6
6
______
今日の出来事を使って、明日を創造しなさい。
___N・D・ウォルシュより。
______
刺激的な、上鬼柳瑠花との出会いはそれこそ劇的なものであった______
正確に言えば、出会いというより、"発掘"である。
上鬼柳瑠花は、とある神社の雑木林で、"頭だけを地中から生やしている、幌萌創"を発見し掘りおこした。
意識を失っていた僕を"優しく介抱してくれた"上鬼柳瑠花さんの助けにより、僕は自分の姿を奪った、コピーした、鏡鬼から全てを取り戻せたのである。
「タケノコになってたの? 幌萌君」
「そんな可愛いモノじゃない、意識は無かったが1日近く埋まっていたらしい。身体中バキバキになってたよ」
「タケノコってそんなに可愛いモノでもないよ幌萌君。
タケノコはbambooshootと呼んでね。成長speedの早さで死亡事故を起こしたという事例もあるんだよ」
そう言い、班蛇口有栖は注文したタケノコの天麩羅を口へ運んだ。
駅前の居酒屋でも初春の今時期はタケノコの肴がメニューに並んでいる。
「うん・・・tasty!」
「殺人鬼タケノコね。キラーコンドームよりも想像できないな」
「地中の至るところからconcreteを突き破るタケノコの襲撃・・・・・・panic movieになりそうだね」
「カオスだな」
タケノコの天麩羅を一口、口に運び。冷の日本酒と共に口内で転がす。
うん、美味しい。
リーズナブルだけどこの居酒屋は料理の味も抜群にいい。
それでいて個室で落ち着いた、料亭の造りを模した雰囲気の良さも合間って。僕は大体誰かと飲みに行くときはこのお店を利用している。
誰かと言っても班蛇口か、後輩くらいしかいないのだが。
季節によって料理のバリエーションが変わるので何度来てもマンネリもしない。
「上鬼柳さんって幾つくらいなの?」
「たぶん24、5くらいじゃないかな」
「・・・・・・平気なの?」
「そう何度も確認するなよ、僕の事なんて路傍の石とも思ってないよあの人は」
「・・・・・・」
班蛇口は、キール (白ワインとカシスリキュールのカクテル)を呑みながら僕の目をジッと見つめる。
「逆なら・・・・・・?」
「逆?」
グラスを一気に飲み干した班蛇口は、注文用のタッチパネルに次杯を打ち込みながら尋ねてきた。
「もし、上鬼柳さんが幌萌君を襲ってきたらどうするの?」
「・・・・・・有り得ないよ」
「ねえ、sexualな意味じゃなくて」
オーダー完了とパネルに浮いた文字を眺めながら班蛇口の言葉を流し聞く。
「violenceな意味でだよ」
「・・・・・・うーん」
「この話題嫌い?」
「いや、別に・・・・・・心配してるのか、班蛇口」
「うん・・・・・・私は見てないからね。exorcistのpowerのことも。上鬼柳さん自体の人間性についても。
幌萌君の話を聞く限り、悪い人間ではないと感じるけど。私の目で見ないとね・・・・・・安心出来ないよ」
班蛇口のグリーンの瞳が揺れる。
「じゃあ、会ってみるか?」
「うーんうん、今は遠慮しとく。廻り合わせに任せるよ」
「巡り合わせ?」
「そう、その人は『Constantine』のKeanuみたいな人なんでしょう? 幌萌君のpinchに現れたprinceならぬprincess。
私がpinchの時に助けに来てくれるんじゃないかな?」
肘をテーブルに沿え、ほんのりと頬を染めた班蛇口は微笑んだ。
「私も幌萌君と一緒にいれば。きっとDevilに好かれてしまうんでしょうから」
「・・・・・・お前は小悪魔みたいだよ」
艶っぽく、シットリと囁いた言葉に心臓が高鳴る。
「そう何度もストーリーめいたことが起きてほしくないけどね」
「ふふっ・・・・・・楽しみにしてるよ」
店員さんが班蛇口の注文したカクテルを持ってきてくれた。
班蛇口の顔をチラリと見て、気まずそうに足早に下がっていってくれた。気遣いは無用なのに。
私、酔っちゃったの・・・・・・何て班蛇口は絶対口にしない。例え相撲取りとペースを合わせて飲んでも、班蛇口は最後まで自分の足でしっかりと立ち上がることが出来るであろう。
物凄い酒豪なのである。
「・・・・・・楽しい?」
「うん! 楽しいよ・・・・・・だって疲れないもん。幌萌君と話してても」
「疲れるか・・・・・・僕以外の人とはそうなのか?」
「深読みしないでよー、Damn・・・・・・」
雰囲気には酔うよと、班蛇口はイチゴの浮いたカクテルをストローで飲み、僕の空いた御猪口に日本酒を注いでくれる。
「ごめん、意地悪なこと言って。嫌わないでね」
「いいや。そんなことないよ、班蛇口」
僕は君に必要だと思ってもらえて嬉しいよ。
日本酒で、僕らしくない台詞を飲み込んで、
「班蛇口を嫌いになることなんてないよ」
「上鬼柳さんを敵に回しても?」
「それを意地悪な質問っていうんだよ、答えはイエスだ」
瑠花さん。僕の知る世界一頼りになる人間。
つまり世界を敵に回しても私を嫌いにならない。
つまり好きでいてくれる。
そんな話。今の僕の頭じゃ作り出せないよ班蛇口有栖。
「嫌われたくないもの、幌萌君には」
「珍しいこと・・・・・・いや嬉しいこと言ってくれるな」
多少、酔いが回ってきてるのかテーブルに両肘をついて班蛇口は、
「幌萌君と話をするの楽なんだよ、何でも話せちゃう・・・・・・」
何でも話せる相手なんて、家族くらいしかいないだろう。
いや、もしかしたら両親が外国に居る班蛇口にとっては、そこまでうち明かせる相手が身近にいないということなのだろうか?
国際電話もお金がかかるし、時差も鑑みなければ失礼だ。
そんなことを考えて、僕にしか砕けた冗談や無駄とも思える会話や小論義を披露できない班蛇口有栖という優等生。
人格者、成績優秀、眉目秀麗。
そう評される班蛇口有栖が、安心出来る時間を与えられる存在の1つに僕が入っているのかもしれない。
とても光栄なことだ。
尊敬する友達から、そう思われることは______
いまの班蛇口は、とても魅力的だよ。
「それなんて、お酒?」
「うーん・・・・・・sangri~a!」
「タルトみたいだな」
イチゴのほかにもパイナップルやオレンジが浸けられている赤ワインベースのカクテルに、そんなファンシーな例えをそえる。
「ねえ、知ってる幌萌君。不思議な力をもつ人のこと昔は男でも女でも魔女って呼ばれてたんだよ・・・・・・」
「魔女か・・・・・・悪魔に憑かれた僕もそう呼ばれるのかな?」
「中世ならね・・・・・・上鬼柳さんもそうなのかな?」
いや、彼女は"鬼"だ。
上"鬼"柳なんだし。魔女というには些か"帽子"が似合わない。
さあ、今日のノルマは終わり。
班蛇口に、僕が体験した物語を語ることは完了した。
その報酬に、可愛らしい彼女の姿を目に収めさせてもらい。
これは、魔女と、鬼の物語______
何て言えば多少はロマンチックかな______
そう心の中でしめて。
僕は注文パネルを操作した______
鏡鬼伝 終