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鬼伝シリーズ  作者: 春ウララ
鏡鬼伝~DOUBLE~
4/29

3

3

 

 

 

 ______

 

 

 私が猫と戯れているとき、ひょっとすると猫のほうが私を相手に遊んでいるのではないだろうか。

 

 ___モンテーニュより。

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 猫を飼いたいと思ったことは何度もある。親にせがんで動物を飼いたいと言う経験は誰にでもあることだと思う。

 理由は簡単。

 可愛いじゃないか、癒されるではないか。自分だけの友達が出来たような、相棒が出来たような感覚になれるではないか。

 金魚やウサギなどでは我慢できず、通学路を毎日、拾ってくださいと書かれた段ボールを探し、遠回りして歩いたのも遠い日の思い出だ。

 キャッツ&ドッグスが好きだ。キャットウーマンが好きだ。キャットウォークと名前だけに惹かれて照明の勉強を始めた・・・・・・というのは言い過ぎだが。

 飄々と陽の赴くまま、風の赴くまま自分の何倍も高い塀に登り、ツンと上を向き、気高さと孤高さを感じさせる佇まいと、餌を媚びに足元へとすり寄ってくる姿の二面性。

 ツンデレという言葉は猫による猫のための言葉と言っても良いだろう。

 エジプトでは神の象徴にもなった高貴な愛玩動物の虜になった時期が、僕にもあった______

 

 ______理想と現実は違った。

 実際に飼っている友人の家に遊びに行くと。

 といっても、僕の場合は少し極端で、一軒家に20匹もの猫を飼っている友人の家に遊びに行った時にその幻想は打ち砕かれた。

 

 匂いだ。

 人間の五感の1つ、嗅覚。刺激的な獣独特の、あの薫りに僕の偶像崇拝にも近しかったイメージ図は無に期した。

 猫好きの人達には聞き苦しいかもしれないが、正直に感想を述べさせてもらうと。

 獣臭が凄まじい、鼻だけを猫の額に落としたかのように友人の家では寝室に行こうが、キッチンに行こうが、終始鼻を強烈な獣臭に責め立てられているようだった。

 まあ、それも飼い方次第でどうにでもなるのだろうが、僕はその匂いと共に暮らすことは無理だとその友人を通じて、正直に思った。

 今では猫カフェの前を通りすぎて、遠目に楽しむくらいにしている。

 

 猫だろうと、人間だろうとその感覚は変わらないのではないかと思いだしたのは最近のことだ。

 結婚目前のカップルも同棲しだしてから、破局するという事があるように。

 匂いも、性格も、身体の構造も全く異なる存在との共同生活。

 それは、大きな影響、ないしストレスを自信に与えることだろう。

 

 今のこの生活に順応できているのは、妹という身近な異性がいたお陰か。

 それとも、また別の。

 

 "耐性がついていたからか。"

 

 上鬼柳瑠花かみおにやなぎるかという女性と、僕は一緒に暮らしている______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・?」

 

 朝のニュースに変わり、聞こえ始めた聞き慣れた音。

 ディスクの回る音だ。ゲーム機兼DVDプレイヤーが1枚のディスクを読み取っている音に耳がそばだつ。

 出自も人生もまるっきり異なる僕たちだが。奇遇なことに映画の趣味は合う。

 最初、悪魔払いを生業としているのだから、『エクソシスト』や『ザ・ライト』を観るだろうかと試しにレンタルショップで借りてきたところ。

 

 『舐めてんのか? 私の拳は"アップル"よりも殺傷能力が高いぞ?』

 

 と、M67破片手榴弾よりも強力だという指で、フィッシュフッキング (フック状にした指を口に引っ掻けて引っ張る格闘技における反則技)をしてきたため、乾燥シーズンでもないのに、僕の口の端が切れた・・・・・・。

 何が気にさわったのやら。

 じゃあ、どんなのが良いんですかと問えば、僕の持っていたDVDを引っ張りだし。

 

 『知ってるか? パリじゃあビックマックの事を、ル・ビックマックって呼ぶんだぜ』

 

