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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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一九.どうしたものか

福岡沖

 潜水艦<こうりゅう>は東シナ海から対馬海峡に向けて航行中に偵察任務を与えられてから早1日。ようやく目標である福岡沖に到達しようとしていた。

 <こうりゅう>は万全の態勢であった。バッテリーはほぼ充電を完了しており―スターリング機関は出力が小さいので戦闘時は専らバッテリーが頼りである―、武装も89式魚雷18発にハープーン4発と搭載量一杯載せられている。

 今、<こうりゅう>はスターリング機関を動かし、それで発電された電力で航行をしていた。スターリング機関は1800年代初めに発明された比較的古い外燃機関である。仕組みを簡単に書けば、気体を熱すると膨張し、冷却すると収縮する特性を利用して、機関の中のガスに対して外部から過熱と冷却を繰り返して、その膨張と収縮を動力に転換するものだ。熱を運動エネルギーに転換する効率が高く、しかも爆発エネルギーを利用するディーゼル機関と違って静粛性も高いので潜水艦機関には最適と言える。<そうりゅう>型に搭載されたスターリング機関は液体酸素とケロシンの燃料によってシリンダー内のヘリウムガスを過熱して動力を得る。

 発令所は自国の近海だが敵の勢力圏に突入するということで緊張に包まれていた。海上自衛隊の潜水艦は世界でも最高水準にあるが、それも少しのミスで帳消しになってしまうのが戦場というものである。だから乗組員たちは自然と口数が少なくなり不必要な話をしなくなる。トイレさえその回数が極端に減る。

 <こうりゅう>の任務は福岡港の偵察である。福岡港は敵の補給拠点となっているから、それを阻止するためには港を封鎖しなくてならない。<こうりゅう>はそれに必要な情報を集めるのである。

「機関停止。微速前進」

 その静寂は発令所で破られた。中曽根艦長の号令でスターリング機関が停止してモーターによる無音航行に突入する。

「潜望鏡深度」

 舵が効く最低限の速力を維持する<こうりゅう>は艦橋の潜舵を動かして徐々に上昇する。

「潜望鏡深度、艦前後水平保て」

「潜望鏡上げ」

 命令が矢継ぎ早に出されて、乗組員達はそれを黙々とこなした。潜望鏡が海面上に出て、艦長は発令所の接眼部に顔を押し付けてレバーを操作し一回転した。そしてすぐに潜望鏡は海面下に沈んだ。

「ESM。感はあったか?」

 潜望鏡から顔を放した艦長の問いに電子戦担当の海曹が首を横に振った。

「感知できたのは航海用レーダーの電波だけです。探知はされていません」

 艦長はそれを聞くと命じた。

「よし。微速前進、潜航!着底しろ!」

 <こうりゅう>は微速で前進しながら、徐々に深く潜っていき、玄海灘の底についた。彼らの任務はそこに留まり、耳を澄まして博多港への船の出入を調べることにある。

 海底に腰を落ち着けると艦長は先ほど潜望鏡で捉えた画像の再生を命じた。<そうりゅう>型潜水艦には新型の非貫通式潜望鏡が備えられている。従来までの潜望鏡は船殻に穴を開けて外に伸ばした筒を通じて直接に外界を覗き見るのであるが、新型では潜望鏡マストの先にビデオカメラを載せて艦内のテレビを使ってみるのである。船殻に大きな穴を開けずに済むので艦の強度が増す他、カメラを使うので捉えた景色を記録して大きな画面で再生することができるという利点もある。先ほど艦長が使った従来型潜望鏡と同じ接眼部は心理的、象徴的効果を期待したもので実用上必要なものではない。

 艦長と幹部達は発令所につけられたディスプレイの前に集まって、潜望鏡が捉えた博多港の拡大画像を見ていた。そこには積荷を下ろす貨物船と護衛の艦艇が映っている。

「ウルサン級が2隻、クワンゲトデワン級が1隻ですね」

 湾内には韓国海軍艦艇の姿はそれくらいしかなかった。

「よし。通信予定時間まで聴音監視を続けるぞ」




国道385号線 第19普通科連隊陣地

 海兵隊の偵察隊を見送った後、桜井達は再び防衛線で警戒を続けていた。桜井の隣に古谷がやって来た。

「それでお前はどうなんだ?」

 突然の古谷の問い掛けに桜井は驚いてむせた。

「突然なんですか?いったい?」

「さっきの続きだよ。お前が入隊した理由を聞いていない」

 古谷の言葉に周りの隊員達が2人に目を向ける。

「こら!警戒を続けんか!」

 周りの隊員たちは怒鳴られて戦線のむこうに目を戻したが、耳は2人に注意を向けたままである。

 桜井は前に黒部に対して説明したように東海大地震の経験を放した。そして悩みも。

「別に戦うのが嫌だ、とか、人を殺すのよくない、とか甘ったれたことを言うつもりはないんですか。なにをやってるんだかと思ってしまって」

「そんなもんだ。口でどう言ったって、実際に戦う覚悟とかそういうものを持ってる人間なんてそういやしない」

「それじゃあ何で戦っているんですか?」

 桜井の問いに古谷は暫し考えてから答えた。

「それが仕事だからだ。これじゃあ不足かな?」

 それを聞いていた砺波が北を警戒しながら呟いた。

「誰かがやらなくちゃいけない仕事ってヤツだ。その為の公務員だからな」

「そういや俺達、公務員だったんですよね」

 砺波の隣で小銃を構えた陸士が続く。そんな風に意見が出たところで古谷がまとめに入った。

「そういうことだ。それが俺達の仕事だ。誰かやらなくちゃいけない。そして俺達にはなんとかすることできる力がある。それで十分じゃないか」

 それを聞いて桜井は64式狙撃銃を敵方へ構えてみた。なんとかすることができる力。それがある。

「そうですね」




横田基地

 太陽が西に沈んだ頃、極東におけるアメリカ空軍有数の拠点である神奈川の横田空軍基地にトラックの縦隊が次々と入ってきた、トラック隊は同じ神奈川県内にある米軍施設である相模総合補給廠からやってきたもので、銃弾、大砲、車輌など1つの部隊を形作るのに必要な様々な物資が荷物の中身だ。

 荷物は基地に待機している輸送機に積み込まれて、西に向けて飛びたっていった。




ハワイ

 かつてアメリカ海軍太平洋艦隊最大の拠点であり日本海軍による真珠湾攻撃の舞台となったハワイであるが、現代においても米軍の世界展開にとって重要な拠点であることは変わらない。ハワイにある陸軍部隊、トロピックライトニングの愛称で知られる第25歩兵師団は冷戦期より極東有事の際の日本救援部隊に指定された部隊であった。であるから、北九州有事に対して真っ先に出撃の準備を始めたのは当然のことである。

 派遣部隊に指定されたのは第3歩兵旅団戦闘団“ブロンコ旅団”である。将兵が召集されて基地で待機をしていた。そこへ命令が下った。

“第25師団第3旅団はただちに九州へ展開し、佐世保基地の警備を強化せよ”

 目的はあくまで佐世保基地の警備強化であるが、真の目的は北九州有事への介入のためであることは明らかであった。

 “ブロンコ旅団”の将兵たちはヒッカム基地に移動し、そこから空軍の輸送機に乗り込んだ。

題名は私の心境(笑)

でも、これを書き終わってようやく第2部の終わりが見えた感じです。

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