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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
20/60

一八.米軍行動開始

6月28日朝 アメリカ海軍佐世保基地

 国連本部で北九州有事問題を巡って大使たちが紛糾している頃、佐世保のアメリカ軍基地に入港する数隻の船があった。それらの船は委託された業者を通じてアメリカ軍海上輸送司令部が運行する船で、空母やイージス艦といった“主力兵器”に比べれば馴染みの無い船であったが、アメリカの世界戦略を支える重要な船であった。その船級をジョン・P・ボボ少尉級という。

 ベトナム戦争時に英雄的な活躍をして戦死し名誉勲章を授与された少尉の名に由来して命名されたジョン・P・ボボ少尉をネームシップとするこの級は、本質的には貨物船であった。カーフェリーのようにランプを埠頭に渡してクレーンを使わずにトラックで直接積荷を積み込むことができるRo-Ro型に分類される一般的な貨物船である。

 問題はその積荷である。佐世保基地の埠頭に渡されたランプから次々と降りてきたのはM1A1主力戦車であった。船内には戦車だけでなく大砲や弾薬、その他の様々な物資を載せていた。船団の他の船も同様で、全ての貨物を降ろせば後は兵士がやって来るだけで30日間独立して戦闘行動が可能な海兵遠征旅団が完成する。そう。船団はアメリカ軍の誇る海上事前集積船隊だったのである。アメリカ軍は各地にこの事前集積船団を配置することで陸上部隊を迅速に派遣することができるのだ。

 同時にアメリカ太平洋海兵隊の各部隊が抽出されて第三海兵遠征旅団の編成が始まっていた。海兵遠征旅団は1個海兵連隊―歩兵連隊―を基幹として編成される諸兵科連合部隊で、人員は1万から1万5000人、砲兵1個大隊に戦車1個中隊が配属され、さらに海兵航空団の援護を受ける。アメリカ海兵隊は極めて有力な戦力を日本へと展開させたのである。

 しかし物資と積み下ろしと兵員の集結は今しばらく時間が必要であった。それでも僅か1個中隊で佐世保を守っていた海兵隊は、船団の到着によって戦力に余剰が生まれた。かくして海兵隊は本格的に対高麗作戦行動を開始することになった。




国道385号線 第19普通科連隊陣地

 激しい戦闘が一夜を経て前線はようやく落ち着きを取り戻していた。道路に残る戦車の残骸や高麗兵の死体は片づけられて、一帯は一見平穏なように見えた。実際には木々の影に自衛隊員たちが身を潜めて、何時やってくるかも分からない敵を睨みつけていた。

 桜井ら第19普通科連隊第1中隊は道を挟んで後方に待機していた第2中隊と交代して後方の陣地に入り、次の戦いに備えていた。実員15名にまで減っていた第2小隊は部隊を2個小銃班に再編した。

 桜井は気にもたれて、トラックに高麗兵が入った死体袋が次々とトラックに積み込まれていく様を見つめていた。

「どうした?」

 その様子を見かねた小隊の先任陸曹である砺波陸曹長が声をかけた。

「いや、別に」

 そう答えたものの、内心は動揺していた。自分がつくりだした死体を見る度に思うのだ。なぜ俺はこんなことをしているんだと。彼が自衛隊員を志したのは大災害の被害にあった人々を助けるためだ。だから何故、こんな山の中で殺し合いをしているのだろうと考えてしまう。

 ふと、数日前のことを思い出した。福岡撤退戦時にともに戦った特戦群の男の言葉。

 振り返ると砺波は彼に背を向けて、その場を離れようとしていた。

「ちょっといいですか?」

 砺波が桜井の方に振り向いた。

「陸曹長殿はどうして自衛隊に入隊なされたんですか?」

 桜井の問いに砺波は怪訝な表情をしながら答えた。

「大学を出た時、丁度就職氷河期とぶつかっちまってな。それで自衛隊に入ったよ。生活のために」

 近くにいた機関銃手がそれを聞いていた。

「曹長殿は大卒だったのですか?」

 いかにも現場叩き上げという風貌の砺波を大学出身とイメージできる者は小隊には居なかった。

「当時は陸士だってほとんど大卒だったんだぞ。不況のせいで志願者が殺到してきたんだ。そういうお前はなんで自衛隊に入ったんだ」

 聞かれた機関銃手は緊張で強張っていた表情を緩めた。

「祖父も親父も自衛官で、俺もその道に進むべきなのかなってなんとなく。親父は幹部で連隊長まで昇進したんですけど、俺は防大落ちてしまってこの様です」

 そこへ古谷3尉がやって来た。

「なんだ、お前ら。揃って身の上話か?」

「まぁそんなところです。3尉はどうして自衛隊に入隊したんですか?」

 桜井が尋ねると、古谷は遠慮がちに答えた。

「いやな。高卒陸士でもなかなか高給だし資格も取れるから、金を貯めた後に除隊して、なにか店でも出そうかと思っていたんだが、気が付いたら陸曹の昇進試験に受かって、それから幹部にも昇進して、職業軍人になってたんだ」

