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鬼伝シリーズ  作者: 春ウララ
人鬼伝~INTRODUCE~
11/29

3

3

 

 

 

 

 ______

 

 

 小さかったら高く飛べ。

 

 ___スパット・ウェブ 。

 

 

 ______

 

 

 

 

 不吉な鳥が1羽。

 真っ黒な羽の鳥、目は赤い。

 電信柱の頂点に立ち、下を見下ろす。

 ギョロリと動く目が捉えるのは、下層を見下ろす目が見るのは。

 憂鬱気に景色を眺める一人の少女だった

 

 鳥は、一本の剣を作り出した。

 その刃を自らの羽に突き立てた______

 

 


 

  

 ほろもえつくるが通う大学には3つの学内食堂がある。

 リーズナブルな価格設定と豊富なメニュー。昼時には数百名のまだまだ育ち盛りの生徒たちがなだれ込み繁盛をみせる。

 人混みが苦手な僕は目的もなく訪れることがない場所。目的ならあるか。お腹が少し空いている。遅い朝食と、ほとんど使っていないエネルギーのお陰で、軽食でもつまんでおけば夜まで持ちそうなほどだ。

 わざわざ食堂に。それも一番人気のある食堂に足を運ぶ必要なんてないではないか? そうやってどうにか理由をつけながら食堂の列に並ぶ。

 香ばしい匂い、甘い匂い。

 甘い匂いに食指が動き、僕はアイスクリームの乗ったフレンチトーストを注文するため、比較的女子率の高い学生の列に並ぶ。

 どうにも落ち着かなく、携帯で今日のニュースなんぞを眺めていると。

 『いまどこ?』

 LINEの返事がきた。待たせ人からである。

 『いま、列に並んでるとこ』

 『窓際にいるから』

 『了解』

 短いやり取りを終えて一息はく。

 

 ほどなくして僕の番が回ってきて、いざ注文を告げようとすると。店員さんは部活の後輩であった。うちの学生食堂は基本的に、調理接客で外部からスタッフを雇い入れているのだが。学生たちのバイト雇用もしている。学内の職場なので近く、自分の受講に合わせて働けるため、毎年三回ほど募集される応募時期には倍率20倍にも及ぶほどの学生たちが集まるのだ。

 

 「あ、幌萌先輩お疲れさまでーす」

 「おつかれー」

 「いつものですかー?」

 「・・・・・・うん、お願いします」

 「はーい」

 

 少し天然な、主に衣装を担当している後輩の女の子は、普段のオットリとした口調や動きに反して、手際よく調理を進めていく。彼女が我が部でも重宝されるのは、スイッチが入ったときの仕事の早さ。それと話してると、とても癒しされるのもある。

 恐らく、この食堂でも活躍していることであろう。

 

 「週3くらいで入ってないか?」

 「そーですねー、最近小銭を使いすぎちゃってー」

 「身体壊すなよ、本番前で大変だろう」

 「大丈夫ですよー、動くのが好きなんでー。ありがとうございますー。幌萌先輩も甘いものばかり食べて、疲れてるんじゃないですかー?」

 

 確かに、この子が此処で働いてる時はだいたい甘味類を注文しているかもしれない。いつもので。が通用するほどに。少し恥ずかしい・・・・・・

 

 「スウィーツ男子ですねー、はい。お待ちどうさまでしたー。350円でーす」

 「ありがと、んじゃまた明日の放課後な」

 「明日のお昼かもしれませんよー・・・・・・ちょうど頂きますー、ありがとうございましたー」

 

 後輩に礼を告げ、フワフワのフレンチトーストを受けとり、人を避けながらトコトコと歩いていく。

 窓際にいると言ってたな・・・・・・ 灰沼はいぬまは・・・・・・ 











 いた。直ぐに見つかった。

 二人がけの席に座っている女性、小さなピンク色のお弁当箱を置き一人でボーっと窓の外を眺めている。

 セミロングの髪を後で結い、陽の光を斜めに浴びる綺麗な女性。物静かに視線を流す姿は深窓の令嬢を思わせる美と、大きな一重の少し茶色がかった瞳が可憐さを醸し出す。タイトなパンツスタイルの服装でスポーツで鍛えられた締まりのある美しい曲線美がより強調される。静態でも目を惹かれ、汗と髪を靡かせ華麗に動く彼女の姿に惚れる男女は後をたたないそうだ。

