表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレでいいよ  作者: Aki o
9/34

綾音のお掃除大作戦 その8

 切っ先は肝臓を勢いよく貫いた。腹腔に血液がドロドロと注ぎ込む。まるで、腹の中に大きな寄生虫が居座っているような感触である。この寄生虫はやがて、内臓をえぐり始める。それまで血の通っていた綺麗な臓器たちが突如悲鳴をあげ始める。すべてが血に満たされていく。なんとなく暖かい感じがする。


 キャパシティーを越えると、クジラが潮を吹くように勢いよく、ワイン色をした血が溢れ始める。痛いという感覚を口にすることが出来ない。思わず涙を流してしまう。額には汗が滲む。赤ん坊のように肢体を必死にばたつかせる。そうすれば意識くらいは保てるだろうと考える。何をすればいいのかわからない。身体が熱を帯びる……。なんとなく気持ちいい感触。意識が次第に遠のこうとしていることに気が付く。


 まだだめ、もう少し頑張ろうと必死に励ます。

 若い。

 身体は最期まで悲鳴をあげ続ける。同時に助けを待っている。すぐに手当を受ければ、再び意識が帰ってくる。恭平として、人生を続けることが出来る……。


 「どうですか?もうすぐ私のことを見れなくなりますよ?」

 血の噴水を綾音はただそっと見ているだけだった。


 だから黒地のワンピースだったんだ……。

 すごく魅力的だよ。綾音ちゃん……。


 「とっとと私のことなんか忘れてくださいね。そうだ、理由知りたいですか?ねぇ、起きてくださいよ!」


 綾音はその華奢な足で、恭平の指を一つへし折った。もうすっかり血が通っていなかった。血のプールに青色の固形物が浮かんだ。


 「いっ…………………………!」

 「いいんですか?それじゃあ、もっとやっちゃおうかな!」

 今度は、肩を踏みつけた。恭平は顔をしかめるのがやっとだった。可愛そうな血が、ただれ切った表皮から少しずつにじみ出てきた。

 

 「いたくない、いたくないですよー!こんなの、私とお兄ちゃんの受けた苦しみに比べれば、はるかに小さなものなんです」




 








 お兄ちゃん…………。

 そういうことか。


 






 不思議なことに、痛みが次第に薄れていく。もうだめなのか……。

 今何をしているんだろう?

 そうだ、もう死ぬんだ。



 お母さん……。





 「この顔をお兄ちゃんに見せてあげたいです。でも、お兄ちゃんはこういうグロテスクな蛆虫を見るのが嫌いだからダメですね!」



 ナイフを抜いた?

 助けてくれるのか……。

 それとももっと傷めつけようとでもいうのか……。


 助けてください……。



 「さあ、よい子はそろそろお家に帰る時間ですよ。あなたのお家はどこですか?」

 


 俺の家は……。




 「魂が天に召されることを!」


 綾音ちゃんはまるで僕を介抱するかのように抱き着いてきた。



 その時俺は最後の笑みを浮かべた……。








 東の空が少しずつ赤みを帯び始めてくると、星々は自らの出番が終わったことを知る。太陽にバトンタッチし、西の空へと消えていく。黒一色にしか見えなかった海原が、少しずつ元の青さを取り戻そうとしている。




 綾音は血塗られたワンピースを恭平と共に、予め用意した穴に埋めた。一晩かかった大仕事は、しかしながら、綾音にとってはあっという間のことだった。疲れ切った瞳で一心に大陽を見つめた。


 なんとなく痛かった。そして、なんとなく清々しかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