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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
27/60

二五.その頃、日本では

国会議事堂 

 衆議院の安保委員会が野党の審議拒否により停滞しているとはいえ、別に国は防衛問題だけを扱っているわけでもなく国会は他にも様々な問題について審議をしている。だから今日も安保委員会以外の常任委員会は平常運転をしていて、閣僚たちは自らに割り当てられた部屋で委員会が始まるのを待っていた。

「総理」

 菅井官房長官が烏丸首相の部屋の戸を叩いた。

「入ってくれ」

 烏丸が返事をすると戸が開き、菅井官房長官、そしてそれに続いて中山防衛大臣が姿を現した。

「何事だね?」

 総理の問いに答えたのは防衛大臣であった。

「情報本部が中国軍の不審な通信を傍受しました」

 中山は情報本部が傍受した通信文を日本語に翻訳したものを総理に手渡した。烏丸は中に目を通すと怪訝な表情をした。

「つまり、これはどういうことなんだ?」

「どうやらロシアと中国の国境付近で小規模な戦闘があり、その地区を担当する人民解放軍の将軍が行方不明になっているということです」

「それは今の有事となにか関係あるのかね?」

 総理の疑問に中山は一瞬言葉を詰まらせた。

「結論を言えば、まだ判断はできません。件の将軍は統一以前より北朝鮮との強い繋がりで知られた人物で、統一以後も高麗政府と関係を維持していた可能性があります。まだ、どのような影響があるかは断言できませんが、注視していく必要があるかと」

 それで中山の報告は終わった。次は菅井の出番だ。

「総理。事態収拾後の方針ですが」

「やっぱりそうなるかぁ」

 社会民生党が野党と連携している以上、平常な政権運営は不可能である。野党が不信任を提出すれば確実に可決する状況なのだ。さすがに有事が続く間はあからさまな行動はしないだろうが、事態収拾後になんらかの行動に出てくるのは明らかである。

 現内閣の支持率は下がる一方である。マスコミ曰く理由は総理の指導力不足だそうで、野党が一方的に審議拒否をしているにも関わらず防衛出動が承認されないのは烏丸総理の責任なのだという。

 民生党を中心に野党は総理の辞任を求めて止まないし、マスコミも堂々とは言わないが暗に烏丸の辞任、そして政権交代を主張している。もちろん、実際に彼らの言うとおりに辞めたら、“無責任だ!”と批判されるのもお約束である。

 しかしながら国家の指導者として何らかの形で責任をとらなければならないのも事実だ。そして、野党を納得させて有事を円滑に処理するためにも、その方針を提示すべきであるし、その時が来たというのが菅井の判断であった。

「個人的には辞任するのが筋だと思うが、君たちは困るだろう?」

 総辞職をすれば民生党内閣の成立は確実で、自由民権党は野党となる。そしてここにいる全員が民生党は日本を背負っていけるとは思っていなかった。

「解散して打って出るしかないが、君たちは勝てるのかな?」

「現状では難しいでしょうな。でも、しないわけにはいきません」

「そして、それを宣言しろということだね」

 菅井は頷いた。

「ただし具体的な時期は明言すべきではありませんな。あくまで事態収拾後に。この有事を終わらせた後で無いと、わが国の政治は大変なことになります」

 言い終えたところで時間が着た。これから彼らは予算委員会に出席しなければならない。




福岡市 油山

 開戦初日に桜井と黒部、それに荻原たち民間人たちが決死の脱出行をした油山は、平時には森林に溢れている市民の憩いの場として機能していた。中腹には展望台もあり、夜景の名所として知られている。

 展望が良いということは市内の様子を探るには丁度良いということで、偵察隊の拠点が築かれるのも必然であった。

 ワトソン少尉率いる偵察班が市内を一望できる油山の中腹に観測拠点を設けてから丸二日が経った。彼らは高性能望遠装置と衛星電話を持ち込んでいて、市内の高麗軍の様子を上層部に伝えていた。市内の高麗部隊の配置をあらかた通報し終えた彼らが目下のところ注目しているのは博多港であった。

 高麗軍の福岡占領以来、博多港は高麗軍にとって重要な補給拠点となっている。毎日、高麗から補給物資を積んだ貨物船が入港するのである。今のところ日本側はそれに対して碌な妨害をしていなかった。

 理由はいくつかある。航空自衛隊が現在の自軍勢力圏の防空を第一とし、戦力温存のために攻勢を控えているので対馬海峡上空の航空優勢は高麗側が握っていた。それ故に海上自衛隊も待機を余儀なくされていたのだ。

 また対馬海峡には多くの中立国船舶が航行していたことも日本側の補給遮断攻撃を躊躇させていた。第3国を巻き込むことになれば外交上不利になりかねない。

 しかし、そうした状況は好転する気配があった。前者については政府が防衛出動の国会承認に向けて動いている。それが通れば守勢にまわっていた部隊も積極的な作戦ができるようになる。後者についても開戦から時間が経ち、対馬海峡から中立国船舶が姿を消しつつあった。戦場であろうとかまわず突っ込んでくる無謀な船が無いことも無かったが、それは極少数であった。

 そして攻撃が始まればワトソンら偵察班の情報が威力を発揮するに違いない。彼らは博多港に入港して軍事物資を降ろしている船の船名と特徴を記録し、それを降ろされた物資の内容とともに報告していたのである。

