綾音のお掃除大作戦 その5
私がお兄ちゃんを好きな理由?
その答えはなんとなく知っている。家族だから?多分そんなものだろう。でもね、お姫様が欲しがるのは、遊びの愛なんかじゃないの。男の子って単純だから、女の子を簡単に切り捨てるでしょう……。私の周りにはそんな下衆が多いんだ。みんな顔はいいかもしれない。口説くのが上手いのかもしれない。
でもね……。
私は未だ本当の愛を知らない。
私って可愛いんだって。男の子たちが私に興味を示す。僕と付き合ってくださいだなんて、子供でも言えることなのに……。直ぐに断ると相手に悪いと思うから、とりあえず、はい、と返事をしてみる。男の子は凄く喜ぶ。本当にいいの、って尋ねてくる。私は仕方なく頷く。他称、男の子に少しはもてる、ということがお小遣い稼ぎにつながるのだとすれば悪い話ではない。後でお兄ちゃんに御馳走を買ってあげられる。
お兄ちゃんは私が養わないと何もできない子だから……。
「それで、恭平さん。いくらくれるんですか?」
恭平は綾音と様々な話をした。正と遊んだ幼い日々から好きだったということを伝えた。その後もいくつか言葉を並べ立てたが、とどのつまり、好きであるという事実を伝えているだけだった。恭平は自分の経験に鑑みて、これなら大丈夫だと感じていた。綾音は恭平が面白くて仕方がなかった。まるで、全く受けをとれない芸人に向けられた嘲笑。
余りにも気持ち悪くて吐きそうだから、ついつい聞いてやった。恭平さんは少し狼狽えていた。まさか、こんな質問を投げかけられるだなんて思っていなかったのだろうか?
「綾音ちゃん……。いくらって、どういう意味かな?」
「だから、私をいくらで買ってくれるんですか、って聞いているんです」
「買うって……。まさか……」
「そのために私を呼んだのでしょう。違いますか?」
「いや、お金とかそういう問題じゃなくて、その……。そういうのはもう少し後の方がいいんじゃないのかな……」
恭平は自分のペースが少しずつ崩れていくことに危機感を憶えた。人気のない暗闇。買う、買わないは別として、綾音を自分のものにするのには格好の場であった。しかも、綾音の方から誘っている。綾音はワンピースの裾を持ち上げて、華奢な下肢を、少しずつ顕わにしていった。どんな色にも染まらないモノトーンな白だった。恭平の息遣いは次第に荒くなっていった。今まで触れてきたどの女よりも魅力的だった。これほど価値のある女を自分のものにできると考えれば、当然のことだった。
「見ているだけでいいんですか?早く買ってくださいね……」
綾音は躊躇することなく、自らの身体を曝け出した。慣れっこのはずの恭平も、言葉を失うほどだった。すらりと引き締まった身体は、見る者にとって時に残酷だった。それは、成熟しきった女の、ある種母性にも似た温かみを全く欠いていた。月明かりに照らされた綾音の裸体は優美であることに変わりはないが、同時に少しばかり冷たかった。
「女の子を待たせるんですか?さぁ、早く買ってくださいませ」
綾音はまるで、いたずらに興じる子供のようだった。恭平は何と答えればいいのかすっかり分からなくなった。綾音は暫く、浜辺に打ち寄せる不気味な波の吐息に耳を傾けた。