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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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一七.流れの変化

6月27日 都内料亭

 太陽は西に沈むと菅井官房長官は1人で都内の某有名料亭を訪れていた。マスコミに嗅ぎつかれないようにするのに苦労した。囮のハイヤーを首相官邸正面に用意し、菅井は公邸から一般のタクシーで脱出した。

 菅井は個室に案内され、そこで1時間ほど待った。すると個室と外を隔てる引き戸が開かれ、見知っているがあまり話しをしたことのない男が現れた。彼は野党である民生党の右派を束ねる中心人物であった。

 菅井は気さくな感じに声をかけた。

「いやぁ、よく招きに応じてくれたね」

 相手の議員は落ち着かずにそわそわしているようであった。

「手短にお願いしますよ。この会合が知れたら大変なことになりますから」

「まぁまぁ。そう焦りなさんな。秘密の取り扱いには気を使っているよ」

 菅井は相手が安心するように自信ありげに答えたが、内心は気が気でなかった。今、彼の計画が瓦解すれば烏丸政権は風前の灯である。

「それで用件は?」

「分かっているだろう?自衛隊の防衛出動承認の件だよ」

 予期した通りの菅井の言葉に相手の議員は顔を顰めた。

「分かってください。私にも党における立場というものがあるんです」

「党なんて糞食らえだ。今は国家の危機なんだぞ」

 菅井の言葉に相手の議員は目を伏せた。菅井は構わず続けた。

「君だって自衛隊の出動に反対なんて言わないだろう?この事態の解決に防衛出動が必要だと考えているんだろう?だったらやるべき事は1つじゃないか!」

 菅井がそこまで言うと相手は顔を上げて菅井を見た。彼の中でなにかが動いているようであった。

「少し時間をくれないか?」

「いいとも」




名古屋のアパート

 弟のアパートに足止めを食らっている深海真はネットを使って情報収集に勤しんでいた。国内外のニュース報道を漁るのはもとより、掲示板などに書き込まれる自称“現地住人の証言”も独自に信頼性を判断して分類して現地の状況把握に努めた。

 パソコンから離れて幾つか得られた情報をメモに書いて整理―深海は情報の整理・分析には最新のIT機器より手書きのメモを好んだ―していると、テレビの音が聞こえてきた。

<これほど戦争が長期化しているにも関わらず介入しないアメリカ軍。私達はアメリカを背景にした安全保障を信じ、半世紀に渡り同盟を結び、様々な害悪を被りながらも、莫大なおもいやり予算を払いながらも同盟関係を維持してきたわけですが。しかし、我々の期待は見事に裏切られてしまいました>

 元プロレス実況のアナウンサーが沈痛な面持ちでしゃべっている。

<一体、この半世紀の間、我々が背負ってきたものはなんだったのでしょうか?これまで日本外交、安全保障の基盤とも言えた日米安保体制、しかしこの体制を見直すべきときがきているのかもしれません>

 開戦以来、この手の論説を報道でもネットの書き込みでもよく見かける。冷静に考えれば、当事者である日本政府議会がそもそも自衛隊を出動させるべきかどうかで揉めているというのにアメリカ軍が動いてくれるわけもないだろう。

 真は日米離間を狙う勢力がこの期を利用して何らかの行動に出ているのだろうかとも考えた。だがすぐに止めた。陰謀論に傾倒しても碌なことがない。




ワシントンDC ホワイトハウス

 一方、アメリカはようやく27日の朝を迎えていた。昨日、ローゼンバーグ大使が日本の首相の決断を伝えたので、それに対応した新たな方策が練られていた。そして、それは翌日、朝一番に行なわれる大統領への状況報告で示された。

「それで安保理決議案を提出するわけね?」

 国務長官の意見書を見て大統領が言った。

「その通りです、サラ。ようやく安保理でも反撃を開始できます」

 国務長官が誇らしげに言った。日韓が開戦するとすぐに緊急の安全保障理事会が開かれて中国が即時停戦決議案を提出した。つまり戦闘を1度停止して戦線をそのままにとりあえず交渉での解決を探ろうというわけだ。国連の手法に忠実で、かつ高麗の望むものであった。

 もし決議が通れば日本にとって拙いことになる。現在の線で戦闘を停めるのであるから、高麗軍が居座る事になる。それどころか堂々と補給だってできる。保護下―占領下の現代的な言い換え―の一般市民に対する人道的な支援とでも言い張れば、誰が補給物資を載せた船や航空機を阻止できるであろうか?そして領土の占拠を背景にして日本に譲歩を求めれば、多くを得ることができる。一旦、停戦決議が通れば高麗はただちに受け入れるであろう。相手が受託しているのに停戦を拒否するなどという真似は日本にはできまい。そして全て高麗の思い通りだ。

