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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
35/60

三三.前進あるのみ

五島列島の南西 海上自衛隊第1護衛隊群

 ストライカー旅団の装備を運ぶ船団の護衛を命令された第1護衛隊群はその任務をつつがなくこなしていた。今のところ敵との接触は無かったが、隊員たちの士気は任務らしい任務を与えられたことで高まっていた。

 海上自衛隊の護衛隊群は2つのグループから編制されるが、この時は護衛艦<ひゅうが>を中心とする対潜能力が高いDDHグループが船団の前を進み、待ち伏せしている可能性のある高麗潜水艦を警戒する。そして防空能力の高い<きりしま>を中心とするDDGグループは船団の北側側面に展開して高麗軍のミサイル攻撃を警戒している。

 群司令官の水無月は<ひゅうが>のCICで各地から集まる情報をまとめた戦況図とにらみ合いをしながら、状況が変化する時に備えていた。

「戦力が続々と集結しつつあるな」

 水無月が注目していたのはトカラ列島に沿って北上してくる新たな船団だった。船団はアメリカ軍のものでTF75という任務部隊番号が与えられる。

「ディエゴガルシアからようこそ」

 インド洋最大のアメリカ軍の拠点であるディエゴガルシア。そこには中東で非常事態が発生したときに備えて重旅団戦闘団(HBCT)の装備と物資が一個旅団分、海上集積船に載せられて待機している。北上してくる船団とはその海上集積船と護衛なのだ。

 その時、水無月のもとへ首席幕僚の藤堂1佐が駆けてきた。

「護衛艦隊司令部より緊急電です」

 そう言って電文を印刷したものを手渡した。そこには<そうりゅう>が捉えた高麗の潜水艦の情報が書かれていた。

「よし警戒をより厳重にしないとな」




第12普通科連隊陣地

 県道に面する陣地は激しい砲撃を受けていた。攻撃の準備として高麗軍は上陸したほぼ全ての砲兵隊を動員し、その半分を県道沿いに設けられた陣地に向けていた。第12普通科連隊の第一中隊と第四中隊は高麗軍の激しい砲撃を前に、陣地の中に篭るしかなかった。

 砲兵隊の残りの半分は自衛隊のほかの陣地に向けられていた。激しい砲撃で各地の部隊を動けなくさせて、攻撃の穂先が向けられる第12普通科連隊陣地に増援を送らせなくしようというのだ。見当はずれな場所に落ちた砲弾も多かったが、陸上自衛隊側の機動を制限する効果はあった。さらに副次的な効果として広範囲にわたる砲撃のより各所で火災が発生し、日本側にそれへの対処を負わせたのである。

 激しい砲撃に発煙弾が混じるようになった。突撃する部隊を自衛隊から目隠ししようというのだ。

 砲撃が収まり、塹壕に篭った自衛隊員たちが掩蓋から顔を出したのとほぼ同時に、白煙の向こうからK1A1戦車が現れた。それと同時に高麗の歩兵隊が装甲車を降りて、自衛隊の陣地に向かって突撃してくる。

 自衛隊側は重火器を構え、阻止射撃を加えるが、そこへK1A1戦車が砲撃を加えてくる。勿論、自衛隊もだまってやられるわけではない。厳重に隠匿されていた各種の対戦車兵器が次々と姿を現してK1A1部隊に攻撃を仕掛ける。

 両者の放つ曳光弾が交差し、爆発音が絶えることなく鳴り響く。激しい火力の応酬に両者多くの死傷者が出ていた。しかし消耗戦になると兵力が劣る自衛隊側がどうしても不利になる。陣地に篭っているという利点も、戦車を含めた装甲部隊の火力の前に相殺されてしまう。

 遂に高麗歩兵隊が自衛隊陣地の一角を突破した。

「後退!後退するんだ!」

 かくして高麗軍は大宰府防衛線の最後のラインを突破した。




熊本 西部方面総監部

 西部方面総監は戦況図を見ながら悪化する状況に呻いていた。

「戦略予備の部隊は動かせるんだよな」

 幕僚たちは頷いた。

「よし。問題はやつらがどこに向かうかだ」

「おそらく鳥栖、久留米方面かと」

 幕僚の一人が県道17号線を指で辿った。その先には九州自動車道の鳥栖ジャンクションがある。そこから西には長崎自動車道が、東には大分自動車道が伸びている。また国道もそれに併行して存在している。さらに南へ進めば筑後川を渡り久留米に出る。

 鳥栖、久留米の一帯を占領すれば九州の東西の連絡線を1つ断ち切り、西に進めば背振山地に布陣する第4師団主力の後方を脅かすことになる。妥当な戦略である。

「よし。第12旅団を進出させる。対戦車ヘリコプター隊の援護をつけて、筑後川を背後に陣を敷かせるんだ」

 総監の命を受け、それを実行すべく部下たちが動き始めた。

「ところで、その他の戦線の様子はどうだ?」

 情報担当の幕僚がただちに報告をした。

「第24普通科連隊及び第43普通科連隊は激しい砲撃を受けていますが、彼らの正面では高麗軍は攻勢に出ていません。第4師団正面にも激しい砲撃が浴びせられ、第19普通科連隊が高麗海兵隊と思われる部隊による攻撃を受けています」




