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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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二三.脱出

 先頭車を破壊された将軍の車列は急停車した。そして詰め所に逃げ込むべく後退しようとした。しかしそれは叶わなかった。ザスローン部隊の1人が最後尾の車に対戦車ミサイルを発射したからだ。

 その隊員は最初から9M131メチスM携帯式対戦車ミサイルの発射装置を標的の車に向けていた。最初の爆発で車列が急停車すると隊員は素早く最後尾の車に照準を合わせて発射ボタンを押した。

 ミサイルは後ろに誘導ワイヤーを引きながら車に向かって飛んでいった。ワイヤーから送られたデータに基づいてミサイルは正確に車に向かう。そしてミサイルは車のエンジン部に見事に命中した。

 前後にも逃げられなくなった将軍車は立ち往生した。護衛兵が車を飛び出して、将軍を守ろうとする。先頭車と後尾車の生き残りも加わる。だが無駄な努力であった。

 ザスローンの隊員達はAS Val消音アサルトライフルで将軍の護衛兵を1人1人撃ちぬいていった。中国の護衛兵たちはカラシニコフ小銃を乱射しているので、銃身と一体化したサプレッサーによって最小限に抑えられたAS Valの銃声とマズルフラッシュを見つけるのを甚だ困難にした。

 次々と倒れていく護衛兵たちを白将軍は車中から黙ってみているしかなかった。

 それを森の中から覗いていたコンドラチャフは頃合と感じた。

「アルファチーム。突入しろ!」

 2つある突入班のうち1つが身を隠していた木々の中から飛び出した。もう片方の突入班が行なう援護射撃の下、将軍の車に飛びつく。残った護衛を片づけつつ、ドアのロックに小型爆弾を仕掛けて爆破し、無理やりこじ開けるとその先に縮こまっている将軍の姿があった。

 真っ先に突入したザスローン隊員は記憶していた将軍の顔写真と一致していることを確かめると将軍を車から引き摺りだした。頭に麻袋を被せ、両手首を背中でまとめて荷造り用の結束バンドで拘束した。

 その様子を見届けたコンドラチェフは隣で待機する通信手の肩を叩いた。

「司令部に報告。捕獲成功だ。それと狙撃班を呼び戻せ」




 ミハイルはボルトハンドルを動かして空薬莢を排出し新たな銃弾を薬室に装填した。その間にも観測手は新たな目標を探していた。

「ジープの後ろに下士官が1人居る。距離は520メートル。風は西から吹いてる」

 観測手の報告を聞き、ミハイルはその方向に新たな銃弾を装填したばかりのSV-98を向けた。次の瞬間には引き金を引いて、部隊を掌握しようとしていた任務に忠実な下士官の後頭部を撃ちぬいた。

 新たな戦果をあげたミハイルは次の目標を探した。肩を叩かれたのはその時だ。叩いたのは通信担当の機関銃手だった。

「本隊の任務が成功しました。合流地点に集合せよ、とのことです」

 それに続いた観測手が双眼鏡で新たな目標を監視しつつ言った。

「なんにしろ、そろそろここからずらからないと」

 ミハイルも観測手がなにかを見つけた方向に銃口を向けた。照準スコープは兵士を満載したトラックの隊列を見つけた。さきほど原隊に戻るべく出発した将軍出迎え部隊が異常を知って戻ってきたのだ。

 すばやく先頭のトラックの運転手に照準を合わせるとミハイルは引き金を引いた。

 運転手を失ったトラックはコントロールを失い横転した。後続のトラックも急停車して車列は立ち往生した。

「撤退する」

 ミハイルの命令を聞いて観測手は観測機器と衛星電話を片づけはじめた。機関銃手はPK機関銃を構えて撤退の援護射撃の準備をする。ミハイルはSV-98を背中に背負い、ドラグノフ狙撃銃に持ち替えた。ドラグノフはSV-98ほどの精密さはないが、セミオート式であり連射ができるのが強みだった。

 その間にもトラック隊から兵士たちが次々と降りてきて狙撃班が隠れる丘に向かってくる。機関銃手がPKを浴びせて、ミハイルは指揮官を狙う撃つ。

 中国兵の足並みが乱れたところで撤退が始まった。観測手が先頭になってまず退く。機関銃手がそれに続き、最後にミハイルが森の中に消えた。




 集合地点では既に捕縛した将軍を引き連れたコンドラチェフらの本隊が集まっていた。1人の死傷者も出すことなく任務を終えた彼らだが、それで安心して気を緩めるということはなく、今も円陣防御を敷いて敵襲に備えて周囲を警戒している。