 無論、アメリカもそれを察しているから同盟国として出来る限りの援護はしている。決議を引き伸ばして時間を稼ぐのである。しかし、それはかなり厳しいことであった。即時停戦は武力衝突に対する国連の通例の対応であり、国連を構成する第三国が当然に努力すべきことであるとされているのだ。それを妨害するのは外交的に拙い。既に時間稼ぎは限界に達しつつあった。

 おまけに日本政府の方針が定まらないのも問題だ。それ故に妨害以上のことはできない。日本の出方が分からない以上、別の決議案を提出することも拒否権も使うこともリスクが大きすぎた。アメリカが高麗軍の即時撤退を訴える横で日本が即時停戦を受託すればアメリカの威信は大きく傷つく事になるからだ。アメリカにはその危険を冒してまで日本を守る義理は無い。

 だが日本は決断をした。

「いやぁ。あと1日で中国に押し切られるところでしたよ。中国案には拒否権を行使し、こちらの停戦案を提案します」

「問題は中国をどう黙らすかね」

 大統領が指摘した。安保理で拒否権を行使できるのはアメリカだけではない。内戦中の国でありながら中国は相変わらず安保理に席を持ち拒否権を行使できるのだ。

「それは問題ではありません。我々も対等な武器を得たという事ですよ。中国が拒否権を行使するというのなら、すればいい。そうなれば我々は停戦勧告決議が採決されるまで好きなようにできる」

「なるほどね」

 アメリカの方針は決まった。




ニューヨーク 国連本部

 安全保障理事会では今日も北九州有事への対応について討論が重ねられていた。その展開は即時停戦を唱える中国大使にアメリカ大使が慎重論を唱え、それに対して中国大使が批判で応酬するというのを繰り返していた。

「我々はアメリカの対応を強く批判する」

 この日、最初に口火を切ったのは中国大使であった。

「平和の回復に必要なのは第一に戦闘を止めることである。だからこそ我々は即時停戦を主張しているのだ。しかし、アメリカはその妨害を図っている。アメリカが如何なる野望を目論んでいるのか我々の知るところにないが、アメリカの行動によって無辜な九州人民に無用の苦しみを与えている事に間違いない」

 理事国である各国大使を前に熱弁を振るう中国大使。昨日までは中国大使の演説に聞き入る各国大使とその様子を苦々しい表情で見守るアメリカ大使の姿が見られたが今日は違った。アメリカ大使の表情は妙に穏やかで不安のない様子である。中国大使はその姿に戸惑いを覚えた。

「私はアメリカ大使が世界平和のために積極的な対応をすることを望む。考えを改めて停戦決議採決に協力をしてほしい」

 中国大使は演説を終えると自分の席に腰を下ろし、次に発言することになっているアメリカ大使を見つめた。なにを企んでいる?

「それではアメリカ大使」

 議長である非常任理事国のアルゼンチン大使が促し、アメリカ大使が立ち上がった。

「中国大使は世界平和とおっしゃったが、貴方のいう平和とは如何なる状況を言うのでしょうか?」

 アメリカ大使の主張は中国大使への問いかけから始まった。

「国連憲章にはこのようにあります。国際的な紛争の解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること」

 白々しい。アメリカ大使を含めたその場に居た全員が同じ感想を抱いた。

「高麗軍が日本の領土内に居座り、その軍事力を背景に外交的要求を押し付けることを容認することを平和と言えるのでしょうか?」

 それにすぐさま中国大使が反発した。

「国連が真っ先に取り組まなくてはならないのは被害の更なる拡大を防ぐ事です。条件をつみあげることで停戦発効が遅れれば、今まさに戦場に居る人々がさらに傷つくことになる!アメリカの主張は死傷者を悪戯に増やすようなものだ!」

 さらに安全保障理事国を構成する国々の大使が次々と非難の言葉を口にした。

「そもそも軍事力を背景にした脅迫外交を推し進めているのはアメリカではないか!」

「今の大使の発言はアメリカの外交政策の転換を示すものなのか?はっきりしてほしい!」

「アメリカの横暴こそが問題だ!」

 非難の言葉が次々と浴びせられる中、アメリカ大使は強く宣言した。

「我々アメリカ合衆国は新たな停戦決議案を提出したい。国連は両国に対して即時停戦を求めると同時に、高麗に対して即時撤退を要求しなくてはならない!」

 流れが変わりつつあった。

 というわけで久々の投稿です。突然、国連なんかが出てきましたが。こうやってその場その場で新しいアイデアを埋め込んでボロボロになっていく様は如何に私の構成能力がヤバイかを如実に示すものです。申し訳御座いません。

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