 と、シガー片手の美女がベッドで横になっているパッケージのDVDをお宝発見と言わんばかりに僕につき出してきた。

 二人で仲良く、ポップコーンと"コーク"を片手に、そのアカデミー脚本賞を獲った"くださない話"の鑑賞会をしたわけである。

 他にも"鬼軍曹が下劣な言葉を吐き散らかす映画"や"ホッケーマスクの殺人鬼が出る映画"、"アウトブレイクから28時間後のイギリスを舞台にゾンビとの駆けっこが行われる映画"など、

 僕個人の趣味で買った所有物であるが、あまり誰かと一緒に観るべきではない映画をピックして共に観た。

 彼女はバイオレンスや、スプラッタが僕以上に好むらしい。

 スプラッタ映画を好んでみる人間には、もしかしたら共感してもらえることであるかもしれないが、

 如何なる手段で人を殺すのか。そのアイデアを披露する手段がスプラッタ映画であると思う。

 液体窒素に顔を突っ込む。

 切り出した小腸でバンジージャンプをする。等々。

 様々なレパートリーに富んだ手段が、脳を適度に刺激してくれる。勿論、映画上だけでの話だが。

 一緒に楽しんだ瑠花さんの言動の粗暴さの元が少しわかった気がする。

 

 朝からすすんで観たいモノでもないのだが、それに瑠花さん。御出掛けの用事はどうしたんですか?

 僕が朝食で使った皿を洗い終えて、一狩り行こうぜ! と、ゲーム感覚で僕を廃神社か廃屋か。兎に角、モンスターが出そうな場所へと連れていこうとしてた、上鬼柳瑠花かみおにやなぎるか20うんたら歳は、しかし。

 スプラッタ映画ではなく呑気にもテレビゲームを始めようとしていた。

 野球ゲームである。

 

 「・・・・・・行かないんですか?」

 

 深い深い溜め息と共に、僕はそう洩らす。

 本当に自由な人である。

 

 「夕方からな、霊は夜に出るのが当たり前だろう」

 「すごい、素人臭いですよ」

 「バチカン公認のエクソシスト様を捕まえて何をいうか」

 「そのエクソシスト様が今、朝っぱらから野球ゲームをしてますけどね」

 

 テレビにかぶりついて、テーブルの前に胡座をかいて座る年上の女性。カチャカチャとコントローラーを鳴らしながらの姿に、思わず笑みがこぼれる。

 

 「僕も、こんな風に間抜けに見られていたんですかね」

 「お前、一人称がなんで僕なんだよ。女々しいぞ」

 「偏見ですよ。あ、それ下の選択肢の方が良いですよ」

 「お、サンキュー・・・・・・偏見って言ったけどよ。

 このゲームの主人公も、一人称が"俺"じゃねえか。

 有名な野球ゲームの男子が"俺"って言ってんだぞ。お前の方が異端児だ、異教徒とも言えようか、アーメン」

 「取って付けた用にエクソシストぶらないで下さいよ。瑠花さん。

 謙虚なんですよ、僕は。そのゲームの主人公は決して日本国男子の模範足るものじゃありませんよ。平然と二股をする畜生ですよ、ソイツは」

 「大和魂あるじゃねえか。昔の有力者たちは一夫多妻制で栄えただろう? "謙虚な"現代人くらいじゃねえか、一人の女だけとヤるのはよ」

 「朝からなに言ってんですか!」

 

 ポロリと溢したアダルティな言葉に思わず食い付いてしまう。

 

 知らなくて良い情報だが。と前置きしておくが。

 上鬼柳瑠花さんとの生活を始めて1週間経つ。

 彼女はとても敏感なのである、"物音や匂い"に。五感が普通の人よりも数倍冴えていると豪語するだけあって、僅かな"摩擦音"にも反応する。

 

 『おい、つくる。私を"使ったら"・・・・・・殺すぞ』

 

 肝を冷やし一気に冷め、落ちた僕のリビドー。

 僕は今。"右手"を鎖で縛り付けられた囚人なのだ。

 

 みなまで言わなくてもここまで言えばわかってもらえないであろうか?

