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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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二一.出撃の宴

6月29日 沖縄 キャンプシュワブ

 朝日が東から登る頃、沖縄の海に築かれた巨大な要塞から数機のヘリコプターが飛び立とうとしていた。

 名護市にある巨大な米軍基地、キャンプシュワブ。その主な使用用途は射撃訓練場としてであるが、最近になって新たな価値が生まれた。それは海上に張り出した巨大な飛行場施設である。

 かつて市街地の中にあり、世界一危険な飛行場と呼ばれた普天間基地の代替施設として生まれた名護飛行場は海兵隊航空隊が拠点として利用している。今は対高麗戦の為の後方基地として機能していた。輸送機が頻繁に着陸して、物資を降ろしていく。

 その横で目立たないよう待機している2機のMH-60Sナイトホーク・ヘリコプターが停まっている。空母に搭載されて救難任務や輸送任務に従事する目的の機体である。そのヘリコプターのもとへと向かう20人の兵士がいた。完全武装の黒づくめの特殊部隊隊員である。彼らは沖縄のキャンプトリイに駐留する陸軍特殊部隊グリーンベレーと海軍特殊部隊SEALsの混成部隊であるが、その中に2人の日本人が混じっていた。

 隊員たちを乗せたヘリコプターは海上に向かった。事前に指定された海域に到着すると、2機のヘリコプターはその上空でホバリングして会合相手の到着を待った。時間はそれほどかからなかった。すぐに海を割って巨大な潜水艦が浮上した。

 その艦はオハイオ級原子力潜水艦第2番艦ミシガンである。かつてトライデント戦略核ミサイルを装備してアメリカの抑止力の一翼を担っていた戦略原潜であった。しかし冷戦の終結と対テロ戦争の始まりが時代遅れになった戦略原潜に新たな任務を与えることになった。

 ミシガンは全てのトライデント弾道ミサイルが撤去され、替わりにトマホーク巡航ミサイルが装備された。搭載量は全部で154発である。水上艦を含めてどのアメリカ艦よりも多くのトマホークミサイルを装備できるのだ。さらに特殊部隊潜入用の小型潜水艇を搭載でき、海軍特殊部隊SEALsの海中母艦としても機能する。冷戦の象徴であった戦略原潜は改装を経てポスト冷戦時代の最前線を戦う船へと生まれ変わったのである。

 2機のヘリコプターはそのミシガンに降下した。ミサイルハッチが並ぶ甲板にヘリが着陸すると完全武装の特殊部隊員が次々と降りてきた。全員が降りて機体から離れていくのを確認するとヘリコプターはすぐに飛びたち、何事もなかったかのようにキャンプシュワブへと戻っていく。

 後に残された特殊部隊員たちは水兵に案内されるまま艦内に入った。そしてすぐにミシガンは水中へと消えた。浮上してから5分も経っていなかった。

 発令所に案内された特殊部隊員たちを待っていたのはミシガン艦長のボーエン大佐であった。SEALsの最先任である少佐が代表として一団から前に出て覆面を捲りボーエン大佐と握手を交わした。

「少佐。久しぶりだね。実戦任務は1年ぶりかな?」

「はい。今回もよろしくお願いします」

「それで日本からのゲストというのは?」

 ボーエンが尋ねると少佐は一団の中から2人を指し示した。その2人は少佐と同じように覆面を捲くって顔を見せた。2人とも日本人で、先任の陸曹が前に出て名乗りあげた。

「陸上自衛隊所属、1等陸曹、黒部幸正です」

 福岡撤退戦で桜井とともに戦った特殊作戦群の戦士、黒部1曹である。

「よく来てくれた。ともに戦えて嬉しい限りだ。早速、作戦計画について検討をしたいのだが」

 ボーエンはそう言って海図台に広げられている海図を指し示した。広げられているのは対馬一帯の海図であった。




五島列島沖 第1護衛隊群

 旗艦【ひゅうが】を筆頭に8隻の護衛艦より成る第1護衛隊群は自衛隊による高麗軍への反撃作戦の一翼を担うべく東南アジアから急遽北上してきたが、いまのところその役目を十分に果たしているとはいえなかった。彼らの目下の任務は高麗海軍の更なる攻撃を阻止するというものであったが実質的にはただの待機状態であった。

