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鬼伝シリーズ  作者: 春ウララ
鏡鬼伝~DOUBLE~
3/29

2

長かったので分けました

2

 

 

 

 

 ______

 

 

 ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢から目を覚ますと、巨大な虫に変身していた。

 

 ___カフカ『変身』より。

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 夢占いが嫌いである。

 人のみる夢は無限大で、カテゴライズなんてしてほしくない。

 でも占いは好きだ。

 ふとしたときに思い出して頼りにしてしまう情報である。

 

 

 

 

 

 ジリリリ______

 

 ジリリリ______

 

 ジリリリリリリリリ______

 

 バンッ。

 

 

 

 

 

 

 旧型の目覚まし時計を使えば、こういう音が鳴るのは不自然ではない。デジタル時計ならばピピピ・・・と音が鳴るし、携帯のアラームならば端末に入っている何かしらの曲や電子音が流れる。

 僕が使っている目覚まし時計は昔ながらのツインベルタイプの物。近所の家電量販店に売っていなかったので、わざわざネットで取り寄せて使っている。

 どうにもこれでなければ起きられないのだ。

 電子音は優しすぎる、ジリリリと金属同士が当たり合う、耳馴染みが良くない、高くつんざく様な音じゃなければ不快に起きることが出来ないのだ。気持ちよく寝過ごすよりもマシだと僕は思っている。

 目覚ましって今は普通、携帯電話のアラームのはずなのに、どうして目覚ましの音を表現するのはジリリリなんですか? と以前、質問されたことがある。その時はこのキャラクターは携帯のアラーム音を変えることも出来ない機械音痴だとか。目覚まし音を表現するのに"ジリリリ"は誰しもわかりやすく浸透しているからだと、あることないこと適当に回答した。

 付け加えてピピピと携帯のアラーム音をSEとして採用した場合。観客の切り忘れた携帯の着信音と誤解されるとか。演出上の利点も言ったところで納得をしてもらえた。

 

 脚本の細かいところまで考え抜いているというスタンスを崩してはいけない、役者に弱味を見せてはいけない。

 役者は基本的に単細胞である。役者志望の若者たちは自分達がサラリーマンやOLよりも尊いと誤解している場合が多い。

 普通に就職して働いた方が100%利口なのに、役者目指してますというとチヤホヤされたり、スゴいねと言われて鼻を伸ばす単純さを影で笑われているのに気づかない。

 そして30歳を過ぎてようやく自分の選択に後悔をしだす。出遅れではあるが手後れではないと衰えた身体に鞭をいれだす。

 そこで身を引かないものがプロになれるとは思うのだが、実際、その年齢になると自分も劇作家の道を諦めて就職活動をすることだろう。

 卒業していった先輩たちの中にも事務所や劇団に所属している者も多数いるが、彼らが口を揃えて言うのは金がない、時間がない。

 凛々とした瞳で自分達の目指す世界を語っていた方々からは枯れた言葉しか出てこない、暗澹たるモノである。

 金はわかるが時間がないとはどういうことだ? 週6で朝から晩まで会社で働いている皆様よりも忙しいと?

 離職後に、役者を目指しだした先輩は、どうしてもフリーター役者たちは時間にたいしてルーズになってしまうし、人間関係に臆病になりがちで、危機感を感じずらいと、立場は変わらないのに饒舌に語りだす。

 当たり前に目上の人に接することが出来ない、寝坊や遅刻の悪さを理解していない。自分はなろうと思えば何にでもなれると自分を高く見積もる。

 と、僕も変わらないのに偉そうなことを並べている。劇作家志望の方が役者よりも自分が利口だと思ってる分、危険なのだ。それを自覚はしているつもりなだけマシだと自分に言い聞かせている。

 故に僕は役者志望の後輩たちには、就活はしっかりしなさいと壊れたロボットのように繰り返し言う。彼らの一生を左右する発言は容易にしたくない。

 僕たちは間抜けなんだ。大卒という肩書きを棄てて、死ぬまで暖かな毛布にくるまって生きられる生活を捨てて、ドリームを求めて路地裏を這いつくばる。

 それを理解しなくてはならない、噛み締めなくてはならない。時間は何よりも大事な財産なのだ。

 良い先輩を装い、責任を負いたくないだけである。

 

 と、苛々をぶつけてしまって申し訳ない。昨日、稽古場に遅れてきた主役の後輩にぶつけた文句を繰り返してしまった。

 でも、寝起きにご機嫌な人間なんていないでしょう?