 

 「悶々とした感情をぶつければ官能小説の1本くらい書けるんじゃねえか?」

 「使用権は・・・・・・」

 「与えるわけねえだろ、気色悪い」

 

 使いませんよ、冗談です。

 と、恐れ多くて官能小説じゃなくても瑠花さんをモデリングしてキャラクターなんて描くわけないだろう。

 貴女が出たら物語は滅茶苦茶になるだけですよ。RPGに出たら10秒で世界は平和になるか、滅亡しますよ。

 

 「行くのは、夜だとしても。良いんですかゲームなんてしてて、もう一度言いますけど。聖職者ですよね? もっと身を清めるとか、殴り付けるだけにしろウォーミングアップとか・・・・・・一応の準備は・・・・・・」

 「いらねえいらねえ、獅子が蟻を踏み潰すために準備をするか?」

 「それを言うなら、兎を狩るのにでしょ?」

 「私とそれ以外の万物は、獅子と蟻くらいの差があるんだよ、つくる。お前が100万匹群がっても私に片膝つけられねえよ」

 

 カチン・・・・・・。

 少しイラッとしてきた。昨日、起きたネガティブな出来事が尾を引いているのもあるが。

 どうも舐められたままでは、見下されたままでは気が収まらない小さな反骨心を僕は抱えている。

 勝ちたい、イニシアティブを取りたい。

 例え、空想の遊戯。そうだ・・・・・・野球ゲームであろうとも。

 

 「勝負しましょう」

 「小指でいいか?」

 「腕相撲じゃないですよ・・・・・・それで、です」

 

 似たような流れから腕相撲対決を仕掛け、手加減として人差指と戦ったところ、身体ごとひっくり返された。

 競争しても、けんけんの瑠花さんに3倍の距離を離され。PKをしたら、僕ごとネットに突き刺さった。

 戦歴は僕の全敗であった。

 力や運動じゃ勝負にならない。

 でも、テレビゲームなら話が違うのではないか?

 それはどんな年や力、技術が離れていても条件が揃えば対等に戦える子供向け遊戯の1種なのだから。

 

 「負けたほうが・・・・・・今日と明日の食事当番」

 「のった」

 

 瑠花さんは、そう言い僕にもう1つのコントローラーを放り投げた。

 のって来た。してやった。上鬼柳瑠花に対しての全敗記録をストップ出来るぞ!

 

 と、鼻息を荒くしてコントローラーを受けとる。

 野球ゲームの対戦。実在のプロチームと自分で作成した選手を混ぜ合わせたアレンジチームを使うことができる。

 

 僕は当然の様に、自分で強い選手ばかりを集めて作ったアレンジチームを選び。

 瑠花さんは、うーん・・・・・・と悩みながら、毎年最下位争いをしている実在のプロ野球チームをセレクトした。

 "条件は揃った"。これなら勝てる。

 まだゲームの操作に慣れていない瑠花さんに、本来なら逆のチームを選びハンディキャップをつけてあげるのが正しいのかもしれないが。

 そうも言ってられない。これは僕の尊厳や威厳を取り戻す。絶対に負けられない闘いなのだから・・・・・・。

 

 プレイボール。

 

 しかして、このゲーム。プロよりも自作した選手の方が圧倒的に強いっていうのは良いのだろうか。

 並々ならぬ努力をして、プロとなった野球選手たちの能力よりも、適当に作成した選手の方が優秀であるというのは・・・・・・

 まあ、今はいいか。

 プロフェッショナルな瑠花さんは"プロ"を使ってくださいと。 

 

 プレイボール。

 

 「何だかんだいって、お前も遊びたかったんじゃねえのかよ」

 

 そうですよ、負ける貴女と遊びたかったんです。

 

 「真剣になっちゃって、ゲームだろ? 遊戯。楽しむためにあるもんだろうが」

 「・・・・・・楽しんでますよ」

 「ならいいけどよ・・・・・・」

 

 画面に食い入ってコントローラーをカチャカチャと鳴らす僕は、改めて見ると間抜けなのだが。

 瑠花さんは、夢中な僕にポソリと言葉を投げてきた。

 

 「そういやぁ、何で陰気だったんだ、おめえはよう?」

 

 ストライク。

 

 「え?」

 「昨日、帰ってきたとき。苛立ってたじゃねえか・・・・・・私は眠かったから気にしなかったが。荒れてただろ?」

 「・・・・・・わかってたんですね」

 

