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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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一三.ヒトマル無双

宮若市 脇野橋交差点

 空挺団第3普通科大隊は第1大隊と第2大隊の間に入り必要に応じて後方に浸透して後方連絡線を遮断するという任務が与えられていた。そしてその第3大隊の監視哨の1つが脇野橋交差点を見下ろす森の中にあった。その交差点は直方市から南下してくる道路が飯塚市街地へと繋がる県道30号線と接続する地点であった。

「高麗軍の活動を確認。中隊規模の部隊が南下してきた…いや、さらに別の中隊規模の部隊が続いている…」

 監視員は市街の空挺団本部まで引かれた電話回線に向かって見たモノをそのまま報告した。




飯塚市 市民公園

 第4戦車大隊第1中隊は稼動戦車数が一時7輌まで下がっていたが、なんとか現地で修理ができた3輌が復帰して10輌に回復していた。それでも定数に比べると丸々1個小隊を失ったことになる。中隊長は中隊を2個小隊に再編して、そのうち1個小隊を氷室に任せることにした。

 第1中隊は第41普通科連隊戦闘団に配属された。戦闘団は飯塚市民公園をはじめとした市内各地の分散して空挺団司令部からの命令を待っていた。

<サクラ21、こちらサクラ61>

 サクラは第4戦車大隊第1中隊に割り当てられたコールサインで61は中隊長車、21は氷室車を示す。

「サクラ61、こちらサクラ21。送れ」

 氷室が返答をしているうちに、車長用デジタルディスプレイに地図が映された。

<高麗軍が動き出した。ただちに迎撃に向かう。敵の予想現在位置と迎撃予定地点を送る>

 ディスプレイの地図上に敵を示す赤い記号と自軍を示す青い記号が現れた。

「分かりました。ただちに行動を開始します」

<了解、交信終わり>

 氷室が指揮する4輌の戦車小隊が一斉に動き出した。




飯塚市内 中交差点

 飯塚の盆地に入って最初の交差点で先頭を行く中隊が県道30号を進む大隊主力から分かれて左に曲がり、敵の防衛線がある北に針路を向けた。高麗大隊は3個中隊をそれぞれ遠賀川に並行して200メートル程度の間隔で敷かれた3つの道路を別々に前進させるつもりだった。

 次の交差点で別の中隊が左に曲がり、最後の中隊は川沿いの国道200号線とぶつかるT字路を左に曲がった。かくして3つの中隊が横に並んで進む事になった。




飯塚市内 私立中学校敷地

 氷室の10式戦車は地元の中学校敷地内の物陰に隠れ、車長用ペリスコープだけを出して監視を行なっている。

 遠賀川に面する中学校からは、敵の主要な進撃ルートになると見られた対岸の国道200号線をよく見ることができた。また周辺は畑が広がっているので、川沿いの道だけでなくずっと奥にある山沿いの道まで見通すことができた。

 山沿いの道を進む中隊が最も先に進み、真ん中の道を進む中隊がそれに続く。そして川沿いの国道200号線を進む高麗軍中隊の姿も確認した。どの戦車も別々の方向に砲口を向けて、自衛隊の奇襲攻撃に備えている。

「よし。全車。射撃用意!」

 氷室は車輌間データリンクを使って指揮下にある戦車3輌に目標を割り振った。これで同じ目標を撃って無駄弾を出すなんてことにはならないだろう。そして氷室は自らの戦車の目標を再びペリスコープで評定した。真ん中の道路を進む中隊の先頭3輌。それを連射で粉砕する。ロックオンをすれば、後は撃つだけである。最初に叩くのは、こちらに砲を向けている戦車である。