 

 「おはようございます______」

 

 どれだけ不機嫌でも挨拶を怠ってはいけない。

 1DK六畳一間、3階建てのアパートの3階に居を構える僕の部屋。

 部屋番号までは個人情報すぎるので省略するが、大学生の一人暮らしとしては中々に快適な環境である。

 北の大地から単身出てきた身の上、黒光りする"ヤツ"が自室に出ないことを部屋選びの再前提として部屋探しを行った。

 備え付けのロフトで眠れば最悪出たとしても安眠することが可能であると、最上階でありロフト付き。それだけの条件で探した部屋であるから、ユニットバスであることやキッチンが狭くコンロが1つしかないことは仕方ないことだ。今のところ困ってはいない。

 クローゼットもついており、教科書と漫画や文庫本が入った本棚、テレビ、テーブル、二人がけソファ。それだけあればマイホームとして十分であろう。

 

 ソファーから身を起し、ロフトで"眠る彼女"に僕は声をかける。

 そういう魂胆もあって眠るのに使ってなかったソファだが、ここ1週間はロフトに敷いた布団を明け渡しているので仕方のないことだ。幸いにも"ヤツ"は現れていない。

 

 一人暮らしの部屋にやってきた一人の美しい"鬼"に僕はおはようと挨拶を送った。

 

 彼女をソファに寝かせて、僕だけが布団で眠るのはいただけないと僕が"自分の意思でお譲りした"。

 狭い部屋だがプライベートな空間は必要であろうと明け渡した僕の天空城に眠る女性。

 勿論、一緒に眠れば良かろうということにもならない、そんな事を提案する勇気も魅力もない。

 

 僕の声かけに対してロフトの床が少し軋みをあげる。艶やかな声で『うん・・・・・・』とひと声返ってきたのみで意識は覚醒していないようだ。

 

 「瑠花るかさん、朝ですよ」

 

 再度、今度は彼女の名前を呼んでみる。最初は名字で読んでいたのだが"自分の意思で名前呼びにした"。

 

 「・・・・・・うん」

 

 変わらぬ返事が返ってくる。

 

 「昨日、起こしてくれって言ってましたよ」

 「・・・・・・うん」

 

 普段は癇癪玉のような人なのに寝起きはヌートリアのようだ。

 グレーのスウェットを履きながし、薄手のタンクトップを着る彼女が、モソモソと緩慢な動きでロフトの階段を下りてくる。

 僕の意識はそこで覚醒する。

 目も覚めるほどの美しさはルーズな格好でナマケモノの様な動きをしていても彼女から失われることはないだろう。

 

 「おはようございます」

 「おはー・・・よう」

 

 しゃがれたハスキーボイスを発しながら、僕が眠っていたソファにと腰を下ろす彼女。

 彼女を夢の世界から覚まさせてあげようと僕はキッチンの戸棚からマグカップを2つ取りだし、調味料と一緒に置かれた市販のドリップコーヒーのフックを縁にかけ、その上からケトルに溜めたお湯を注ぎいれる。

 

 その頃に、瑠花るかさんはソファに腰掛けながらグイーと両手を伸ばす動きをし、首から下げている十字架のネックレスが胸元の前で揺れる。

 タンクトップの間からブラのラインが見て取れるほど無防備な格好をする瑠花さんを横目で見ながらブラックコーヒーを差し出す。

 

 「・・・・・・おう、つくる。朝飯は?」

 「今日は、瑠花るかさんの当番ですよ」

 「あー・・・・・・うーん」

 

 半開きの目でこちらを見ながら、僕が渡したコーヒー入りのマグカップを受け取った瑠花さんは、おもむろにポケットからタバコを取りだした・・・・・・

 