 誰も彼もいい加減な理由である。そして最後に矢部が答えようとした。だいたい予想できたので誰も聞きたいと思わなかったが、矢部は皆のそういう視線を無視した。

「俺は決まっているでしょう?銃がガンガン撃てて、敵をぶっ殺せると思ったからですよ」

 そんな有様に古谷が呆れて言った。

「まったく。どいつもこいつも、滅茶苦茶な理由で命を散らすかもしれん戦場で戦うわけか」

「3尉。あなたもでしょ?」

 桜井が指摘すると、古谷は彼の方を向いて逆に尋ねてきた。

「お前はどうなんだ?」

 桜井が答えようとしていると、陣地に自動車の駆動音が聞こえてきた。南側、すなわち味方の側から。音のする方向に振り向くと、そこには自衛隊の軽装甲機動車にも似た小型装甲車輌が向かってきていた。

「なんだあれ?」

 誰もその正体を知らなかった。



 20世紀初め、アメリカ軍はある問題を抱えていた。それは軽歩兵部隊の主力車輌であったハンヴィーの脆弱性である。ソマリアでの戦いや対テロ戦争を通じてゲリラなどの攻撃に対して防弾能力の低いハンヴィーでは耐えられなかったのである。

 そこでアメリカ軍は新たな車輌の開発を決意した。それがJTLV、統合戦術軽車輌である。簡単に言えば自衛隊の軽装甲機動車のアメリカ版で、用途にあわせて積載量別に3つのカテゴリーが存在し、それぞれのカテゴリーの中で様々なバリエーションが用意されている。桜井たちの目の前に現れたのはその中で最も小さいカテゴリーAに分類される車輌で、その唯一のバリエーションであるGP型である。GPとは汎用ジェネラル・パーパスの略称であり、ジープの正当な後継者である4人乗りの軽量多用途車輌と位置付けられている。

 JTLVは古谷らの前に停まった。乗り込んでいるのはアメリカ海兵隊隊員であった。

「指揮官は?」

 助手席に座る少尉の階級章をつけた男は流暢な日本を操った。

「私だが。古谷3尉だ」

 古谷が名乗り出ると、海兵隊の少尉は窓から手を伸ばし握手を求めてきた。古谷がそれに応じて手を出すと、少尉は古谷の手を固く握り締めた。

「私はトム・ワトソン少尉。海兵隊だ。我々はこの先に斥候へと向かう」

「それで?なにか支援が必要ですか?」

 古谷が尋ねると、ワトソンは首を横に振った。

「いや。通告した方がよいと思っただけだよ。それと今の敵の位置は?」

 古谷はワトソンが高麗のことを“敵”と明言したのを聞き逃さなかった。単なるリップサービスかもしれなかったが、隊員達はアメリカがやはり味方であると感じて安堵しているようであった。

「前哨陣地の報告によれば、ここから2キロ先までは敵はいない。だがそれ以降は分からない」

「ありがとうございます。では」

 JTLVは発進して、古谷たちのもとを離れた。



 しばらく走るとJTLVは道路脇に停まった。

「さて、そろそろ始めるか」

 ワトソン少尉が宣言すると彼の3人の部下が頷いた。ドアを開けて外に出ると、それぞれの得物を手にした。ワトソン少尉はM16ライフルを、運転手はミニミ機関銃を、そして後部座席に座っていた二人の下士官はそれぞれM14DMR狙撃銃とSR-25狙撃銃を手にしている。

「先頭はマルキーニ、トリガーが続け。ヒューイットは後ろを守れ」

 ワトソンが指示を出すと、まずM14DMRを持った狙撃手が前に出た。それにミニミを持った運転手が続く。ワトソン少尉は運転手の後について、SR-25を持った狙撃手が最後尾に立った。海兵隊斥候チームの4人は縦隊となり、森の中に進んでいった。

 日韓大戦久々の更新です。といっても実は先月、一二の二.空挺団の苦闘を割り込み投稿させていただいたのですが、どれだけの方が気づいていただけたのでしょうか?

 桜井君の物語はどう収拾をつけるべきか思い悩む今日この頃です。書いててしっくりきませんからね。

 さて、今日は12月24日、クリスマスイブです。ただいま午後4時よりアメリカ北米宇宙防空司令部NORADの公式サイトで毎年恒例のノーラッド・トラックス・サンタが始まります。是非ともご覧ください。詳しくはNORAD、サンタでご検索を。2ちゃんねる軍事板にもスレが建っていますので、そちらもよろしくおねがいします。

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