「全車、撃ち方はじめ!」

 4輌の戦車が一斉に飛び出した。主砲は予めロックオンしてある戦車に自動的に向けられ、目標戦車の動きにあわせて自動追尾する。

「撃て!」

 既に装填済みの主砲の発射ボタンを砲手が押し、44口径120ミリ滑腔砲から新型の徹甲弾が放たれる。

 口径長こそ90式戦車の主砲と同じであるが、10式に搭載されている主砲はずっと進歩したものである。例えば従来の戦車には装薬の爆発によって生じる有毒ガスが車内に入らないように外に逃がす排煙機を砲身に備えている。しかし、それでは装薬の爆発力が一部逃げてしまうことになる。そこで10式では排煙機を廃止し、発射後に砲尾から圧縮空気を噴射して砲口から有毒ガスを逃がすという形式を採用している。だから装薬の爆発力は砲弾に集中し、従来と同じ砲弾でもより威力が上がるのである。

 そして砲弾の方も装薬をより高威力にするなどの改良が施された新型のAPFSDS弾を搭載しており、その威力はドイツのレオパルド2A6戦車が装備する55口径長砲身120ミリ主砲に勝るとも劣らない強力な戦車砲なのである。

 最初の餌食となったのは主砲を進行方向右に向け、川のある方向を警戒していたK1A1戦車である。氷室戦車の一撃を受けて瞬く間に沈黙した。

 その前後に居たK1A1戦車は慌てて敵を見つけ出し反撃しようとしたが、氷室から見るとその反応は鈍く見えた。直ちに次弾が装填され―10式は90式に比べ装填速度も向上している―既にロックオン済みの第二目標に砲口が向けられた。

「撃て!」

 第1射からものの数秒後であった。ようやくこっちに砲口を向けた第二目標であったが、10式の放った砲弾がその瞬間に命中した。すぐに次の目標に移る。

「撃て!」

 氷室が第3射を命じるのとほぼ同時に、第三目標は氷室車にむけて発砲することができた。川の上で両者の砲弾が交差する。しかし精度は予めロックオンをした上で自動追尾して攻撃した氷室の砲弾の方が、高麗戦車が慌てて撃った弾より正確であった。氷室の第3射は見事に砲塔と車体の隙間に滑り込みK1A1戦車を粉砕したのに対して高麗の撃った弾は氷川の10式の固い正面装甲を掠って後ろに飛んでいった。

 氷室は戦車を隠れていた物陰に戻すと、直後に高麗軍残存戦車から放たれた砲弾が周辺に命中した。学校の施設が滅茶苦茶になったが、氷室戦車にはなんの被害もなかった。物陰からまたペリスコープだけを出して目標とした戦車を覗いてみると3輌のK1A1戦車が頓挫しているのが見えた。

 データリンクを通じて部下の戦車からも戦果報告があった。4輌の戦車がそれぞれ3連射した結果、11輌の戦車を撃破した。1個小隊で1個中隊弱の敵を撃破したのだから大したものである。

「よし。次の陣地に移動する」




県道449号線

 氷室小隊が高麗大隊に第1撃を浴びせている頃、中隊長と副中隊長の乗る10式戦車は県道449号線を北上していた。彼らの目的は国道200号線に到達後に高麗部隊は北上するだろうと考えられたので、その行く手を遮ることであった。

 氷室小隊の戦果・行動はデータリンクによってただちに中隊長の知るところになった。さらに氷室小隊長からも無線で直接の報告があった。

<現在、敵戦車11輌を撃破しました。交戦を継続します>

「よし。敵の規模はどうだ?空挺は1個大隊と言っていたが」

<私が把握している限りは、その情報に誤りはありません>

「よろしい。阻止を継続せよ。交信終わり」

<了解、オーバー>

 通信が切れると中隊長はもう1つの小隊の指揮官に通信を入れた。もう1つの小隊は高麗部隊が国道200号線を南下した場合に備えて第41普通科連隊の1個中隊に配属され、その南方で防衛線を張っていた。増強普通科中隊は普通科連隊本部から“高麗軍が北上したならば、ただちに北進して背後から強襲するとともに退路を断て”という命令を受けていて、そのタイミングを指示するのが戦車中隊長の役目であった。

「よろしい。ただちに予定通りに行動を開始してくれ」

 通信を切ると中隊長は現在の状況を分析してみた。主功はおそらく3個大隊編制の1個旅団である。そして1個大隊は西から現れた。残りの部隊は?



