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鬼伝シリーズ  作者: 春ウララ
鳥鬼伝~LEAP~
18/29

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2

 

 

 

 

 ______

 

 

 この大空に翼を広げ、飛んでいきたいと合唱が遠くで聞こえる。

 足元からは飛ぶなと合唱が聞こえる。

 

 どちらを受け止めればいいのでしょうか?

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おはようございます・・・・・・」

 「・・・・・・おそようございます、Too too too being lateだね」

 「いや、今日は2限だけだったから」

 「class数は関係ないよ。今週は散々だね」

 

 班蛇口有栖はんじゃくアリスは翡翠色の瞳を閉じて嘆息した。

 

 「昨日、寝たのは・・・・・・4時だったかな」

 「まさかam?」

 「pmなわけないだろー、おばあちゃんでも相撲の放送を見る前には寝ないってのに・・・・・・」

 「これ飲んでmtrainier」

 

 頭がボーッとする。班蛇口から貰ったカフェラテを飲んで頭を横に振る。穏やかな日差しが差すベンチに腰かける僕と班蛇口有栖。大学構内のちょっとした癒しスポットである。ひと気も少なく、よくカップルの出没スポットとされているが、今日は僕たちしかいないようだ。班蛇口は革のブックカバーをつけた文庫本を片手に僕の方を向き、

 

 「今日はclub? 時間まで寝てれば?」

 「また夜眠れなくなるよ、今日はダメなんだ・・・・・・ 蒔苗まかなえもNGだし、伊予山いよやまはバイトだし」

 「後輩を連れ回して・・・・・・私も無理だよ」

 「ジーザス・・・・・・神に見放された・・・・・・! 正確には"鬼"にか」

 

 上鬼柳瑠花かみおにやなぎるかが出掛けてから1週間以上たつ。ほろもえつくるは1週間以上睡眠に悩まされている。これほどに自分のメンタルが弱いものだったのかと実感するのはもういい、兎に角安心して眠りたい。日曜日に見た"黒い鳥"のせいでカラスの鳴き声が外から聞こえるだけで身を震わせる。電気をつけ、テレビをつけソファベッドに横になること5時間、結局意識を失うように朝方眠った僕が目覚めたのは昼の1時過ぎであった。

 

 「もう疲れたよ、アリラッシュ」

 「病院に行った方がいいんじゃない?」

 「この年で薬漬けは嫌だけど・・・・・・」

 「脚本家は慢性的な睡眠障害に悩ませられるらしいよ。民間療法をtryしてみたら? 寝る前にお湯に浸かったり、hot milkを飲んだり、適度なwalkingをしたり」

 「班蛇口、今夜は空いてなくても深夜は空いてないか?」

 「私は民間療法には含まれません。ほんとに私を何だと思ってるんだか・・・・・・協力してあげたいけど、ごめんね。今日も用事があるの」

 「最近、忙しそうだな。眠れてる?」

 「幌萌君よりはね、うん。ちょっとたて込んでてね」

 

 そう言い、班蛇口は欠伸を噛み殺すような仕草をする。あまり長々と話し込んでも悪いか、話したいことがあると呼び出した僕が何時までもダラダラしててはいけない。

 軽くこめかみを揉んで、鞄の中から1枚の"羽"を取り出す。

 

 「これ、見たことあるか?」

 「・・・・・・カラスの羽?」

 「たぶん・・・・・・いや只のカラスじゃなかったけどな」

 

 赤い目をしたカラスの羽。濡羽色の不気味な羽を僕は後生大事に持ち続けていた。きっと、普通のモノではない。瑠花さんがいない以上、こういった相談事を持ちかけられるのは班蛇口くらいしかいないのだ。

 班蛇口は、僕が取り出した羽をつかみとり、マジマジと眺める。

 

 「普通の羽にしか見えないけど」

 「曰く付きなんだよ」

 「hey! それを先に言ってよ」

 「悪い悪い・・・・・・少し話したけどさ。それ、灰沼はいぬまが倒れてた近くで拾ったんだよね」

  

 班蛇口から羽を受けとり、前の日曜日に起きた出来事を詳しく伝える。不思議な事が起きあったんだと前振りをし、こうして班蛇口との時間を設けたわけだが。

 灰沼はいぬまとはあれ以来会っていない。単に僕が昼過ぎまで眠っており、昼食時に学校へと来ていないからではあるが・・・・・・

 何度かLINEを送っても、平気の一点張りをされるだけ。

 不安が逆に募るばかりである。

 

 「・・・・・・灰沼さんが倒れた」

 「うん・・・・・・顔は真っ白で、身体も冷たくてさ。言い方悪いけどまるで死人みたいだったんだよ」

 「・・・・・・幌萌君が、そう感じるってことは。本当にbadlyなことかもしれないね」

 「男子トイレの外に、真っ赤な目をしたカラスが女子トイレの方を向いて羽を羽ばたかせてるのを見て。その後直ぐにトイレの外で倒れてる、灰沼愛鳥はいぬまあいち。体調不良なら逆に良かったんだよ。でもそうじゃなかった・・・・・・アイツは試合で絶好調だったからな。顔面蒼白で倒れてた人間と同じとは思えない。普通には見れない、そう感じたんだよ」

