佐々木正 その2
それから僕はしばしば同じ夢を見るようになった。子猫が入っていた段ボール箱の中には、一人の少女。歳の割には、全てが人形のように上手く調和していた。僕は思わず少女を抱き寄せた。
「こんにちは」
少女はきっと僕を恐れたに違いない。捨てられたとはいえ、ロリコン特有の危険な気配を感じずにはいられなかったのだろう……。
「お兄さんも……、私を……、虐めるの……?」
虐めるって……。
「私を食べるの?」
食べるって……。
「いや……。いやだよ……」
一体何を恐れているんだ……。
「僕は少なくとも君の味方だよ」
少女を安心させるには何が一番いいのか考えた。見知らぬ男にこのまま抱きかかえられていたのでは、泣くにも泣けないだろう。ひとまずこの場を離れる方が賢明か……。
お兄さん、行かないで……。
こんなふうに声をかけてくれるものなら、僕にも青春はあったと言えるだろう。まぁ、そんなに上手くいくわけないんだけど……。
「お兄さん。どこへ行くの?」
おや?
少しは期待してもいいのかな?
「これは気の迷いだ。その……、君があまりにも可愛くて、それでいて可哀想だから……。君はこれからたくさんの幸せを得るだろう」
「……、でも、いまは、ちっともわらってない……。なんでだろう、すごくなきたいんだ……」
泣いた姿も可愛らしい……。
ああ、僕は残酷だ……。
本当に残酷だろうか?
「私は、泣くことくらいしか出来ないんだ……。もう泣きすぎて、流す涙なんか、もうないんだよ……」
少女はきっと僕と似ているんだ。
何か悲しいことがあったのだろう……。
当たり前か。親に捨てられたんだから……。
誰にも愛されない人生なんて、意味ないもんな……。