 「室内禁煙です、ゴーアウト」

 「さみーよ、弥生やよいの朝は霜がおりてるだろうよ」

 「瑠花さんのために買った灰皿スタンドですよ」

 「・・・はいはい、わーたよ」

 

 僕のクローゼットから勝手にパーカーを引っ張りだして羽織ると、瑠花さんはベランダに出てスウェットのポケットにねじ込んでいたタバコを吸いだした。

 両親が吸っていたので、そこまでタバコの匂いと煙に嫌悪感を抱くこともないが部屋の中で吸うのは別問題だと、量販店で灰皿スタンドを買ってきたのだ。

 ベランダの手すりに手をかけ寒空へと煙をふかす彼女はとても絵になる。年齢は聞けてないが瑠花さんは僕より3つか4つばかし年上のお姉さんだ。ブカブカのスウェットと男物のパーカーを羽織っていても、充分に膨らみと凹みが見てとれる肉体を惜しげもなく披露することに何の躊躇もないらしい。

 元々一人暮らし用の部屋なのだ、無頓着な彼女は何も着ずにシャワーから出てくることもあったし、下着姿で彷徨くこともしばしば。注意しても聞く耳を持ってくれない。

 外出時も冬場だというのにホットパンツと肩の出たシースルーの肌着に革のライダースジャケットと、綺麗であるが何処かおっかないファッションのお姉さん。

 

 『ガキに欲情されたところで何とも。我慢が効かず襲ってきたら、この部屋は私のモノになるだけだ。家主が東京湾に沈んじまうからな』と、僕の頭をアイアンクローしてきた。

 言動も行動もおっかないお姉さん。

 

 そんなつもりは毛頭ない。

 いや、少しは彼女の姿態にドキマギとすることはあるが、爛れた関係や、疚しい欲求衝動を抱えつつ彼女との共同生活を送っていると想像して欲しくはない。

 彼女はただの命の恩人だ。

 僕の人生を奪おうとした悪魔を屠った恩人に僕は寝所を提供しているだけなのだ。真っ当に。

 姉妹をもつ男児なら想像もつくだろう、僕も妹が一人いる。僕と瑠花さんの関係は姉弟のようなものである。

 

 そう自分の脳に刷り込んでおかないと、どうにかなりそうだ。

 

 班蛇口はんじゃくに僕が、若い女性と同居状態にあると伝えたところ、目を真ん丸とさせてこう言った。

 

 『・・・・・・nasty』

 

 弁明が求められた僕は、軽蔑の眼差しを向ける班蛇口に説明したのは、以下の通りである。

 上鬼柳瑠花かみおにやなぎるか

 仰々しく荒々しい名前とラピスの華やかさを兼ねそろえる実に彼女らしい名前だ。

 彼女はエクソシストである。

 冗談のようだが本当のことである。

 事実、僕の目の前で悪魔を"払って"くれた。最初は首から下げている十字架のペンダントか、耳につけた十字架のピアスを用いて聖書を片手に神の言葉を向けるのかと。

 僕が見聞きした悪魔払いとはそういった過程を踏まえるものであったから、神職とは対極に位置する姿と言動で、"申し訳程度に"ホーロークロスを身につけただけの、上鬼柳瑠花かみおにやなぎるかさんの悪魔払いに野次馬のように目を皿にして見いりだしたのだが。

 彼女が行った行為と言えば、見た目通りの野蛮で暴力的な解決策であった。

 ただ拳を固めて、力一杯殴り付けた。

 ただそれだけで、悪魔の身体は、トマトを踏みつけたように赤い液体を撒き散らしプツリと潰れてしまった。

 十字架を片手にマシンガンを持った神父も遠い国で存在していたようだが、きっと彼女の親戚であろう。


 「ああー寒い、よう創。ひでぇ奴が居たんだよ。若い女を裸同然の格好で極地に放置した男の話なんだがよ」

 

 さっきまでの辛うじて可愛げある喋り口をベランダの外に捨ててきたらしい。ハキハキと達者な口が目を覚ましたようだ。

 