 空挺団司令部も同様のことを考えていた。残りの高麗部隊はどこにいるのか?

 気がかりだったのは国道201号線を通って西側から迫っている高麗部隊であった。第2普通科大隊が応戦中で、大隊規模の軽歩兵部隊である報告を受けていた。もしかしたら彼らが残りの機甲部隊の露払いを勤めているのかもしれない。戦線は膠着状態にあるという。となると敵のさらなる攻勢は西側から来るのか?

 司令部の幕僚の中には第1普通科大隊に空挺団に残る予備兵力を与えて防備を強化すべきであると主張する者もいた。だが団司令はそれを受け入れなかった。これといった根拠があったわけではないが、勘が“主功は西から来る”という考えを否定していたのである。むしろがら空きになっている東側に不安を感じていた。

 ただちに情報収集の徹底を命じた。飯塚の北を守る第2普通科大隊には北へ斥候隊を派遣するように命じ、また司令部直轄の偵察小隊と空挺教育隊から選抜された臨時レンジャー部隊にはがら空きになっている東方の偵察を命じた。さらに航空自衛隊にも航空偵察を要請した。

 それとともに東側に対する防備も固めることにした。第2普通科大隊のうち後方で予備として待機している中隊に東の福智町に伸びる県道62号線の防衛を命じ、また第41普通科連隊戦闘団に予備として残っている普通科2個中隊には国道201号線を田川市方面に進出させて防御陣を敷かせたのである。



 自衛隊が高麗軍の行動を探り、東西からの挟み撃ちを警戒していた頃、その東側からの攻撃を担う高麗陸軍第202大隊は迷走していた。第202大隊は田川直方バイパスを南下し、宮馬場という交差点で右折し、あとは県道62号線を西に進むだけなのだが、あろうことか先頭を行く小型車が右折すべき交差点を通り過ぎてしまったのだ。

 間違いに気づいた高麗兵たちは車輌縦隊を停止させると、車を降りて周辺を警戒しつつ正しい道を探した。

 先頭では大隊司令部の一行がハングルで書かれた地図と標識を見比べていたが、標識の地名は当然ながら漢字で書かれているので、うまく対照することができずにいた。日本語を解す情報将校も配属されていたが、やはり難儀しているようであった。

「畜生、誰なんだ漢字教育を廃止しようと言ったのは」

 韓国はかつて漢字とハングルを併用していたが、第二次大戦の終結とそれにともなう光復―つまり日本からの解放―の際に民族主義的見地から漢字教育を廃止していたのである。そしてその弊害が思わぬところで出ることになったというわけだ。

「こうなったら誰かに尋ねますか?」

 情報将校が大隊長に提案した。大隊長はかつてあるNATO軍士官がソ連軍の演習を視察した時に逸話を思い出した。演習中に道に迷ったソ連軍部隊がそのNATO軍士官に道を尋ねてきたという。しかしここには視察中の自衛隊幹部などいない。

「誰にだ?」

「誰でもいいじゃないですか?」

 周りには一帯の住人らしき人々の姿が見えた。彼らは距離をとりつつ高麗軍部隊を眺めている。戦時中の敵国部隊相手にも野次馬根性をはたらかせているらしい。

「そうだな」

某大型電子掲示板と某T-72神教本殿でTK-Xに関する記事、噂を見まして。私自身、90式を小型化してデータリンクを搭載したくらいだろう程度の認識だったのを見事に粉砕され、マジぱねぇってことになりました。というわけで、今回はそのTK-Xに無双をさせてみた、と(笑)


(改訂 2012/3/23)

 実在の人物の名前をカット

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