PTSDを発症させよう
人殺しをする主人公として、最初は「無我夢中で」「とっさに」「ただ殺されたくなくて」みたいな軽い心理描写でも大丈夫です。
その後PTSDを発症すれば、主人公の精神的な傷の深さは演出できるからです。
四〇万から一五〇万の帰還兵がPTSDになったというベトナム戦争を例に見てみましょう。
まず、人を殺すと人間の感情はどのように変化するものでしょうか。
【戦闘中の殺人に対する基本的な反応段階には、殺人に対する不安、実際の殺人、高揚感、自責、そして合理化と受容がある。】(364p)
この最後の段階、合理化に失敗するとPTSDを発症します。
1.殺人に対する不安
新米の兵士には二つの恐怖があります。うまく発砲できるだろうかという恐怖と、生き残れるかという恐怖。前者の恐怖のほうがより深刻だといいます。
「はじめに」の章でも触れましたが、第二次世界大戦ではこの段階を乗り越えて発砲できた米兵はわずか一五~二十パーセントです。
これを重く見た上層部が訓練を行った結果、【ベトナム戦争での発砲率は九〇から九五パーセントにも上ったと言われている。】(390p)
2.実際の殺人
【戦闘中の殺人は一瞬の興奮のうちに終わる。適切に条件づけされた現代の兵士にとって、そんな環境での殺人はほとんど反射的に行われ、意識的な思考はともなわない。まるで人間がそのまま武器になったようだ。】(367p)
3.高揚感
【「ものすごく興奮した……あの高揚感、長年訓練を積んだ末に、天にも昇るような気分、興奮、高揚感を味わって、あれは初めて鹿狩りに行ったときみたいだった」】(370p)
殺人によって高揚感を得た自分を嫌悪する人もいるようですが、これは正常な反応らしいです。
4.自責
【……私が経験したのは、嫌悪感と不快感だった……私は銃を取り落として声をあげて泣いた……あたりは血の海だった……私は吐いた……そして泣いた……後悔と恥辱にさいなまれた。いまも思い出す。私はバカみたいに「ごめんな」とつぶやいて、それから反吐をはいた。】(373p)
自責の念により二度と殺すまいと決意する兵士もいますが、ほとんどの兵士はこの強烈な感情を否定し、次の殺人を容易に行えるようになります。
5.合理化と受容
【自分の行いを合理化し受容しようとする生涯にわたるプロセスである。これはほんとうには終わることのないプロセスなのかもしれない。殺人者は自責と罪悪感を完全に捨て去ることはできない。とはいえ、自分のしたことは必要な正しいことだったのだと受容するところまではゆけるのがふつうである。】(374p)
合理化のプロセスとしては、仲間同士での共感や支えあい、指揮官からの称賛、市民の感謝のしるしであるパレード、地域共同体での尊敬、両親や妻の歓迎が主にあります。
【おまえは正しいことをした、社会はおまえが戦ってくれたことを感謝しているし、なによりも正気で正常な人々から成る社会がおまえの帰還を歓迎している、そう戦士たちに伝える手段だったのである。】(420p)
犠牲者や第三者からしてみれば何を正当化しているんだ! この人殺しが! ってなりますよ。でもこの浄めの儀式をしなかった帰還兵も相当悲惨な目にあってるんですよね。
6.合理化の失敗
ベトナム帰還兵は合理化のプロセスの恩恵にあずかれませんでした。かれらを待っていたのは敗北であり、冷ややかな周囲の目であり、経験を共有する仲間のいない(一年という短い任期のために戦友はあっというまにいなくなる)孤独でした。
恋人や妻は戦争の評判が地に落ちると、兵士を見捨てました。
【PTSDの症状としては、問題の経験が夢や回想として繰り返し襲ってくる、感情の鈍麻、社会的な引きこもり、親密な関係を結んだり維持したりする能力または気力の欠如、睡眠障害があげられる。このような症状のために一般社会への再適応が非常に困難になり、アルコール依存症、離婚、失業などの結果につながりやすい。】(434-435p)
ホームレス化、薬物依存症や自殺をする場合もあります。
アメリカ社会は合理化の失敗により負の遺産を抱え、現代の戦争は社会的に破滅的な代償を課すと学びました。(本当か?)
ベトナム戦争以後は、任期が満了してもすぐに飛行機で帰還させずに、冷却期間を置くために船で仲間とゆっくり帰還させたりと、そこら辺のフォロー体制に気を配ってるみたいです。
プロットを考えてみました。
社畜は剣と魔法の世界に転移してしまった! 魔導書を使った魔術師の才能があるようで、鬼上司にしごかれながら王国軍の魔術師見習いとして魔族と戦う日々……。
でも、夜中に鬼電してきたり、何時間も怒鳴り散らすパワハラ上司よりましだと自分を納得させ、社畜はがんばります。
魔族を模したゴーレムを標的にした反復練習のおかげで、本物の魔族と対峙してもパブロフの犬のように反射的に魔法を発動できました。厳しい上司もほめてくれるし、恋人もできるし、異世界楽しいな!
【今日の(そしてベトナム時代の)アメリカ陸軍および海兵隊で兵士の訓練に用いられている方法は、まさに条件づけ技術の応用そのものだ。これによって養われるのは、反射的な<早撃ち>の能力である。】(393p)
【まるで生きたターゲットのように、的はばったり倒れてみせるのである。技量が上がれば大いに報酬を与えられ顕彰されるが、標的をすばやく正確に「とらえる」(中略)のに失敗すると、軽い懲罰(再教育、同僚の圧力、基礎訓練キャンプを卒業できないなど)が待っている。】(394p)
ある時、戦闘意思のない魔族の女と幼い子供の家族を殺してしまいます。
社畜はそんなつもりじゃなかったと、後悔の念にさいなまれます。
今まで殺してきた魔族にも家族があった……。そう考えると、戦えなくなってしまいます。
周囲からは無能扱いされ、王国軍を首にされ、恋人も去っていきます。
失意の時、社畜は死にかけの召喚獣を拾います。モフモフとのコミュニケーションを通じて壊れかけた心を癒していきます。
しかし、不意に悪夢に襲われたり、突然大きな音がすると魔法攻撃してしまい、人ごみが苦手になります。
(アメリカン・スナイパーでこんな感じのシーンあったな)
(あれ本国アメリカでの評判が二分していたみたいで、実際の部隊での狙撃兵の評判に似ているなと思いました。英雄視される一方で不可触民のように扱われるっていう)
ちなみに召喚獣はヒューマンタイプの女に変化することができ、「マスターすごい♡ マスター好き♡」と愛を注いでくれます。
召喚獣と放浪していた社畜はたまたま魔王と出会い、討伐しました。
召喚獣は実はSSS級で、社畜の体液を取り込んだことにより魔王をしのぐ力を持つようになっていたのです。
魔王を倒したことで王国民に社畜SUGEEEともてはやされ、別れた恋人もよりを戻そうとやってきましたが、恋人にはざまぁと言って終わります。
面白いか(略)。
このエッセイを読んで興味を持たれたら、ぜひ実際に本を読んでみてください。
いろいろ使える話が載っていると思います。