「どうやら単なる補充ではなく増援部隊が到着したみたいですね」

 望遠装置で博多港に停泊するカーフェリーを監視していたヒューイットが呟いた。彼の目には埠頭に渡されたランプから次々と戦車が降りてくるのが映っていた。それも見慣れたK1A1ではない。より大きな戦車である。

「これでK2が丸々1個大隊上陸したことになる。間違いない」

 マルキーニが戦車の数を記録したメモ用紙を見ながら言った。昨日から戦車部隊と機械化歩兵部隊が上陸を開始した。損失の補充にしては多すぎる数字である。高麗軍は新たな部隊を日本に送り込んだのである。

「それも精鋭部隊だ」

 K2黒豹(ファクビョ)は高麗の最新国産戦車である。重量は55トンで主砲は55口径120ミリ滑腔砲を装備する。データリンクやアクティブ式ミサイル防御システムなどの最新の機材を搭載されたハイテク戦車だ。

 さらにK21歩兵戦闘車の姿も確認できた。40ミリ機関砲と対戦車ミサイルを装備する強力な装甲車両である。

 どちらも強力な分だけ高価であり、高麗軍内でも装備する部隊は限られる。どれも精鋭部隊である。

 こうした新部隊の出現はただちに上層部へと報告された。




玄界灘

 博多湾の補給船団を監視する者はワトソンらの海兵隊偵察部隊だけではなかった。

 海上自衛隊の潜水艦<こうりゅう>である。玄界灘の海底に潜み、博多港に出入りする船の動きに耳を澄ませていた。入港する船の数、時間を記録して、定時連絡の時間には潜望鏡深度に浮上して衛星回線経由で潜水艦隊司令部に報告するのである。

 時折、高麗海軍の哨戒艦艇が頭上を航行して乗組員たちを緊張させることがあったが、発見されることはなく<こうりゅう>は恙無く任務を実行していた。そして、また定時連絡の時間が近づいていた。

「浮上用意。潜望鏡深度」

 中曽根は発令所で指揮を執っていた。敵中での潜望鏡深度は大きな危険が伴うので、どんな時間でも関係なく当直士官ではなく艦長である中曽根が直接指揮をすることにしていた。

「前進微速。潜航舵、上げ舵」

 ある程度速度を得ないと舵が利かないので、潜航や浮上の際にはモーターを回して舵が使える最低限の速力を出さなくてはならない。

「取り舵。回頭90度」

 浮上中の回頭も毎度恒例の儀式となった。なぜわざわざ浮上中に回頭をするかと言うと、索敵のため、発見していない敵艦の感知をするためである。

勿論、<こうりゅう>のソナーマンはいかなる時にも耳を澄ませて敵の痕跡を追っているし、敵の存在を聞き逃すことはないと中曽根も信じている。が、いかなる者にも死角というものは存在する。潜水艦の場合は真後ろだ。スクリューがあり、航行中には自艦の騒音しか聞こえない後方を聴くソナーは搭載されていない。水深のある海域を航行する場合には曳航式ソナーを艦尾から後ろに流すことで補うことができるが、浅瀬でほどんど着底しながら任務を遂行している状況ではあまり役に立たない。

 故に回頭して横向きになり、後方にソナーを向けて安全を確認するのである。よくソ連の潜水艦が航行中に突然急旋回を繰り返して追尾するアメリカ潜水艦を驚かせて“クレイジーイワン”などと呼ばれたが、それもやはり後方の安全確認のためで、<こうりゅう>も同じ事をしているのである。

「ソナー感!潜水艦が接近!」

「機関停止!深度保て」

 ソナーが高麗の潜水艦を探知し、<こうりゅう>の全てが止まった。モーターは停止し、乗組員たちは沈黙して静寂を保とうとする。

「目標は我々に気づいたか?」

 中曽根がソナーマンに尋ねるが、答えはなかなか返ってこない。暫くしてようやく返事が聞こえてきた。

「目標は針路、速度ともに変更なし。博多湾に向かっています。まもなく横を通り過ぎます」

 どうやら気づかれずに済んだようである。無事にやり過ごせそうだと中曽根は判断した。

「目標は本艦に気づかず通り過ぎました。我が艦に尻を向けて航行中」

 つまり高麗潜水艦はスクリューをこちらに向けて航行しているということだ。自らのスクリュー音が邪魔して高麗艦は<こうりゅう>を探知できない状態にある。

「よし、今だ。潜望鏡針路に浮上する」

 中曽根は司令部との連絡を優先した。高麗潜水艦を撃沈することもできたが、今や敵の根拠地となってしまった博多港のすぐ外で戦闘をして発見されるリスクは負うつもりは無かった。

「前進微速!」

 再びモーターが回転を始め、<こうりゅう>の船体は上昇していく。そして潜望鏡深度についたらアンテナを海面上に出し、司令部の通信を受信して偵察の報告を送信し、また海底に戻る。そうなる筈であった。だが予定はソナーマンの声によって崩れた。

「高麗艦が回頭しています!」

「機関停止!」

 <こうりゅう>が再び沈黙した。高麗潜水艦の艦長も<こうりゅう>と同じように真後ろの安全を確かめたくなったようだ。

「気づかれたか?」

 中曽根はまたやり過ごせたことを期待した。

「ダメです。目標は機関停止。無音航行に入りました」

 相手も<こうりゅう>と同じように敵艦を探知し、自艦が探知されないように身を潜めたのである。

世紀末の帝國に引き続き、こちらでも海戦パートです

いままでいいとこなしの海自の活躍をお楽しみください

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