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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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二二.白守信将軍捕獲作戦

6月30日 アムール川

 日付が変わると同時に中国とロシアの国境は俄に騒がしくなった。ロシア空軍の戦闘機、攻撃機が一斉に発進して、国境線付近で騒ぎ始めたからだ。国境を超えることはなかったが、中国軍はその動きに警戒を強めざるをえなかった。

 中国空軍戦闘機も次々とスクランブル発進していった。ほとんどがMiG21の中国版である殲撃7型であったが、少数ながら虎の子として温存されていたSu-27の姿もあった。

 国境上空は双方の戦闘機が入り乱れ、レーダーはそれらを示す輝点で埋め尽くされていた。だから中国側に超低空飛行で領空に侵入してきた1機のヘリコプターの存在に気づく者がいなかったのも致し方ないことであった。



 アムール川を越えたことでKa-60のパイロットは一息つくことができた。川の上空は障害物が少なく最も中国のレーダーに捉えられやすいからである。陸地の上空に出れば山や建物、あらゆる物を障害物として利用することができる。その分だけ高いテクニックを要するが、ロシア軍の中からさらに選抜されたパイロットはそれを難なくこなす腕前があった。

 パイロットは暗視装置を頼りにライトなしで真っ暗闇の中を操縦している。超低空を、木々や家などの障害物をギリギリで避けながら前進していく。もし昼間であったならば、キャビンから手を伸ばせば届きそうな距離を障害物が次々と駆け抜けていく光景を眺めることができた筈だ。さながら遊園地のアトラクションのような趣があるが、アトラクションと違って安全はパイロットの腕以外はまったく保証されていない。

 Ka-60は幾つかの山を越えるとホバリング状態―といっても高度は数メートル程度―で待機した。ロシア版GPSであるグロナスが示す座標では既に特殊部隊の出発地点近くに達しているはずである。

 すると前方で何かが光るのが見えた。だがパイロットが暗視装置を外すと光は見えなくなる。もう一度、暗視装置を装着するとまた発光が確認できた。肉眼では確認できない赤外線ライトによる合図である。パイロットはKa-60をライトのすぐ上空まで動かした。

 キャビンのドアが開かれ、ロープが地面に向けて垂らされる。ザスローン隊員達は次々と滑り降りていった。下で彼らを出迎えたのはSVRの潜入情報員であった。

「なにか変わったことは?」

 コンドラチェフが尋ねると情報員は首を横に振った。

「いや。予定通りに決行してくれ」

 それだけ言うと情報員は赤外線ライトを片づけ、そそくさと立ち去った。ヘリコプターも元来た道を辿って帰途についた。13人のスペツナズ隊員は敵中に孤立した。

 コンドラチェフは部下が装備を整え整列したのを見ると、1人の隊員を指名した。

「ミーシャ。先頭を行くんだ」

 小柄な狙撃手であるミハイル・チェーホフである。ミハイルは黙って頷くと、先頭を進んで森の中に入っていった。時刻は午前0時40分であった。

 ザスローン部隊は物音1つ立てずゆっくりと、しかし確実に前進していった。意外なことかもしれないが彼らは暗視装置を装着していなかった。暗視装置を使えば視野が狭まるし、彼らは夜目を効かせる訓練を積んでいたからである。

 すると先頭を行くミハイルが立ち止まり右手を上げた。それを合図に隊員たちが一斉に伏せて銃を構える。暫しの静寂の後、進行方向にある草むらが動き、その向こうから熊が姿を現した。ザスローンの隊員たちは動じることなく銃を構えたまま待機した。熊は特殊部隊員の発する独特の空気に怖気づいたのか、そのまま彼らに背を向けて立ち去った。

 それからミハイルを先頭に特殊部隊員たちは何事もなかったかのように再び前進を始めた。


 東の空が白み始めた。コンドラチェフ率いるザスローン部隊はようやく目的地に到達した。国境警備部隊の詰め所である。それを見下ろす丘の木々に隠れながら様子を伺うと、警備兵が見えるが、それほど多くはない。

