佐々木正 その4
僕のことを殺してください……。
犯罪者の汚名を背負うほどのベネフィットがあるというのか?
神様が……。
ストップ!金になるのか、と訊いているんだ!
この馬鹿が!宗教家じゃないんだから。
私は偽善者ではない。悪人なのだ……。
ゲームはもう終わりにしよう。考えても答えは出ない。
浜辺に打ち上げられている小舟。
僕と同じで壊れている。
行く宛てがないのだろうか?
あちらの世界にお便りを届けに行くのか?
随分と長い旅になりそうだな。
でもきっと楽しいんだろう?
海は自由だ。
苦しみのない悲しみのない
そんな自由を与えてくれる。
僕は旅に出る
一粒の涙を残していこう
誰かが触れる前に
空へ帰っていく
「お兄ちゃん、起きてる?」
僕は少女にとってお兄ちゃんなんだ……。誰だろう?可愛い。
「また寝ぼけてるの?」
そうか、これは夢の世界なんだ。僕はずっと夢の中を彷徨っているんだ。現実なんかとっくの昔に置いてきたんだ……。
「可愛い子だね。ほら、抱っこしてあげよう」
「ちょっと……、お兄ちゃん、何してるの?」
綾音は顔をやかんのように赤めた。正の方から迫られることが最近なかったので、気が動転した。
「可愛いお人形さんだ。君は僕にとってなんなんだ?あぁ、これほどあどけなくて幼気な少女に触れたことがあるだろうか?何か、神様はロリコンに寛容なんだな……。それもそのはず……」
正は一度咳払いした。
「僕は幼女の救世主になるんだ!君はどこかの飼い猫だったのだろう?お父さんのお仕置きに耐えられなくなったのか?きっとそうだ!親ってろくでもないんだ。子供が可愛いって言うけど、つまりは子供への過度な干渉に対する免罪符みたいなものなんだ。そうだろう?」
正は綾音の華奢な肢体を、決して汚さないように、ゆっくりと撫でた。
「ヒャァッ!」
綾音はいい声で鳴いた。
「心配しなくていい。僕は君の嫌がることを絶対にしない。僕は君が美しく育つのをただ見ていたいだけなんだ。どうやって美しくなるかは……、君次第なんだけど……」
「お兄ちゃん、なんか変だよ……」
「ちなみに僕はお兄ちゃんと呼ばれるのが好きなんだ」
綾音は正に渡そうと思っていた万札を一度ポケットに仕舞いこんだ。まるで熱病に犯されたような正の看病をする方が先だと思った。