次の目標は地中海のアフリカ沿岸の制圧か
ナチスドイツのバルバロッサ作戦発動によるドイツ軍のソ連侵攻以来、ドイツ軍の陸上戦力のほとんどはソ連に向けられていた。
しかしソ連は今までナチスドイツが戦ってきたポーランドやフランスと言った国々と違い緒戦において大敗を繰り返したものの、ソ連帝国軍は頑強に抵抗を続けた。
もともとドイツ軍首脳部はヨーロッパ西部でイギリスが降伏しないままにソ連を攻撃すれば二正面作戦となることに懸念を示していたが、ヒトラーは「土台の腐った納屋は入り口を一蹴りするだけで倒壊する」と豪語した。
これはポーランドやフランスでの電撃作戦の成功経験や、赤軍は冬戦争において自軍よりはるかに弱小なはずのフィンランド軍相手勝つことすら出来なかったという事実から、ソ連は弱いという判断を下したのであった。
さらにソ連に対する迅速な勝利こそがイギリスやアメリカとの講話につながるとも考えていた。
ウクライナとレニングラードの奪取を優先したヒトラーの意向を考慮して作戦は発動され、ナチスドイツ軍はキエフを占領したが、ソ連は徹底的な焦土戦術を実行し、ナチスドイツは補給に苦しんだ。
更にソ連のKV-1重戦車とT-34中戦車は、その当時におけるドイツの戦車よりも強力であり、レニングラードの占領もモスクワの占領も出来なかった。
またハボクックに搭載した航空機が壊滅し東部戦線での航空支援の不足も大きく響いた。
ソ連の緒戦の大敗北でアメリカもイギリスもソビエトの敗北を想定していたが、イギリスがそうであったようにソ連も抵抗をやめず、秋雨による泥濘とドイツ軍が予想しなかったほどの冬の寒さによりその足は完全に止まった。
しかしソ連のダメージはそれ以上に深刻であったことから、事実上両者ダブルノックダウンと言ったところに落ち着いた。
しかし北欧の鉱物資源に依存しているドイツにとって、ノルウェーが陥落したことは更に大きなダメージとなった。
また仮にモスクワやレニングラードが落ちたとしても、南京を喪失した中国国民党軍が重慶でしぶとく抵抗したように、ソ連もウラル以東で徹底抗戦を宣言していたから、本拠地をカザン、ペルミやエカテリンブルクなどもっと奥の都市へ移動して抵抗を続けたであろう。
いすれにせよナチスドイツには最初からソ連に完全勝利するのは事実上不可能であった。
そういった状況の現在、俺たちに与えられた次の目標は地中海南岸におけるモロッコとアルジェリアへの米英軍の上陸作戦の補助のために地中海からヴィシーフランスとイタリアも海軍戦力を排除し、上陸作戦支援をすることである。
なおイギリスは前回のノルウェー上陸作戦において運用に失敗した、パンジャンドラムをさらに改良したものを我々に提供しようとしたのだが流石に今回は丁重にお断りした。
紅茶をキメた人々の発想とそれを実現しうる情熱は一部見習うべきものだが、大抵はろくでもない結果になるのでな。
「今回はフランスとイタリアの海軍戦力が相手か」
俺がそう言うと美月くんは笑っていった。
「今回は楽に行くといいですね」
「ああ、そうだな」
とは言えヴィシーフランス軍が保有する戦力はリシュリューとジャン・バール、イタリア海軍がヴィットリオ・イタリア・ローマと正規空母のアクィラ、軽空母のスパルヴィエロくらいだろうが戦艦お性能としてはドイツのビスマルクやティルピッツと同等でもあるからそこまで侮れるものでもない。
だが、むしろそれより厄介なのは潜水艦だな。
今回の主目標はあくまでも英米の上陸作戦支援であって敵戦力の打破は目標達成ための手段でしかないが、歩兵や戦車などを輸送する輸送船に被害が出ては当然上陸作戦に支障をきたしてしまうだろう。
今回は英国から地中海へと向かうから事前に敵の編成もわからないし、取り敢えず対処できそうな、編成で行くしかない。
色々考えた末に旗艦は超弩級双胴戦艦の大和、大和型の改装双胴空母の信濃に島風旧駆逐艦4隻で行くこといした。
敵の水上戦力は大和と信濃で受け持って、潜水艦対策を島風に行わせるという感じ。
大和と武蔵は通常ボイラーから原子炉に載せ替えて、大和には60センチ主砲、その他にも対潜水艦用ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイルなどでも守りを固めた。
島風型は酸素魚雷発射機は外し、対潜水艦用ミサイル、対空ミサイルに対空機銃を載せて潜水艦狩りにほぼ専念させることにした。
これで多分なんとかなるだろう。
「さて地中海へと向かうか」
「はい、司令」
俺達は米英の輸送艦隊とその護衛艦隊に先立って地中海へと向かった。