 バッターアウト。

 僕の攻撃は無得点に終わり、瑠花さんは僕の方を向く。

 至って真剣な風で、怒っているわけでもなく茶化す風ではない。

 昨日、仲の良い後輩の子と二人で居酒屋に行き強い酒をガバガバと飲み続け、日が変わる頃に酩酊状態で帰宅した際には既に電気は消えていて瑠花さんは眠っているモノだと思っていたのだが。

 

 「昨日、ちょっとあって」

 「部活動ってやつでか?」

 「ええ・・・・・・」

 

 記憶を呼び起こし、僕の揺れる目をしっかりと捉えて離さない瑠花さんに、ポツリポツリと昨日の出来事を話す。

 

 新入生歓迎公演を4月の中頃に行う僕の所属する演劇部では、春休みの今、絶賛稽古中なのだ。

 一昨日に、班蛇口はんじゃくと話す前の時間にも午前中から昼すぎまで、シーン稽古や場あたりが重ねられた。

 そして、昨日。

 いざ、遠し稽古をしようとした日に。

 主役の後輩が遅刻をしてきたのだ。

 

 『すいません! 遅れましたぁー』

 

 と、ボサボサの今起きましたという形の髪を掻きながらヘラヘラしている後輩に。

 僕は激しく責め立てた。

 

 ______寝坊や遅刻の悪さを理解していない。お前は自分がどんな立場で、何人の人間の時間と労力を無駄にしているのか理解していないのか!? 責任感を持ってないのか!? うんぬんかんぬん______と。

 

 結局、意気消沈した後輩と、荒ぶる僕を見かねてその日の稽古はそこで終了してしまった。

 結局、僕がその日の時間と労力を無駄にしてしまったのだ。

 部長が休部中で、副部長である僕がまとめなきゃいけない活動を・・・・・・僕が終わらせてしまった。

 あまり記憶にはないが、やけ酒をし、帰ってきた僕は荒れていたのだろうか・・・・・・

 

 「うわぁ・・・・・・お前わりと言うんだな」

 「瑠花さんに言われたくないです」

 「むくれんなよ。つくる

 自分でもどうしてそこまで言ったのか、釈然としねえから私に聞いてんだろ?」

 「瑠花さんが聞いたから・・・・・・」

 「私はお前が、ウジウジしてるのを見て、聞いてんだよ」

 

 カキーン! 打ったぁ!

 大きい___大きい___

 

 「・・・・・・責任感ないのは、僕ですね」

 

 自傷ぎみに言った。

 

 「そうだな。お前のせいでそうなっちまったからな。

 だがよ、創。責任感の問題じゃねえよ。それは関心の問題だ」

 「関心ですか?」

 「ああ、若いんだから前を見ろ、失敗も。まぁいいじゃねえか」

 「やって後悔した方がいいからですか?」

 「そんな詭弁を私は言わねえ。やって後悔しない方がいいに決まってるだろ」

 「それこそ詭弁じゃないですか? それに、失った時間も信頼関係も返ってきませんよ・・・・・・」

 「・・・・・・ちょっとタンマ」

 

 スタートボタンを押して、瑠花さんは立ちあがり換気扇の元へ歩いていく。

 タバコを取りだし、火をつけると僕に手招きしてきた。

 煙を燻らせる瑠花さんの元に向かった僕は、胸倉を掴まれ、そのまま壁に押し付けられた。

 

 痛みは感じない、それよりも突然されたので驚きが大きい。

 片手を壁に当て、瑠花さんの口から漏れる煙が、僕の鼻孔をつく。

 壁に押し付けられた僕のすぐ前に、瑠花さんの顔があった。


 これが壁ドンというやつか。

  

 「泊めてもらってる礼に良いこと教えてやるよ」

 「・・・・・・お金を払ってください」

 

 ドキドキしながら応える。

 睫毛が触れような距離にある切れ長の瞳が、草食動物を捉えた肉食獣のように輝きが間近の僕には眩しすぎる。

 

 「それに見合うモノは教えてやってんだろ?」

 

 ハスキーボイスの囁きが耳の側で聞こえる。

 