 「そうだね・・・・・・umm。上鬼柳さんがいないとなると、その手の"事"だとしても解決策はないよね」

 「ああ、僕は見ることは出来ても。干渉したりすることなんて出来ないし、やりたくない・・・・・・瑠花さんならたぶん、まだ警察に捕まってるんじゃないかな」

 「え! どういうこと!?」

 「県警に捕まっちまったって連絡がきたんだよ・・・・・・まあその心配はしてないんだけど」

 「しないの!? why!? いないとは聞いてたけどarrestedされてたなんて!」

 「でも瑠花さんだし」

 「・・・・・・その信頼が私には理解できないよ」

 「上鬼柳かみおにやなぎ列伝を教えようか? 地上4000メートルの飛行機からパラシュート無しでバンジーしたって」

 「impossible! 嘘でしょそれ!」

 「僕の目の前で、金網フェンスを引きちぎったよ、素手で。あと手錠を手刀で切ったり」

 「なにしてんだよ、君らは」

 「つまりだよ、あの人には人間の常識が通用しないんだよ。つまり人間の法律もね」

 「そんなこと・・・・・・」

 

 そんなことあり得ない、インポッシブルだ。

 一月前の僕なら班蛇口と同じ反応をしていただろうが。廃墟の金網を裂き、コンクリートの壁を素手で壊し。4階建ての屋上から僕を抱えたまま飛び下りる。そんな行動を見せ続けられた僕は上鬼柳瑠花が警察に捕まっていても、出ようと思えば何時でも出れると言うのだったら、そうなんだろうと納得してしまう。

 

 「comicの世界じゃない」

 「ワンダーウーマンだよあの人は」

 「・・・・・・怖いね」

 「"人間"には力を行使しないと、"組織"から言われてるらしいよ」

 「exorcistのためにということ?」

 「そういうことらしい。今回も、その関係で出掛けて。ちょっとあったんじゃないかな」

 「益々、幌萌君の身の安全が心配になるんだけど・・・・・・うん、でも。そんな人がいれば灰沼さんの話も直ぐに解決出来るかもしれないよね。"人間事"じゃなくて、occultの影響が灰沼さんにあるとしたらだけど・・・・・・」

 

 突然、班蛇口が言葉を止めた。目の前を向いて、グリーンの目を見開きながら。その姿に僕も班蛇口の目の先を追う・・・・・・と。

 

 灰沼愛鳥はいぬまあいちが座っていた。

 ひと気のない、木の木陰に何時からか僕たちのよく知る、渦中の少女は腰かけていた。

 彼女に影をさす、日差しを遮る木の枝には、"真っ黒な"葉。


 何十、いや何百。大量の黒いカラスが羽を広げて灰沼を見下ろしている。まるで、彼女を中心に集められたかのように、灰沼を捉えてとまっているのだ。

 あまりの光景に僕も班蛇口も言葉を失ってしまう。

 

 「は・・・・・・灰沼」

 「・・・・・・幌萌君!」

 

 班蛇口の短く叫ぶような声を背に受け、僕は1歩、1歩と。摺り足で灰沼へと近寄る。音を立てないように、息を殺して。上に留まるカラスたちを刺激しないようにと。

 

 「灰沼・・・・・・おい、灰沼」

 

 声を落として灰沼に呼び掛ける。

 ズリズリ、ズリズリ。

 砂利を蹴りながら、灰沼を見れば。彼女は下を向いたままピクリとも動かない。呼掛けにも応じない、意識を持たぬ人形のように。

 "黒い"葉がなびかないよう、ゆっくりとゆっくりと近づき僕は灰沼の肩に触れた______

 

 バサッ。

 バサッバサ。

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ・・・・・・!!

 

 触れた瞬間、"葉"が震え、震え・・・・・・。

 

 「Dodge!!」

 

 ドッジ。

 班蛇口の叫ぶような声が聞こえ、僕は身を翻す。

 黒い塊が、僕の目前に見えたのは一瞬、直ぐに反射で後ろへ倒れこむ。

 倒れ、上を向くと一面の黒、黒、黒。

 黒いカラスが、大量のカラスが。空へと一斉に羽ばたいていく。

 黒い羽が雨のように降り注ぎ、顔を背ける。

 

 「・・・・・・なに、なに・・・・・・してんの?」

 「・・・・・・灰沼」

 

 黒い軍勢が青い空へ飛び去るのを見送り、芝生に尻餅をつく姿の僕を、灰沼愛鳥が何事も無かったように見下ろしてくる。

 

 「こんなところで、寝て・・・・・・風ひくよ」

 「お前が言うか・・・・・・」

 「愛鳥さん!」

 「あれ・・・・・・有栖じゃん。こんなところでなに・・・・・・ってあれ? アタシも。なにしてるんだろ?」

 

 首を傾げて、灰沼は5秒ほど沈黙すると。

 急に閃いたように、

 

 「あっ! 柔道部行かなきゃ!」

 「おい、待てよ。灰沼」

 「なに?」

 「・・・・・・お前、覚えてないのか?」

 「何が・・・・・・?」

 「今起きたこと・・・・・・」

 「だから、何が?」

 「幌萌君・・・・・・ねえ、愛鳥さん。稽古頑張ってね」

 「ああ、うん! 今日は絶対、あのゴリラ部長を投げ飛ばしてやるんだっ! んじゃ、行くね!」

 

 班蛇口が僕を制するように言葉を続け、灰沼はそのまま駆け出していった。

 

 「班蛇口・・・・・・あれは」

 「どうしようもないでしょう・・・・・・」

 

 どうしようもない。

 その言葉に、僕は何も返せなかった。

 

 「でも、確信したよ。あれは異常だよ」

 

 班蛇口は、芝生に広がる黒い羽を見ながら呟いた______

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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