 しかし、それも仕方がないことである。空母を持たない海上自衛隊が行動できるのはどうしても航空自衛隊の援護下に限られる。しかし肝心の航空自衛隊が守勢に立っている現状では反撃作戦など実行のしようが無かったのである。

 そのような有様で隊員達の士気は下がる一方であった。それは群司令官である水無月海将補も同様で、同じ海域をクルクルまわるだけの任務にはいいかげんウンザリしていた。しかし現状では艦橋に立ち変わらぬ海の眺めを見ている他になかった。そこへ幕僚長の藤堂1佐が現れた。

「水無月海将補!護衛艦隊司令部より新たな命令です」



 藤堂に連れられて水無月は【ひゅうが】のCICへと下りてきた。そこには【ひゅうが】艦長の相田1佐をはじめとする群と艦の主要幹部が集まっていた。

「それで命令とは?」

 水無月が尋ねると相田は一枚の命令書を手渡した。

「護衛任務?」

「沖縄で待機しているストライカー部隊の物資を積んだ貨物船を護衛せよ、ということだそうです」

 藤堂が説明した。台湾有事に備えて沖縄にはストライカー旅団戦闘群の装備を載せた事前集積船が待機している。それを九州まで守れということだ。

「そうか。ようやくそれらしい任務が与えられたわけだな」

 水無月がそう言うと、幹部達は頷いて同意した。その顔は誰もが新たな任務への意欲の高さを示していた。

「よし。藤堂。必要な情報を集めろ。まず天候だがどうだ?」

 指示を受けた藤堂は早速手元の資料から必要な情報を見つけた。

「明日以降、また雨になるようですね」




ロシア ベロゴルスク

 中国との国境、アムール川に面する都市であるブラゴヴェシチェンスク。そこから北東に約100キロのところにベロゴルスクがある。国境の後方にあるこの街は昔から軍都で、現代もロシア地上軍第35軍の司令部が置かれている。

 太陽が西に沈んだ頃、街の郊外にある飛行場は慌しくなっていた。ここはソ連軍が冷戦時代に建設した戦時に臨時の基地として利用するための施設である。そこの格納庫に13人のスペツナズ隊員とヘリコプターが待機していた。ヘリコプターはカモフKa-60で西側のUH-60ブラックホークに近い戦闘員14名を載せることができる多用途ヘリコプターである。十分な輸送能力があり、かつ適度にコンパクトで軽快なので潜入任務にはもってこいの機体である。

 格納庫には大きな机が1つ置かれていて、そこに黒河周辺の地図が広げられ潜入部隊指揮官のコンドラチェフ大尉とパイロット、それにSVR特殊作戦課主任が最後のチェックをしていた。

 指揮官の検討会が終わると次に隊員全員参加のブリーフィングが始まった。隊員たちが机の周りに集まり作戦内容を改めて確認した。

「着陸地点はここ。そこから徒歩で目的地まで進出して目標を捕獲する。脱出地点はここ。ヘリで回収する。空軍が全面的にバックアップをする予定だ」

 隊員達は計画も地図もしっかり暗記している。なんの問題も無かった。

「目標である白将軍が国境警備隊を視察するのは現地時間の午前8時頃だ。暗いうちに現地に潜入する。日付が変わると同時に出撃だ。最終準備にかかれ!」

 コンドラチェフ大尉がブリーフィングを締めくくると隊員たちは散らばり、それぞれの荷物を置いてある場所まで駆けて行った。それから銃の点検を行い弾倉を装填して、背嚢を背負い、また集まった。

 完全武装で整列した隊員達を前にしてコンドラチェフも直立不動の姿勢でその時を待った。手元の時計を見ると日付が変わろうとしていた。

「よし。出撃だ」

 13人の兵士達がヘリコプターに乗り込み、北九州有事における日本の運命を決める一日が始まった。

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