背振山地 第19普通科連隊陣地

 こちらでも高麗軍と自衛隊が激しい砲火を交わしていた。河を間に挟んで両者は睨み合い、銃撃を加えていた。

 自衛隊員たちは塹壕から小銃や機関銃を出して高麗軍に向けて連射している。そんな塹壕と塹壕の間に高麗軍の軽迫撃砲弾が落下して爆発する。河の向こうの道路では新たなK1A1戦車の残骸が燃えていて、それの陰に高麗海兵隊員が身を隠しながら自衛隊に撃ち返している。そして別の戦車が陣地に砲撃を行っている。

 桜井雄一は両者がフルオートで激しい撃ち合いをする中でほとんど引き金を引かずにいた。64式狙撃銃はそういう射撃をする銃ではない。桜井は銃弾が飛び交う中で冷静に敵の指揮官や通信兵の発見に努めていた。そしてそれらしき者を見つけたら、ただちに狙撃をした。こうして彼は敵を1人ずつ確実に減らしていった。

 ふいに桜井の視界が真っ白になった。高麗軍が砲撃に発煙弾を混ぜたようだ。

「敵が撤退していくぞ!」

 誰かの叫び声が聞こえた。彼の言葉を裏付けるように銃撃が次第に収まっていった。発煙弾は高麗軍が撤退する自軍を援護するために撃ってきたのだ。

 散発的に砲撃は続いていたが、とりあえずは敵の襲撃を撃退した。激しい砲撃で陣地は滅茶苦茶になっていた。そして隊員たちは虚脱して、戦場は静まり返っていた。

「全員、集まれ!集合するんだ!」

 そんな中で古谷3尉の声が響いた。

「次の陣地に移動する!荷物をまとめるんだ!」

 命令が出たことで隊員たちはキビキビと動き出した。荷物をまとめ整列すると小隊ごとに輸送隊から派遣されたトラックに乗り込み、後方に築かれた次の陣地へと向かう。移動を待つ隊員たちは残る陣地にトラップを仕掛けていく。さらに施設科―より一般的な軍事用語で言えば工兵―が川に架かる橋に爆薬を仕掛けた。

 桜井らの所属する第19普通科連隊第一中隊は新たな陣地に向かう一方で、第一中隊の背後に控えていた第二中隊が高麗兵と相対することになる。彼らは第一中隊が次の陣地を整えるまで時間を稼ぐのである。



 一時間後、高麗海兵隊が再び攻撃を仕掛けてきた。国道385号線を南下し、頑固に抵抗を続ける陣地に向かう。規模は戦車小隊と戦車橋を装備する工兵が配属された1個歩兵大隊だ。そのうち1個中隊が自衛隊の防衛線の手前で部隊主力から離れ、徒歩で川を渡る。迂回し敵陣地を側面から攻撃しようというのである。

 そして主力部隊も自衛隊陣地の正面まで到着しようとしてた。川の対岸に陣地があり、川越しに攻撃してくるのだ。そして、その陣地には再び高麗砲兵隊が激しい攻撃を加えている。砲撃が終わると同時に別働隊が自衛隊の陣地に側面攻撃を仕掛け、それに続いて本隊が突破する計画だ。

 やがて砲撃が終わった。陣地の方から爆発音が轟く。

「敵と交戦しているのか?どうぞ」

 大隊長が別働隊の指揮官に尋ねると、すぐに返事が返ってきた。

<いや。敵は撤退している。兵士が置き土産に引っかかったんだ>

 それを聞いた大隊長はただちに大隊主力に命じた。

「前進せよ」

 それから別働隊に新たな命令を発した。

「道に出るんだ。そこで合流する」

 大隊主力は国道をまっすぐ進んだ。その先はU字カーブになっていて、橋を渡って自衛隊の陣地の背後に出る。そこで別働隊と合流するのだ。射撃を浴びることなく難なく進み、ついに橋の前に出た。しかし、進撃はそこで止まった。橋を落とされていたのである。

 だが高麗軍にとってそれは想定の範囲内だった。だからこそK1AVLB戦車橋を随伴されているのだ。K1AVLBはK1戦車の派生型の1つで、車体の上に60tまでの重量に耐えられる仮設橋の橋桁を載せ、それをアームで塹壕や川に架けて味方部隊の進撃路を確保するのだ。

 それに先立ち歩兵隊が徒歩で川を渡り、対岸の安全を確かめる必要がある。というわけで歩兵達が川の前に立った。その時、対岸から銃撃が彼らを襲った。

 対岸にも道路が続いていて、橋を渡ったところで急カーブになっている。道路はそのまま先ほどまで高麗海兵隊を苦しめていた自衛隊の陣地の背後に繋がるのであるが、そのカーブの側面は塀になっていて、銃撃はその上からだった。

 それと同時に対岸の別働隊からも緊急の無線連絡があった。

<道路に出ましたが、反対側の林の中から銃撃を受けています>

 桜井ら第一中隊の背後に築かれた第二中隊の陣地である。

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