 その時、周りを監視していた隊員の1人が何者かの気配に気がついた。その隊員は分隊内無線機の発信ボタンを押した。

「集合地点より3時方向、300メートルに居るのはニンファか?」

 すぐに無線機から聞きなれた仲間の声が聞こえた。

ダー(イエス)。ニンファとは呼ばないで欲しいのですが>

 そこへコンドラチェフが割り込んだ。

<追っては?>

<撒きました。今、出て行きます>

 すると茂みの中に3つの人影が現れた。ミハイルたち狙撃班である。これでザスローン部隊の潜入班が全員揃ったわけだ。

「よし。脱出地点に向かう」

 14人の人影は迎えのヘリコプターがやってくる平地に向けて歩き出した。




 Ka-60ヘリコプターは再び中国の領空を侵犯した。ロシア空軍が国境線各地で挑発行動を行い、中国防空部隊の目を誤魔化している間に超低空飛行で山岳地帯を駆け抜けていく。

 やがて山中に開けた場所を見つけた。そこが脱出地点である。Ka-60が降下して地面に近づくと、木々の中からザスローン隊員たちがゾロゾロと姿を現れた。

 Ka-60のラフティングギアが地面に触れる。しかし触れただけで完全に着陸したわけではない。すぐに離陸できるようにローターは回り続けていて、地面にはほとんど力がかかっていない。ようするに高度ゼロでホバリングしているような状態なのだ。

 ザスローン隊員たちは白将軍を連れて次々とKa-60に乗り込んだ。指揮官であるコンドラチェフが最後に乗り込み、パイロットの肩を叩いて離陸を指示した。




 国境よりロシア側に100キロの上空に巨大なレドームを載せた大型機が飛んでいた。メンステイのNATOコードネームで知られるロシア版AWACS(早期警戒管制機)、A-50である。

 A-50の本来の任務は防空支援であるが、今は副次的な任務が与えられていた。それはSVR(対外情報部)の秘密作戦の支援であり、この時にはA-50のクルーに混じって通信中継の為にSVR要員が乗りこんでいた。

 作戦の詳細が空軍の乗組員たちに知らされることは無かったが、その表情の変化から作戦は首尾よく進んでいるのだと知った。レーダー画面を見ても特殊作戦に参加しているヘリコプターを示す輝点が北上していて、帰途にあることを示している。

「ん?」

 オペレーターの1人がヘリに向かって接近する別の輝点を見つけた。速度からして、おそらく戦闘機のようである。

「迎撃を受けているぞ」




 Ka-60のキャビンに乗るザスローン隊員たちは突然の急降下に驚いた。

「何事だ?」

 コンドラチェフの問いに対してヘリコプターのパイロットは冷静さを保とうとしていたが、その努力はあまり報われていなかった。

「中国の戦闘機だ」

 Ka-60は谷の底すれすれを木々や建物を避けつつ高速で飛行した。これならば地面からのレーダー反射に紛れて戦闘機の追跡をかわす事ができるだろう。だが赤外線センサーを使われれば分からない。そして中国には優れた赤外線センサーを搭載した戦闘機が存在する。母国ロシアが輸出したSu-27フランカーとその派生型である。

 そして、このときKa-60はその最悪の相手に捉えられていた。それを示すようにKa-60の警戒センサーが警告を発した。

「レーザー検知!捕捉された!」

 敵の発する熱を捉える赤外線センサーはレーダーと違い距離を測定できないという弱点を抱えていた。それを補うためにSu-27にはレーザー測距装置が搭載されている。

「敵はSu-27だ」




 その情報は上空のA-50に直ちに伝えられた。A-50のレーダーシステムはヘリコプターに襲い掛かろうとする2機の戦闘機を捉えていた。SVRの要員はその光景を見て青ざめていた。

 一方、空軍のオペレーターたちは冷静であった。空軍はこの作戦にあわせて不測のトラブル対処の為の火消し部隊を待機させていた。オペレーターたちはただちにその部隊へと通じる回線に無線の周波数を合わせた。




 A-50からさらにロシア側に50キロの空域で2機の戦闘機が飛んでいた。

 2機の戦闘機が所属するのはモスクワ近郊の防空部隊で、そこから8機の戦闘機が派遣されており、交替しながら常時2機の上空待機態勢を続けていた。

<出番だ。以降の指示はAWACSから受けろ>

 地上の司令部から指令を受けると2機の戦闘機は翼を翻して、針路を南に向けた。それからアフターバーナーを噴かして国境線に向けて急加速した。

 2機の戦闘機は従来までの機体と比べると平べったい胴体をしている。翼も御馴染みの後退翼からデルタ翼に近い三角形になっていて、2つの垂直尾翼は外側に傾いていた。任務中にも関わらず翼の下にはミサイルの姿はなく、それらの装備は機体内に格納されていることが想像される。そういった、いかにもステルス機という印象を見る者に与える機体であった。

 その戦闘機の正式名称をSu-41というが、それは空軍への制式採用に伴ない新たに与えられた名前である。それ以前には開発元のスホーイ社の試作番号であるT-50か、空軍の開発計画の名である“戦術空軍向け将来戦闘複合体”の略称であるPAK-FAがその機体の呼び名であった。

 というわけでロシア空軍次期主力戦闘機PAK-FA登場です。機体番号は創作ですが、悪い線ではないと思います。

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