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汚い方法で、醜い手段で勝ち得た勝利に価値がない。
という、人間は真に勝ったことがない。
勝者から見える景色を知らないのだ。
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不気味な鳥は何だろうか?
烏だ。
大人になった今でも、大量の烏が電線にとまっているのを見ると、寒気がする。彼らはとても利口な動物なのだ。話では、自分の仲間を傷付けた人間を覚えて、群れをなしてその人間に復讐するとも言われている。
彼らは勝利のためなら手段を選ばない。
それは人間も同じことであろう。
楽な方法を模索して、人間は知恵を使う。
ズルをしてでも、どうにかして勝ちたいとプロのスポーツ選手でも思うものだ。
______ 灰沼愛鳥もそうだった。
プロ顔負けのアスリート。大学女子スポーツ界では知らぬ者のいないほどの"天才"。
その天才と僕は友人である。
単に天才と言っても、彼女は努力をする天才であった。
『毎日高い場所を探して、登って。登れなかった壁には何度も、諦めることなくトライした。
お父さんの肩車から見た高い、高い景色を。
自分の力だけでその景色をみたくて。
アタシはそうして、こうなった______』
彼女は頂点を目指した。
何処までも高く、何よりも高く、誰よりも高く。
努力は報われ、彼女は女子スポーツ選手として頂点を取り続けた・・・・・・
______そうして彼女は1枚の壁にぶつかった。
"性"である。
いかに100メートル走の新記録を出そうと。
自身の体重の2倍以上のバーベルを挙げようと。
130キロを越える直球を投げれても。
彼女は、彼女であった。
10秒台で走ることも出来ない。
150キロのバーベルを挙げることは出来ない。
140キロのストレートを放ることなど出来ない。
男子柔道選手を投げようとも、トップクラスの選手には手も足も出ない。
男子に混じってサッカーをしても、トップスビードに乗った男子のドリブルに追い付くことは出来なかった。
彼女は悩んだ、挫折した。
いかに努力を重ねて、鍛練を重ねて。女子の頂点に立ったとしても。
男には勝てない。
灰沼愛鳥は、絶望したのだ。トップ選手でありながら、真のトップに立つことが出来ないということに。
______そこをつけこまれた。
彼女は願ってしまった。
自分の努力によって得た力やスピードを捨てて。
1羽の鳥に願ってしまったのだった。
これは、灰沼愛鳥と1羽の悪魔の話である______