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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
33/60

三一.激突

都内

 衆議院に続き参議院でも自衛隊の防衛出動が承認され、自衛隊は自らの戦闘行動についてようやく法的な根拠を得たのである。

 国会議事堂の外ではマスコミが議員を掴まえてインタビューをしようと待ち構えていた。多くの議員が掴まり、その中には民生党の菅野議員の姿もあった。彼はインタビュアーに笑顔で答えていた。

「こうした災いが続くときこそ政権交代が必要なんですよ」

 菅野議員が力説する最中、無数の携帯電話が一斉に鳴り出した。議員のものもあれば、マスコミ関係者のものもある。メールで届いたものもあれば、電話で知らされたものもある。しかし内容は全て一致していた。

“高麗軍が九州で再攻勢”




九州

 高麗軍の砲撃は全前線に渡って行われた。しかし主攻は大宰府防衛線に向けられていた。激しい砲撃に続いて強烈な攻撃により自衛隊の防衛線を粉砕しようというのだ。

 しかし大宰府防衛線は自衛隊側がもっとも防御に力を入れている防衛ラインである。いくら高麗軍は増援を得た機甲部隊を持つと言っても正面から突っ込んで突破できるものではない。というわけで高麗軍は大宰府防衛線を側面から攻撃して戦線を瓦解させる作戦にでた。

 大宰府防衛線の西の要、天拝山。高麗軍の攻撃はそこに向けられた。ここを迂回して防衛線を側面から攻撃しようというのである。そのためには山そのものを確保する必要があった。

 機械化歩兵中隊が配属された1個戦車大隊が国道三号線に集結して自衛隊の注意を引きつつ、別働隊が天拝山西側の牛頸ダムから天拝山と、その南へと浸透攻撃を仕掛けるのである。

 別働隊は装甲車から降りた歩兵部隊で、その規模は2個大隊に達していた。そのうち1個中隊が天拝山山頂に向かい、残り主力が南下していった。



天拝山山頂

 山頂には特科隊の観測所も兼ねた防御陣地が築かれていて、普通科1個小隊が守備についていた。そこに激しい砲撃の嵐が降り注いだのである。第42普通科連隊の守備隊員と第8特科連隊から配属された観測員は塹壕陣地の掩蓋の下に隠れて砲撃を凌いだ。いくらかの器材が被害を受けたが、頑丈な陣地に守られて人員の損失はなかった。

 しばらくすると砲撃が止んだ。普通科隊員の1人が陣地から恐る恐る顔を出して下を覗くと、陣地に向かって山を駆け上ってくる高麗兵の姿が見えた。

「敵襲!迎え撃て!」

 指揮官の号令で普通科隊員達は慌てて掩蓋の中から飛び出し、それぞれの銃器を構えて配置についた。

「撃ち方はじめ!」

 89式小銃が、ミニミが一斉に火を吹き、高麗軍の突撃を阻止すべく弾幕を張る。弾の消費量を気にせず、89式もフルオートで銃弾を敵に送り込む。何人かの高麗兵が倒れ、残りは木や岩、地面の窪みなどに慌てて姿を隠す。

 一方、観測員は猛烈な射撃を浴びせる普通科隊員の傍らで射撃指揮所に目標の情報を口頭で伝えていた。すぐに特科連隊のFH-70や普通科連隊の迫撃砲が高麗兵に撃ち込まれた。

 もちろん高麗側も黙ってやられたりはしない。弾幕射撃を阻止すべく迫撃砲が自衛隊の陣地に撃ち込まれる。また砲兵隊も自衛隊の特科部隊に対して対砲兵戦を仕掛けた。

 両者の砲兵部隊が天拝山陣地の上を飛び越して弾を撃ちあうようになると、陣地を巡る攻防戦はこう着状態に陥った。



 一方、天拝山を迂回した高麗軍の主力部隊は牛頸ダムを経由して県道137号線へと躍り出た。県道137号線を東へと進めば、大宰府防衛線の背後へと至るのである。勿論、第42普通科連隊もこういう事態を見越して警戒部隊を配置していたが、それはごく少数であり瞬く間に突破された。

 対峙している高麗軍部隊から激しい射撃を受け、さらに後方への浸透を許した第42普通科連隊は混乱状態に陥っていた。そこへ正面から高麗軍機甲部隊が突破を図ってきたのである。



 大宰府防衛線における第42普通科連隊の防衛線は西鉄天神大牟田線の都府楼前駅からJR鹿児島本線の都府楼南駅を経て天拝山を結ぶラインに敷かれていた。重点は県道31号線正面に置かれていた。

 九州自動車道との交差地点の近く、県道31号線に面する丘に築かれた陣地には第一中隊及び第二中隊を基幹とする増強二個中隊が配置されていた。

「畜生。どうなっているんだ?」

 小学校の裏に設けられた指揮所で一帯の防御戦の指揮を任されていたのは2つの中隊の指揮官のうち経験の長い第一中隊長で、第二中隊長が前線で指揮を執っていた。第一中隊長は頭を抱えていた。連隊本部はだいぶ混乱しているようで、具体的な指示が来ない。

 その時、通信機の前に陣取っていた隊員が声をあげた。

「隊長!前哨陣地が敵の先頭を捉えました」

「迎え撃つぞ!警報を出せ!」



 県道31号線に面する防衛線には第8戦車大隊の1個小隊、4輌の90式戦車が配属されていた。北海道の戦車部隊の大幅縮小という喜ばしくない理由により九州にまわされてきた90式戦車は第8師団の虎の子的な存在であった。