 「被害妄想ですよ、その男は僕だったってオチでしょう」

 「いいや、ちげぇ。そいつは悪魔だ。

 フルーレティって言ういけすかねぇサディストだよ。美男子に化けたソイツは、ノルウェーで夜な夜な若い女を誘惑しては、人里離れた湖畔に連れていき、"その気にさせて"服を脱ぎ捨てたところで正体を現す。

 ひょうを降らせることが出来る天気予報士泣かせのソイツは、下着姿の女が身を震わせて助けを叫ぶ姿を笑って眺めてやがったんだよ。悪いヤツだよな?」

 

 ああ、これはいつもの武勇伝だ。続くのは、その悪魔をどうこらしめてやったかということだ。

 

 「瑠花さんが懲らしめたんですか?」

 「ああ、勿論! 首根っこひっつかまえて、サバンナの豹の群れのど真中にぶん投げてやったよ! 笑えたねぇ。血相変えて逃げ惑うアイツの姿が! 降らせた雹が、温いシャワーになって降り注ぐ、私はそれを浴びながら。ソイツが豹に噛み殺されるのを見送ってやったってわけよ!」

 

 自慢気に語りだした瑠花さんは、その足を狭いキッチンへと向かわせ、慣れた手つきでフライパンに火をかけて、冷蔵庫から取り出した鶏肉を包丁で捌きだした。無邪気に悪魔払いを語っていたエクソシスト様は、あっという間に1品2品と朝食を作り上げていく。

 

 「手伝いましょうか?」

 「テレビでも見てな、創。足りねえオツムを鍛えやがれ」

 

 彼女の言葉を綺麗に訳すと。

 『もうすぐ出来るからちょっと待っててね。創くん。朝のニュースでも見ながら寛いでてよ』だ。

 1週間ほど共同生活をし、仏陀のごとく慣用な心持ちがあれば彼女の言葉を解釈することも可能である。注釈・上鬼柳瑠花辞典より。

 言われた通りにテレビでも見てようと思ったが

 鼻唄混じりにフライパンを振るう彼女がタバコを加え出したのを見て、

 

 「灰を入れないでくださいよ」

 「姑かよ、テメェは。換気扇回してんだろうが」

 「ハウスクリーニング代を請求されのは僕なんですよ、あまり吸わないでくださいよ」

 「あいよ、マム」

 

 加えタバコで料理をする姿は決して誉められたモノではないが、ハリウッド映画のワンシーンには有りがちであろうか。

 コーヒーに口をつけながらテレビをつける。

 8:47。チャンネルを回しながらニュース番組は時刻表記をしてくれるから、本当に助かるよなぁと呑気に思う。

 いちいち時計とテレビをにらめっこせずとも良いのだからと、ボーッと内容も頭に入れずコーヒーを啜っていると、いい匂いがテーブルへと並べられていく。

 盛り付けは期待していなかったが、それを抜きにしても美味しそうだ。仕事柄、自炊や野宿もするのであろう。瑠花さんの料理は豪快で素早く、大雑把だが。安心出来る味がする。

 半熟でキラキラ表面が光沢を帯びているスクランブルエッグに、千切りのキャベツ。醤油で少し焦げ目をつけた鳥股肉の炒め物が盛られたプレートに、こんもりとよそわれた炊きたてご飯と、レトルト味噌汁。

 瑠花さんのお陰で、ジャムトーストと牛乳だけと手抜きしていた僕の朝食は彩り豊かになった。これだけ作ってもらった以上、明日の僕の当番は手抜きなんて出来ようモノではない。


 「いただきます」

 「いただきますっと」

 

 僕の倍は多くよそわれた茶碗を手に瑠花さんは、かきいれるように食べ始める。

 気持ちのいいほど食べる女性は私的好みである。こちらの食欲も進むし、料理の作りがいがあるというものだ。

 うん、美味しい。

 おそらく、頬を緩めたであろうガツガツと箸を進める僕に満足したのか瑠花さんは、1杯目のご飯を早々に平らげ、炊飯器までご飯をお代りにいく。戻りかけに冷蔵庫からパック納豆をひっぱりだし、

 