「視察後は警備兵たちの緊張が緩むだろう。目標を確実に確認するためにも、襲撃は帰り道を狙う」

 コンドラチェフは丘の一角を指し示した。

「狙撃班はここで監視につけ。詰め所の奴らが将軍の増援に向かったら妨害するんだ」

 ミハイル率いる狙撃班は無言で頷いた。

「交信は衛星電話を使う。合図があり次第、監視陣地を放棄して指定の地点に集合」

 狙撃班はコンドラチェフの指示を聞き終えると、早速準備にとりかかった。監視点を決めると下の中国兵に見つからないように注意しつつ器材を配置する。

 コンドラチェフは残りの隊員を引き連れて森の中へ入った。襲撃地点へと向かったのだ。



 太陽が姿を現し、日光が警備部隊詰め所を照らしている。将軍を迎えるべく警備部隊の将兵たちが詰め所の前に並び待機している。

それを見下ろす丘の上でミハイルたち狙撃班は完全に自然の一部になっていた。ミハイルの操るボルトアクション式狙撃銃SV-98を詰め所に向けている。その隣で観測手が双眼鏡で周辺を監視している。さらにその横では機関銃手がPK機関銃を構えつつ、衛星電話と繋がるイヤフォンマイクに耳を傾けている。

 ミハイルは機関銃手の顔色が変わったのに気づいた。緊張して顔が張り詰めている。なにか指示が入ったようだ。

「車が来ます。おそらく目標かと」

 襲撃地点で道を見張る本隊から情報が入ったようだ。襲撃は帰り道に行なわれる。将軍がどの車に乗っているかを知らせるのがミハイルたちの役目なのである。

 やがて狙撃班の視界の中に将軍のものと思わしき車列が現れた。中国軍の軍用四輪駆動車が3台で、3台とも詰め所の前で一列に止まった。

「どの車だ」

 双眼鏡を覗く観測手が思わず呟いた。ミハイルもSV-98のスコープ越しに車を睨む。

 まず降りてきたのは10人前後の護衛兵である。彼らが車を取り囲み安全を確認すると、真ん中の車から将官らしき軍人が降りてきた。

「見つけた。たぶんあいつだ」

 白将軍は待ち構える警備部隊の将兵に敬礼すると、駆け寄ってきた警備部隊の指揮官と会話を交わしながら詰め所への消えた。



 30分後、詰め所から将軍と警備部隊指揮官が姿を現した。この時、ミハイルたちははじめて将軍を正面から見ることができた。その顔は基地で見せられた白守信将軍の写真とまったく同じであった。

 将軍が到着する時と同じように将兵が整列し、将軍は振り向いて兵士達に敬礼をした。そして3輌のうち真ん中の車に乗り込んだ。

「報告しろ。将軍の車列が出発する。将軍は2輌目だ」

 ミハイルが命令し、機関銃手が衛星電話で本隊に報告する。そうしている間に将軍を乗せた車列は兵士達に見送られながら詰め所の前を出発した。



 コンドラチェフは狙撃班の報告をトランシーバーで分散している各突入班に知らせた。

「将軍は2輌目に乗っている。護衛は1個分隊だ。作戦は予定通りに決行する」

 それから数分待つと、自動車のエンジン音が聞こえてきた。コンドラチェフは双眼鏡を持って音の方向に目を凝らした。目にしたそれは間違いなく将軍の車列であった。

 車列はまさにコンドラチェフの前を通り過ぎようとしている。その時、先頭の四輪駆動車が閃光の中に消えた。爆発音が轟き、後続の2輌が慌てて停車する。道路脇に設置された仕掛け爆弾が爆発し、先頭車を吹き飛ばしたのだ。



 予想通り、将軍の車列が出発するとともに警備部隊の緊張の糸が途切れたようだ。将軍で迎えのために増援された兵たちが原隊に復帰すべくトラックに乗り込み出発した。爆発音が聞こえてきたのは、まさにその時であった。

 その音は詰め所にも届いた。突然の出来事に警備兵たちは驚き騒然としている。しかし彼らも訓練された兵士だ。すぐに落ち着きを取り戻し、状況を偵察して将軍の安否を確認すべく兵士たちが車に乗り込む。しかし彼らが任務を達成することはなかった。

 兵士を乗せた四輪駆動車が発進した。しかしすぐに車はふらつき、そのまま詰め所を囲む塀に突っ込んだ。運転手は眉間を狙撃され即死だった。

 その様子を見ていた警備部隊の指揮官は状況を掌握しようと努めたが、意味を察すると同時にSV-98が放った7.62ミリ×54R弾に頭を撃ちぬかれた。

「狙撃手だ!」

 兵士の1人が叫んだ。それは的を射た推察であったが、指揮官を失った状況ではパニックを引き起こす効果しかなかった。

 感想欄において第1部、第2部双方に対して突っ込みがありましたので、その一部を修正しました。残る部分については全体の見直しをあわせて修正を目指すつもりです。

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