一五.大空の戦い
その頃、航空自衛隊は高麗空軍との戦闘を続けていた。巡航ミサイル攻撃が一段落すると、高麗軍は陸軍の攻勢にあわせて前線の陸上自衛隊への攻撃を始めた。ただ実際の効果より陸軍の攻撃方向を誤認させることを主な目的としているようで、攻撃は飯塚ではなく大宰府攻防戦に集中した。さらに陸上自衛隊の防空網に突っ込む事を恐れたらしい高麗空軍は滑空爆弾を使ってのミサイル射程外からのスタンドオフ攻撃に徹したので、空自側の迎撃も手ごたえが無かった。
そんな中、これまで2機の高麗機を撃墜した野々宮3佐は新田原で待機中であった。彼は大規模な戦闘に参加できないのが残念で仕方が無かった。すると飛行隊の幕僚が待機室を訪れた。彼は野々宮ともう1人のパイロットをTACネームで名指しした。
「アーニー、アイスマン。出撃できるか?」
「はい。すぐにでも」
野々宮がそう答えると、幕僚はついてくるように手で示した。外へ連れ出すと幕僚は2人に任務を与えた。
「百里のRFが偵察に出る。護衛を頼みたい」
野々宮と僚機のパイロットはアラートハンガーに向かった。そこではF-15Jイーグルが何機も待機している。整備員たちは寝る間も惜しんで機体の整備に励み、稼動率を維持していた。
2人は愛機のもとへ向かうとコクピットに収まった。
新田原基地上空には戦闘機を最低4機常時待機させている上に、今まさに高麗空軍の攻撃部隊との間で戦闘が続いているので、誘導路には常に待機中のF-15で一杯であった。野々宮と僚機はその間をすり抜け、次の上空待機組の発進を待ってから滑走路に出た。
管制塔から離陸許可が出ると、2機のF-15Jは大空に飛び立った。
上空では百里から進出してきたRF-15Jが待機していた。3機はRFを先頭に編隊を組んで一路、北へ向かった。
対馬海峡上空を飛ぶ高麗空軍の早期警戒機E-737の中で航空管制官は迎撃に飛び立つ空自部隊の中に紛れて出撃する3機編隊に気づいた。偵察チームだとすぐに気づいた。オペレーターはすぐにF-16の2機に迎撃を命じた。
豊予海峡上空で警戒活動中の航空自衛隊のE-767早期警戒管制機も高麗空軍が偵察隊に向けて刺客を差し伸べたことに気づいた。
「アローリーダー、こちらアスター2。高麗空軍機が接近している。警戒せよ」
<アスター2、こちらアローリーダー。了解した>
高麗空軍の2機は散開し二手に分かれた。1機が護衛を引きつけて、もう1機が偵察機を仕留める手筈である。
その動きは直ちにE-767に探知された。E-737はその時に咄嗟にある作戦を思いつき、それを実行させることにした。それを聞かされたパイロットたちは明らかに戸惑っていたが、時間がないのですぐに実行することになった。
高麗のE-737は自衛隊の編隊が2つに分かれたのに気づいた。1機はそのままの針路を保ち、残りの2機が編隊を崩して囮のKF-16に向かって行く。高麗の作戦に自衛隊はまんまと嵌ったのだ。
囮となったKF-16は2機のF-15が迫っているのを知って、すぐに退避行動をとった。囮なのだから護衛を惹きつければそれで十分であり、それ以上の危険を侵す必要は無かった。
もう1機のKF-16はE-737の誘導に従って偵察機を追っていた。相手もこちらに感づいたらしく高度を下げて山々の陰に逃げようとしている。KF-16はそれを追尾して高度を下げた。相手は地形の影に隠れてしまったので、レーダー誘導式ミサイルによる長距離攻撃はできない。こうなれば接近して至近距離から叩くだけである。
KF-16のパイロットは機首のレーダーを作動させた。近接戦に持ち込めば勝てる自身があった。いくら強力な制空戦闘機であるF-15でも偵察仕様ならばパイロットは積極的に攻撃してこようとはしない筈だ。それに偵察器材がデットウェイトとなり空戦能力を落す。勿論、偵察器材を放棄すれば対等に戦えるかもしれないが、そうなればもう偵察はできないのだから高麗空軍は任務達成なので逃げればいい。負ける要素はない筈である。AN/APG-68レーダーがF-15を捉えたら、後はミサイルを撃ちこむだけであった。
だがレーダーには一瞬、なにかが映ったかと思ったら、すぐに反応が消えた。。そして、すぐに今度は警報が鳴った。
