテキパキと指示を出した。

「しかし。食い込んだ敵を叩くには、もう少し戦力が欲しいな」




ダム湖南の第19普通科連隊陣地 第一中隊本部

 桜井は小隊に所属する他のレンジャー徽章所持者2人とともに小隊長に呼び出されていた。小隊長、古谷3尉は3人とともに中隊本部に出頭するように命じた。

 本部には第一中隊のほかの小隊に所属するレンジャー隊員の他、第二中隊の隊員の姿もあった。合わせて14人で、だいたい1個分隊半の戦力である。第一中隊長は全員が集まったのを確認すると、早速切り出した。

「後方に侵入した高麗軍の警戒の為に臨時にレンジャー班を編成し、私の指揮下に入ってもらう」

 それから第一中隊長は詳細な指示を出した。ようするに高麗海兵隊主力と相対する第19普通科連隊第一中隊と第二中隊の陣地が背後から攻撃されないように警戒をしろというわけだ。レンジャー達は二人一組の7班に分かれて、国道385号線を南へと下っていった。




天拝山

 一方、大宰府防衛線では天拝山山頂に取り残されていた1個小隊が厳しい戦いを続けていた。高麗軍は最初の攻撃に失敗すると、自衛隊主力への攻撃を優先して天拝山の陣地は包囲するに留めていたが、この陣地からの観測により高麗軍部隊への砲撃が続き後方支援部隊に大きな被害が出たことから再び山頂陣地への攻撃を決断したのである。

 こちらも榴弾砲ではなく迫撃砲の支援を受けて突撃を仕掛けてきた。暗視装置で監視をしていた隊員がそれを発見し、すぐに特科隊に通報された。

 最初に放たれたのは照明弾だった。激しい光が闇夜の中から突撃してくる高麗歩兵の姿を浮かびださせる。それと同時に自衛隊側が射撃を開始した。しかし小銃は連射ではなく単射ばかりで、ミニミ短機関銃でさえ引き金を一瞬だけ引くことを繰り返して弾薬の節用に努めている。

 山頂を守る小隊の頼れるのは味方の支援砲撃だけだった。すぐに突撃してくる高麗軍の上で榴弾が炸裂して、突撃してくる歩兵隊をなぎ払ってしまう。だが各地で高麗軍の夜間攻勢が続く中、天拝山の支援だけに火力を集中するのは不可能だ。他の重要な戦線、さらに天拝山からの観測による新たな目標への射撃が優先されて、天拝山への支援は不十分になりがちである。

 その結果、僅かであるが高麗歩兵が山頂陣地の防御線に達したのである。

「手榴弾!」

 迫りくる高麗兵に山頂の隊員達は手榴弾を投げ込む。高麗側も負けじと投げ返す。小爆発が繰り返され、その間を縫って高麗兵が山を登っていく。自衛隊側は巧みに陣地を移動しながら射撃を繰り返し、高麗軍の突撃を凌いでいた。

 しばらくして銃撃が途絶え、陣地に静寂が戻った。銃を構えていた隊員達はそれからようやく攻勢が終わったことを悟った。

「現状で待機。全員無事か!」

 指揮官が陣地の中を駈けずりまわり、隊員1人1人の安否を確認していった。5人が負傷し、2人が戦死していた。死者はこれで8人目になった。

「残弾を確認しろ!」

 確認結果をまとめると山頂を守る小隊の残存する弾薬は4分の1以下に成っていた。次の攻撃があれば持ちこたえられない。小隊長と小隊陸曹は言葉を交わして、そう結論づけた。




鳥栖市と久留米市の境界

 高麗軍と自衛隊の間の夜間戦闘は事実上膠着状態に陥っていた。客観的に見れば両者は拮抗していたが、当事者達は自分の方が不利になりつつあると感じていた。

 自衛隊側から見れば軽装備のヘリコプター機動部隊―建前だけであるが―で重武装の機械化部隊に立ち向かっているわけだから、それだけで現場の隊員にとっては辛いことであった。戦いも攻めてくる高麗軍を迎え撃つという受身の戦闘であり、隊員達の士気は削られていくことになった。

 一方、高麗軍も焦っていた。言うならば高麗軍の作戦は、かつてのドイツ軍が見せた電撃戦の焼き直しである。機甲戦力の突破力と機動力を武器に一気に突破するのが肝だ。だが攻めあぐねている。スピードが命の電撃戦において停滞は致命的である。なにしろ予備兵力は自衛隊側の方がはるかに多い。時間が経てば経つほど高麗軍は不利になる。

 かくして戦場では不思議なことが起こった。双方とも自分が不利と感じ、双方の指揮官とも仕切り直しが必要だと考えた。そして、双方とも後退した。高麗軍は鳥栖市内の拠点に戻り、自衛隊は筑後川と宝満川の間の中州に陣を敷きなおした。

 というわけで激しい戦闘は突然に終わり、静寂だけが残った。双方にとって不本意な結果だったが、実際のところ高麗にとって後退という決断は致命的だった。つまるところ高麗軍指揮官の不安は的中していたのだ。電撃戦において停滞こそが致命的なのである。

 最近、執筆速度が落ちてまして申し訳ございません。

 さて前々回、トム・クランシーの最新作『デッド・オア・アライヴ』を紹介しましたが、読んでみた感想を1つ。…世界設定が破綻してないか?『大戦勃発』以前のジャック・ライアンシリーズと微妙に矛盾が生じているような気がするのですが。

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