 「いるか?」

 「大丈夫ですよ、十分足ります」

 「ふーん・・・・・・実はなその肉。昨日、公園で捕った猫の肉だ」

 「その冗句もう、効きませんよ。これは昨日僕が買ってきた鳥肉です」

 「んだよー、もっと食えよ、創。私が5合炊きを買ってやったんだぞ」

 「朝からご飯を山盛り3杯も食べるなんて、どこの体育会系ですか」

 「ここの私だよ、もっと太れよモヤシ」

 「肉が付きずらいんですよ、美味しくいただいてます」

 「カツオ節どこだ?」

 「冷蔵庫の上です」

 

 本当によく食べる。

 貴女の方こそ肉が付きずらいんじゃないですかと言おうとして、止める。

 そういう台詞は女性に対して禁句だ。僕よりも男勝りな女性であろうと、

 

 「そうだ、創。学生の本分とやらは?」

 

 3杯目のお代りをして、ようやく食べるスピードが落ちた瑠花さんが、箸で僕を指してきた。

 

 「今日は休みです」

 「そか、 じゃあちょっと付き合え」

 

 ニッコリと破顔微笑した瑠花さんに、口をつけていた温かい温もりある御味噌汁が途端に冷えたかの様な錯覚を覚えた。

 

 付き合え・・・・・・。

 休みだろ、どっか遊びに行こうよ。

 と、上鬼柳瑠花かみおにやなぎるか辞典では訳されないのだ。

 彼女は自分の職業が天職であるという。

 自分の力を、拳を好きなだけ振るって壊し回って誉められるのだから。

 

 「何処にですか・・・・・・また廃屋とか廃神社に連れ込む気じゃないでしょうね?」

 「連れ込むとは人聞きの悪い、オメエの為でもあるんだぜ? あれだ脚本のネタになるだろう?」

 

 彼女は、悪魔払い(エクソシスト)。

 瑠花さんの見立てで、僕は所謂、霊媒体質であると認定された。善からぬモノを惹き付けやすい体質、怪異や霊の影響を人一倍に受けやすい体質。僕が近年不思議なモノを見るのもその為である。

 それを懲らしめる人と、それを惹き付ける人がいるとして。

 カチリと利害が一致した。

 言わば僕は木に塗られたハチミツ、彼女は虫取少年。

 僕という撒き餌で引き付けられた獲物を一網打尽にする漁師。

 そういう世界を避けたいと願う僕に対して、そういう世界に棲むモノを退治する職業の人。

 それで僕の身の安全は守られて、彼女は仕事をスムーズにこなすことが出来る。ウィンウィンの関係であると丸め込まれた。

 

 そもそも何で貴女は僕の目の前に現れたのですか?

 目的は? 仲間は? 住み処は?

 聞きたいことも有耶無耶になり、早1週間。

 僕の暇を見ては霊障ある場所へと連れ回される生活が続いているのだ。

 

 「何でも1つ言うこと聞いてやるよ」

 「そういうのは、軽々しく男に言っちゃいけませんよ」

 「了承だな? よし! ごちそうさん!」

 

 本当にガキ扱いされている。

 僕も成人男子だぞ。その気になって襲いかかれば痛い目にあうのは・・・・・・僕だろう。

 冗談な話、上鬼柳瑠花は"バチカン"公認の有名な対魔士なのだそうだ。確かめようもなく、突拍子もない事実と武勇伝。

 世界中を旅しながら、悪魔に悩める人々に救いを与えると言えば高尚だが。実際の彼女は、ただ己のストレス発散のために悪魔を殴り飛ばしていると言っても差障りない。

 平らげた皿を流しに持っていき、お腹を擦りながら。換気扇を回し、食後の一服にとタバコに火を灯す瑠花さん。

 

 「んだよ、辛気臭え顔して。洗い物は頼んだぜ」

 

 どんな顔しているのか鏡を頼らずともわかる。

 

 「男としての矜恃が根刮ぎ失いかけてます」

 「心配すんな、無い物ねだりだ」

 「口が悪い!」

 

 快活に笑う瑠花さんに、溜め息を洩らし。タバコを吸う彼女を見ながら。

 僕は手を合わせて御馳走様と言った。

 

 

 

 

 

 

 

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