異世界……のはず。たぶん
「いらっしゃいませー!」
スイングドアを開けて大きな声を張り上げる。目線よりも高く積まれた段ボール箱。うっかり段差で引っかけたりしない様に注意して進む。何よりお客様にぶつけない様にせねば!
「すみませーん! 荷物通りまーす!」
ほぼほぼ視界を段ボールに奪われているので前が見えない。前方不注意もいいところだ。事故らない方が奇跡だ。
「失礼しまーす!」
段ボールの脇から顔を出して前方を確認しながらなので、どうしても時間がかかってしまう。せめて目線が段ボールよりも上ならもう少しスムーズに進めたのに。
誰だよ、こんなに高く積んだ奴は。
「遅い」
いたわ、高く積んだ奴。
「すみません、前が見えないからぶつけそうで」
「見えないって何で……」
どうやらやっと自分と私の身長差に気づいたらしい。いや、分かるでしょうよ。
どう見てもアナタと私じゃ10cmは違いますからね?
実際、アナタからは段ボールに隠れて私が見えてないでしょうが。
「一箱降ろしてくりゃよかったのに」
「売場がスカスカ」「特売なんだから急いで」って急かしたのはどこのどいつだ! それで怒られるとか理不尽!
「カトウさん、ミナトさんはまだ慣れてないんだから」
おぉ、チーフ! 我が救世主が降臨された!
「ミナトさん、とりあえずどんどん箱開けて。俺とカトウさんが並べてくから」
「わかりました!」
段ボールを開けた途端に四本の腕が伸びてきて、ものすごい早さで段ボールが空になる。急いで空箱を降ろし、次の箱を開ける。
え、ちょ、追いつかないんですけどー?!
「後はいいから次の箱持ってくる!」
「は、はいっ!」
従業員は店内を走っちゃいけない決まりなので全速力の早足で回れ右してバックヤード、つまりお店の作業場へと戻る。
「ミナトさん、箱積んどきました」
「リリアさん! ありがとうございますっ!」
救世主……いや、天使! 女神!
可愛い上に気配りも出来るとは。異世界女子ってすごい。