綾音のお掃除大作戦 その7
「私、なにも感じないんです……」
恭平は焦った。いくら綾音の身体を貪ったところで、肝心の姫鳥は、一向に美しい声を漏らさない。例え無理やりに処女を奪ったとしても、最初は必死に抵抗するのだが(恭平の性癖によれば、これはこれで興奮する)、次第におちていく。恭平に導かれて、快楽の渦へ飲み込まれていく。恭平の口説きも相まって、女は完全に恭平のものとなる……。
「不感症ってやつなのかな?」
恭平は恐る恐る尋ねた。そもそも、感じないということを自覚しているのだから、過去に男を受け入れたことがあるのか、それとも、必死に自らを慰めているのかのどちらかである。仮に男だとしたら……。一体誰なのだろう?
「私ね、昔からなんですよ。男の子って単純ですよね。恭平さん。あなたも同じようです。女の子を征服した気になって喜ぶんでしょう?あれは大抵演技なんですよ?本当に気持ちよくなっていると思います?そんなことありませんよ。ただ、そうしないと捨てられてしまうのではないかと不安になるので、仕方なく演技しているだけなんですよ……。身体だけを求める男の人に本当の愛を注ぐわけないじゃないですか……。だから快楽もへったくれもないんです!分かりますか?」
「何を言っているのかさっぱり……。よくなかったのなら謝るよ。ごめん。今日のことは忘れてくれ。君の言ったとおりだね……。僕は君のことを愛している。しかしながら、二人にとって、こういったことは未だ早すぎたのかもしれない。若気の至りってことで赦してもらえないだろうか……。あぁ、そうだ。罪滅ぼしと言ってはなんだが、明日一緒に買い物でもしないか。僕のおごりで!」
この人は何を言っているの?
ねえ、何を言っているの?
分かるように説明して!
全くわけが分からないわ。
そんなに私をおとしたいわけ?
馬鹿げている……。
気持ち悪いよ……。
何もできないよ……。
お兄ちゃん……。
馬鹿が何か言ってるよ……。
私を汚したよ……。
殺しても大丈夫だよね……。
お兄ちゃんを虐めて、私を犯したの……。
この世界は私とお兄ちゃんで出来ているの……。
二人は神様みたいなものなのよ……。
神様を冒涜しちゃった悪い人には死しかないよね?
そうでしょ、私の愛する神様?
いいよね……。
もう我慢しない……よ?
「分かりました……。明日ですね。色々買ってもらおうかな……」
「何でもいいよ。欲しいものなら何でも!」
「神様に誓えますか?」
「えっ?」
「欲しいものなら何でもあげるって、神様に誓えますか?」
「神様って……、随分とオーバーだな……」
「だって、結婚する時も、神様の前で誓うじゃないですか」
「まあ、確かに……」
「では神様に誓ってください。上を見上げて」
綾音が指さした空には、たくさんの星々が煌いていた。月は自分の出番を待っていた。
「空に……、天に誓ってくださいな」
「そんなに大層なことなのか……」
恭平は渋々天を見遣り、語り始めた。
「ところで欲しいものって何なんだ?」
「私が一番欲しいのは、心の安定なんです」
「へぇー。また随分と難しいことを言うもんだ。それは買えるものなのかい?」
「多分難しいでしょうね。私の安らぎを邪魔するものって、この世の全てみたいなものですからね……。あなたも例外じゃないですよ……。恭平さん……」
「僕も……。君の安らぎを邪魔するって言うのか?」
「はい。あなたはどうも、私の気に障ることが大好きなお馬鹿さんみたいですから……。端的に言いましょう。私の安らぎはあなたの命と引き換えってことでどうでしょうか?」
恭平は、ただの冗談だとばかり思っていたので、ついつい笑ってしまった。
「命が引き換えだって?冗談はよしてくれ。そんなこと出来るわけないだろう。そもそも僕が君の気に障るようなことをした覚えなんてないよ?」
「本当にそう思いますか?」
「神様に誓って!」
お兄ちゃん……。
もういいよね?
「帰りましょう」
綾音は恭平の背後に回った。恭平は何も不思議に思わなかった。
「明日のことなんだけどさ……」
恭平は言葉を続けることが出来なかった。綾音は持ち合わせた果物ナイフで、右の背中を突き刺した。
肝臓を突き破れば即死……。
痛めつけるのもいいけれど、確実に仕留めたほうが良いでしょう?
「なぜ……なんだ……」
なぜなんだ……。
何をしたと言うんだ……。