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ヤンデレでいいよ  作者: Aki o
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3年ぶりの出会い

 

「もぉ、また私のところに来ちゃったの?お兄ちゃん、本当にどうしようもないんだから!」

「いや、やっぱり綾音の声が聞きたくなっちゃうんだよな。本当に……。だめなお兄ちゃんかな?」

「別にそんなことはないと思うけど……。まぁ、妹想いなのは感心します」

「そうか、ありがとう……。ところでさ……」




 ねえ、何あの人? ぶつぶつ喋ってるよ……。

 ほら、見ちゃだめよ……。

 気持ち悪いわ。どっかいけよ……。

 お前みたいな屑がこの町をだめにしていだめにしていくんだよ……。

 お前だよ、お前!

 こいつ臭いわ。風呂入ってないの?そもそもホームレスだっけ?

 おーい!佐々木君だっけ?こんにちは!

 ほら、学校始まるよ?

 あぁ、また馬鹿が這い蹲ってらぁ。

 少し虐めてやるか? 良いかもだ。

 おいおい、殺すんじゃあねえぞ。

 そんなことするかよ!金をかっさらうだけだ。

 見ろよ。マジでうけるんだけど。

 滅茶苦茶弱いじゃん?

 何こいつ?

 一人でぶつぶつ言ってんぞ?

 何?

 妹は何処へ行ったかって?

 佐々木の妹?

 誰だよ? 

 あれー?佐々木の妹って家出したんじゃなかったけ?

 そうだよな?兄が兄なら、親も親だよな!

 もう止めようぜ。縁起が悪い。じきにあいつもいなくなるだろう。

 そんじゃ、今日も神様にお祈りするとしますか。

 佐々木君がこの町からいなくなりますようにってな!

 ほら、佐々木!何とか言えよ。

 なぁ!


 ザワザワザワザワザワザワザワザワ……。僕は難聴なのだろうか?



「佐々木!」

「ふぇっ?」

「なに狼狽えてんだよ。早く金をよこせって」

 僕は今不良に絡まれている。正確に言うと、かつての同級生。しかも、元々はそれなりに親しかった奴らだった。

「早くしろって。聞こえてないのか?」

「……お金は、ない……」

「ない、だと?」

 彼らは唾を僕に向けて吐き出す。何が面白いのかよく分からないけれど、不気味に笑っている。

「ならば力づくで奪ってやる」

「ないものはないんだ……」

 次の瞬間、振り上げられた拳が、僕の額を直撃した。殴られるのは慣れっこだったが、それにしても結構痛い。思わず涙が溢れてくる。それは、悲しみと同時に、やり場のない静かな怒りが籠っている。彼らは何も知らない。知らなくていい。ただ僕を殴って、それを快楽だと思えばいい。つけつけと僕の神聖な心の中庭に入ってきて欲しくない。

「……あるじゃねえか。手間かけさせやがって」

 彼らは僕から10000円札を奪っていった。一週間は真面な食事にありつけない。まあ、よくあることだけど。


 僕が普段寝床にしているのは、海岸沿いにある小さな防波堤。幼い頃から海が好きだったから、というわけではないと思うけれど、何となく潮の匂いに導かれて、かれこれ一年が経つ。

 夜空を見上げればたくさんの星、と言いたくなるけれど、不勉強だから、星座のことは何も分からない。そう言えば、綾音が七夕の話を良くしていた。何でも、織姫が綾音で、彦星が僕だったっけ?

 まぁ、そんなことはどうだっていい。星は所詮、浜辺の白い砂と一緒。一円玉の一憶分の一くらいの価値しかないだろう。それでもいっぱいあるから、この景色は100円くらいあるかな。毎度ありがとうございます。僕はただで見ていますよ。


 食事がないときは、とりあえず近くのごみ捨て場を物色する。ほんと、世間の人は金持ちだと思う。だって、食べ残しを平気で捨てるのだから。どういう神経をしているんだろう。

 今日の収穫は、パンと野菜。それに食いかけのハンバーグ。ハンバーグは僕の好物。ちょっとした贅沢だ。仮に毒が入っていて、食べた瞬間に意識を失ったとしても、後悔はしない。


 人の命なんて、綱渡りと同じなのだから、死ぬ時は本当に死んじゃうんだ。そう割り切れば、怖いことなんてないんだ。


 ささやかな御馳走を愉しんだ後は、近くの水道から水をくむ。税金納めてないんだから使うなって?それくらいいいでしょう。だめだというのなら、早く僕を楽にしてください。どんな手段を用いてもいいから。なんなら、大人たちが力づくで僕を拘束して、そのまま海に放り込んだっていいんだよ?できるの?


 これって結構難しい問題だよね?


 水分補給を終えたら、後はもう寝るだけである。無駄な体力は使わない。生き延びるための知恵である。コンビニからもらった段ボールを地面に敷き、身を横たえる。いつになく星が綺麗である。少し手を伸ばせば届くかも……………………。



「お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃんたら!」

 綾音の声が聞こえる……。そういえば、さっきから目の前に女の子がいたりして……。綾音なのか?

「お前、綾音なのか?」

「もぉ、何寝ぼけてるのよ。そうよ。佐々木綾音」


 綾音がいる。本当にいるぞ!


 ちょっと待って。こうして本人の姿を見るのは何年ぶり何だろう?家出したのが中三の夏だったから、かれこれ三年ぶりか。それにしても、全然変わってないな。背は伸びてないし、体格も昔と同じだ。そう、小さな女の子。一応今年で18歳なんだよな……。 


 綾音との再会があまりにも突然だったので、何から話せばいいか整理がつかなかった。今までどこに行っていたんだ、と厳格な父親のように詰問するべきか、それとも、また会えてよかった、と甘々な母親のように接するべきか……。


「綾音、僕……」

「ねえ、お兄ちゃん。知らない人の匂いがする……」

「へぇ?」

 綾音は突如、そう言った。知らない人の匂いって何だ?

「すごく不味そうなオスの匂いがする。嗅いだだけで吐きそうなくらい……」

 綾音は突如、何かを思いついたような顔をして、僕を睨み付けた。

「まさかお兄ちゃん。ホモになったの?」

「ホモ?」

 ホモって何だ?我が妹よ。何を言っているのかさっぱり分からん。

「誰よ。お兄ちゃんを誑かしたのは……」

 その時、僕は綾音の瞳が言葉で表現できないほど、汚く濁り歪んでいることに気が付いた。それは、昼間僕を痛めつけた不良の瞳にある種似ていた。自分の方が優れていることを相手に認めさせ、絶対に逆らえないようにする手段だった。


 綾音には似合わない


 綾音は本当に優しい子だった。人を傷つけたことなどない。その方法を知らない。瞳はいつも海のように穏やかで、話す人みんなが幸せになる。勿論、僕も。


「ねえ、お兄ちゃんに付きまとってるのは誰なの。ねえ、答えてよ!」

 綾音は何か焦っているようだった。まずは落ち着かせないといけない。僕は必死に考えた。何かいい方法はないだろうか……。

「答えてよ。ねえ、早くしないとその人殺しちゃうよ?」


 僕は、綾音の言葉を逐一脳みそに記録していた。今この瞬間もそうである。しかしながら、ある一つの単語だけ除外された。


 綾音は優しい子なんだ



 その通り。優しい子だから、殺すなんて物騒な言葉は使わないでしょう?


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