 「後悔なんてするだけ時間のムダだ。復習も同じだ。

 人生にはモラトリアムな時も、後ろを向いてる時間もないんだぜ」

 

 優しく、スプラッタ映画でゲラゲラ笑う彼女から発せられているとは思えないほど優しい声で。

 

 「同じ手段は、通用しねぇぞ。現実は。

 復習なんて必要ねえ、予習なんて付け焼き刃だ。

 目の前を、今を見ろ。つくる

 お前が叱った奴はどんな服を着てた? もしかして遅刻したことの罪悪感で、走り、急いで着付けた毛玉だらけのダサイ服だったんじゃねえか?

 本当に申し訳ねえと謝ろうと思ってたけど、お前や、周りの奴が頭ごなしに言ってくるから、言えなくなっちまったんじゃねえか?」

 

 厳しい言葉だが、柔らかく、耳馴染みが心地よい声で諭された。

 思い返してみたら、そうだったかもしれない。

 後輩を見て言ったのではなく、僕は。

 僕自信に言葉を投げつけていたのではないだろうか。

 

 「目の前の人間を見れない奴が、空想の世界で人間を操れるかよ」

 

 クシャリと僕の頭を荒々しく撫でる瑠花さんの大きな手。

 

 ぐうの音も出なかった。安心感の暖かい熱がが頭の上から全身へとおりてくる。

 

 「お前らが不思議だ、何で架空の物語なんて作るんだ? 現実はファンタジーでドラマチックなのに。

 逃げてるだけじゃねえのか?」

 

 僕からようやく距離を取り、何時ものようにケラケラ快活に笑いながらタバコを燻らせる瑠花さんに、

 緊張と緩和で閉じきった喉からひねり出した声で応える。

 

 「・・・・・・向き合いたくないからですよ。向き合うのが怖いからです・・・・・・逃げじゃなくて防衛本能です」

 「本能は鍛えるモノだ、オメエら平和ボケのガキは。

 明日、地獄の門が開いてサタンが侵略してきても、きっとファンタジーだ夢だと言って喰われちまうんだろうな」

 「そうならないために・・・・・・瑠花さんがいるんでしょう?」

 「他力本願だな、創。オメエももうコッチの関係者だぜ。1度悪魔とぶち当たりゃ、2度目は直ぐにやってくる。奴等の血の匂いはスカンクの屁よりも強力だ」

 

 瑠花さんの吐き出した煙を目で追いながら、

 懐かしい薫りに昔の光景を思い浮かべる。

 そうだ、父親もこうだった。

 普段は無口な父親もこうやって、タバコの煙で語りかけていたのだっけ。

 

 「優しいですね、瑠花さん」

 

 柄にもなく素直に気持ちを打ち明ける。

 

 「マゾか?」

 「いいえ、たぶん違います。

 ・・・・・・"大人"って他人の生き方にダメ出しはしても、口出しはしないモノだと思ってました」

 「"私が"、だろ?」

 「瑠花さんは、特別ですからね」

 「何だ? 口説いてんのか? 100年早い」

 

 タバコを消した指先で、僕の額に軽くデコピンをしてきた。

 滅茶苦茶痛い! 良い雰囲気が台無しだよ!

 と、別に瑠花さんとどうなりたいと言うわけでもないが。

 軽い気持ちで、軽くなれよと瑠花さんが放った一撃に、僕は額を押さえてかがみこむ。

 

 でも、

 

 「ありがとうございます」

 

 そう返していた。

 

 「礼はいいから、次投げる球種を教えろ」

 「それとこれとは話が別です」

 「ケチだなー」

 「ちょっと、トイレ行ってきます」

 

 逃げるように、トイレのドアを開け中へ入る。

 きっと昨日よりマシな顔つきになっているだろう、僕はバスタブ横の鏡を覗いた。


 憑物が落ちたように晴れた顔をしている。

 ようやく、普通に戻れた気がする。

 昨日の自分が異常だったかのようだが、それは違うのだろう。

 あれも、僕。これも僕。

 

 関心を持たなきゃね・・・・・・

 

 僕は携帯を取りだし、後輩へとLINEを送った______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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