ドップラーレーダーは地上からのレーダー反射に紛れた下方の敵を探すのには重宝するが、その代わりに重大な弱点を抱えていた。つまり自機から見た地上と相手機の相対速度の違いから相手機を見つけ出すのであるが、逆に言えばその相対速度の差をゼロにしてしまえば捉えられなくなる。それは実に簡単なことで、相手の針路に対して直角に飛行すればいいのだ。自機から前後だけで見た接近速度は地面と変わらないのであるから誤魔化すことができるのだ。これがビーム機動である。
相手のF-15はESM―逆探―でKF-16のレーダー照射を捉えるとビーム機動で追尾から逃れて急旋回して、逆にF-16にレーダー照射を浴びせたようである。
KF-16のパイロットが後ろを振り向くと、自機を追跡してくるF-15を確認できた。翼の下に偵察器材は無い。放棄したのだとパイロットは判断した。つまり自衛隊は偵察に失敗し、高麗は作戦に成功したのである。後は逃げるだけである。
しかしF-15はしつこく追跡してきた。それにはKF-16のパイロットは驚いた。偵察機のパイロットが敵機に積極的に攻撃をしてくるとは思わなかったからだ。左右に何度も旋回し、フレアをばら撒いて引き離そうとするが、離れない。エンジンパワーはF-15の方が遥かに上なのだから、食いつかれたら逃げ切れないのは当然である。逃げられないとなれば戦いを挑むしかない。
KF-16はさらに急旋回してF-15の後ろに回り込もうとした。旋回性能ならF-16の方が上であるからドッグファイトに持ち込めば勝機はあった。しかしF-15の方も高麗パイロットの作戦にはのってこない。KF-16が後ろに回りこんでこようとすれば、エンジン出力を上げて一気に引き離す。F-15は圧倒的なエンジンパワーを武器に一撃離脱に徹する。相手から距離をとるとF-15は大きく旋回して背後にまわる。KF-16はその隙に逃げようとしたが、叶わなかった。
F-15は再びKF-16の尻に噛み付いた。パイロットは火器管制システムを操作して使用武器にAAM-3赤外線追尾式空対空ミサイルを選択した。弾頭のシーカーがKF-16の発する熱を捉えたことをブザーが知らせる。
「フォックス2!」
主翼下のパイロンからAAM3ミサイルが切り離され、続いてAAM3のロケットモーターが点火される。覚醒したミサイルは前を飛ぶKF-16に一直線に向かって行った。至近距離から発射されたミサイルにKF-16は回避運動をする暇もなかった。
ミサイルがKF-16の胴体に突き刺さった。機体は炸薬の爆発で真っ二つに折れて、二つに分かれて空中を舞った。すかさず空中を飛ぶ機首部分のキャノピーが吹き飛び、そこから座席ごと高麗空軍のパイロットが空に飛び出した。パラシュートが開き、高麗のパイロットは筑紫山地の山々にゆっくりと降りていった。彼の目はどこかの空へと去っていくF-15を追っていた。そして偵察器材を放棄させたのだから任務は成功したのだと自分に言い聞かせた。
囮のKF-16を追っていた2機のF-15が戻ってきた。敵機1機を撃墜したパイロットは早速、戦果を報告した。
「アイスマン、それでそっちはどうだった?」
<アーニー、残念ながら逃がしてしまいましたよ>
そこへもう1人のパイロットが割り込んできた。
<それにしても酷いですねぇ。偵察機に敵の戦闘機を追えだなんて>
「だが俺より安全だっただろ?」
3機目の撃墜に意気揚揚としている野々宮は偵察仕様のF-15のパイロットに指摘した。E-767AWACSオペレーターが咄嗟に考えた、野々宮のイーグルを囮にして相手の策略に引っかかったと見せかけRF-15Jを逃がす作戦は見事に成功したのだ。野々宮のイーグルを偵察機だと思い込んだ高麗空軍は囮となったKF-16をすぐに離脱させ、アイスマン機のウイングマンとして飛んでいたRF-15Jには一切手を出さなかった。
<それでは、これより偵察を実施します>
RF-15Jが2機のTACOM無人偵察機を射出して飯塚防衛線周辺を偵察した。
偵察の結果、高麗陸軍部隊は攻勢を中断して後退した事が明らかになった。飯塚への攻勢は終了したのである。この日の戦闘で、陸上自衛隊は防衛線の死守に成功し、一方で航空自衛隊は2機の犠牲と引き換えに2機の高麗機を撃墜した。
というわけで遅滞の章は政治中心と言いつつ戦闘ばっかになっていますね…
沖縄の普天間基地移設問題は結局、自民党時代の現行案に逆戻りのようです。アメリカの軍事戦略に基づく―そして我が国の安全保障に必要な―要求と普天間基地の危険除去を達成する唯一の解ですから、当然と言えば当然ですが、結局は政権交代から今日までの迷走は時間を浪費して日米関係に楔を打ち込んだだけとなりました。なんとも残念なことです。