 4輌の戦車は陣地に篭り砲塔部分のみを地上に露出し、さらにその上から厳重に擬装が施されていたので、簡単には見つけることはできない。実際、高麗軍縦隊の先頭を進む戦車中隊は彼らの存在に気がつかなかった。

 高麗軍はまずK200装甲車を装備する機械化歩兵小隊を配属したK1A1戦車中隊を先に進ませて安全を確認してから大隊主力を進ませるようだ。殿は先頭の戦車中隊に歩兵小隊を貸した代わりに、戦車小隊が配属された歩兵中隊である。自衛隊は敵先遣隊を攻撃せず、後に続く本隊に攻撃を集中することにした。

 敵先遣隊をやり過ごして高麗戦車大隊本隊が姿を現すと、隠蔽されていた戦車と普通科の対戦車兵器が一斉に射撃を始めた。

 最も目立つのは90式戦車の120ミリ主砲だ。自衛隊が使う弾が旧式なこともあって陳腐化している感のあるラインメタル44口径120ミリ滑腔砲であるが、至近距離での射撃だったこともあり高麗軍のK1A1戦車の砲塔を見事に貫いた。

 一方、対戦車ミサイル群も負けてはいない。中隊対戦車小隊の87式対戦車誘導弾に加えて、陣地には第42普通科連隊対戦車隊に配備された新型の中距離多目的誘導弾が配属されていた。これらのミサイルはK1A1戦車に対して絶大な威力を発揮し、見事に数輌の戦車を撃破した。

 高麗軍戦車大隊は進撃を中断し、主力の戦車隊は障害物に身を隠しつつ砲口を自衛隊の陣地に向けた。一方、殿の歩兵中隊は自衛隊陣地のずっと手前で停止し、装甲車を降りて陣地を側面から攻撃しようと動き出した。

 前線で部隊を指揮する第二中隊長は敵高麗軍を撃退できると自信を持った。



 小学校裏の指揮所で指揮を執る第一中隊長はそれほど楽観的にはなれなかった。最初の計画ではこの陣地で敵を止めて、その隙に都府楼南駅付近に展開する第42普通科連隊に配属された戦車中隊の主力が高麗軍を側面から攻撃して蹴散らす手はずになっていた。しかし戦車中隊は動かなかった。

 連隊本部は迂回攻撃を仕掛けてきた高麗軍歩兵の攻撃から退避していて連絡がとれず、しかも退避する前に戦車中隊の方は迂回してきた高麗軍歩兵部隊への対処を優先するように命じていたからだ。

 指揮系統がズタズタになり、部隊は混乱の中にあった。



 最初の一撃で打撃を受けた高麗軍であったが、打撃から立ち直り自衛隊に対して反撃をはじめていた。県道からK1A1戦車が支援射撃を加えつつ、高麗歩兵隊が陣地の後方、側面に回りこんで攻撃を仕掛けてきたのである。高麗歩兵隊は後方から増援を受けて、自衛隊を数で圧倒し、次第に陣地を包囲しようとしていた。砲兵隊の激しい砲撃に戦車の攻撃、自衛隊側は次第に圧倒され、90式戦車が一輌撃破されてしまった。

 増援が得られないことを悟った第一中隊長は陣地の放棄を決定した。だが、高麗軍の迂回攻撃により既に退路は塞がれていた。

 大宰府防衛線に綻びが生じていた。




新田原基地

 高麗軍の再攻勢とともに空中での戦いも再び激しさを増していた。付近の航空基地からは戦闘機がひっきりなしに飛び立ち、高麗空軍もしくは高麗陸軍に対して攻撃を仕掛けていた。

 そんな中でこれまで3機の高麗機を撃墜した野々宮純一は出撃できずにいた。

「なにもこんな時に配置転換なんてあんまりじゃないですか!」

 この時、彼は部隊から一旦離れて沖縄に飛ぶように命じられていた。その命令そのものは以前から出ていたもので高麗軍の攻勢と重なったのは偶然だったが、野々宮は命令を実行すべき時ではないと主張していた。

「私が敵機3機を撃墜したのだから休んでいいとおっしゃるなら、大きなお世話です。私は前線で戦いたいのです」

「言っておくが君に休暇を与えるつもりではない」

 声を荒げる野々宮に上官が冷静な口調で言った。

「パイロットのローテーションが苦しいのは事実だが、君の抜けた穴は埋められる。君には特別な技能を生かして、今後行われるであろう反攻作戦の切り札になってもらう」

 上官の言葉の意味が野々宮にはよく分からなかった。

「どういう意味です。確かに私は3機の敵機を撃墜しましたが、それは単に他の者よりチャンスに恵まれたからであって、自分に特別な技能があるとは思っていません。勿論、自分の操縦技術に自信はありますが・・・」

 それを聞いた上官は首を横に振った。

「違うのだ野々宮三佐。君には第304飛行隊の中では君だけ、空自全体でも数名しか有していない特別な技能がある」

 少しの沈黙を挟んで上官は続けた。

「君は第6航空団時代にF-15改IIの試験運用に関わっていたね」

 そういえば9月は日韓大戦を更新していなかったんですね。


追加(10/29)

 感想欄での指摘に基づき、防衛線の指揮官の表記を変更しました。


(改訂 2012/3/23)

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