 灰沼愛鳥はいぬまあいち

 僕と同格年の運動部内では知らぬ人のいないスーパーガール。女子離れした運動能力で、様々な部の助っ人として駆り出され、多種多様な種目の記録ホルダーになるほどの大活躍。

 短距離を走らせれば国体トップクラス。

 サッカーでは都大会ベストイレブン。

 柔道団体では大将に座り、体重差40キロはあろう重量級相手を背負い投げ。

 アームレスリングで運動部男子を50人抜きしたとか。

 大人の軟式草野球に混ざり、4番投手をしているとか。

 室伏広治と同じトレーニングをしているとか。

 挙げればキリのないほど伝説や記録を持つ、彼女と僕みたいな文化部の男がどうして友人になったのか・・・・・・それはまた別の機会に話すとして。

 

 ______どれだけ優れた才能を持つ者にも欠点やウィークポイントは確かに存在するということを身近に教えてくれた灰沼愛鳥である。

 

 「ここ、空いてる?」

 

 返答も聞かぬ前に僕はフレンチトーストの乗ったプレートをテーブルに置く。

 そうしとかねば・・・・・・

 

 「・・・・・・やっときたわけ」

 「おはよう、灰沼はいぬま

 「遅れんなら、連絡くらいしなさいよ」

 「申し訳ない、ただ不測の事態が発生してな」

 「どーせ、サボった板書を急いで書き上げてたーとかでしょ」

 「ご名・・・・・・トゥッ!」

 「偉そうに言うな!」

 

 口を開かねば・・・・・・という言葉が誰よりも板につく。

 今までお人形さんの様に座っていた灰沼は、スクッと立ち上がりざまに、僕の顎に容赦なくアッパーカットを浴びせてきた、少し反らしてクリティカルヒットは避けれたが、舌をキャんだ!

 きっと彼女は産声をあげる前に取り上げた看護師にボディブローをしたに違いない、そんな冗談がハマるほどに彼女は手が早いのだ。

 

 「何が10分後には着くよ、20分もロスタイムじゃない!」

 「灰沼にゃら、ハットトリック出来るにゃ」

 「じゃかしいわ!」

 

 顎を押さえていた僕の脛に今度はローキックを喰らわせてくる。確かにお昼休みも半分時が過ぎていた

 

 「いたいって! ここは、道場じゃないぞ!」

 「あれ? 倒れない・・・・・・効いてないのかな?」

 「効いてる、効いてる! ごめんなさい!」

 

 第2打を構えた灰沼に僕は平謝り。

 たぶん、今までの僕なら一発目で膝をついているだろうが。最近、瑠花るかさんの"可愛がり"のお陰で打撃に対して少し耐性がついているのだろうか・・・・・・そんなポテンシャルいらない。

 

 「まった、身体に悪そうなもん食べんのね、アンタは」

 

 ようやく、気が落ち着いたようで。灰沼は席へと腰掛け僕が買ってきたオン・ジ・アイスクリームのトーストに眉を潜める。

 

 「趣味嗜好は自由だろ」

 「糖質プラス脂質のオンパレードだわ。アンタ早死にするわよ」

 「明日よりも、今日の甘味だよ」

 

 僕も灰沼の正面に座ると、灰沼はスルスルとお弁当の封を解く。緑黄色野菜や鳥のささ身等。バランスよく美味しそうな灰沼の手造り弁当に喉がなる。

 

 「いただきます」

 「ごめん、待たせちゃって」

 「ほんとよ・・・・・・」

 

 フンッとそっぽを向きつつも箸を進める灰沼。

 周囲を見れば僕と灰沼の間に起きたちょっとした暴力行為に目を点にする学生と、なに食わぬ顔で食事や談笑をしている学生と。後者は恐らく運動部の連中であろう。

 灰沼は挨拶がてらに激しい"スキンシップ"をしてくるものである。僕に浴びせる程にはしないが、本人はじゃれあいでも喰らってる側は堪ったものではない。そんな灰沼は影で"撲殺天使"や"スケバンアイドル"など綺麗な見た目とドメスティックな面を上手く表現されているようだ。

 そんな彼女と上手くやれているのが不思議に思う。

 班蛇口はんじゃくみたいに疑問を問えば、教えてくれる灰沼ではない。

 まあいいか。

 

 「なあ灰沼さん、灰沼さん。今日の予定は」

 「うん? 今日は女バスの練習と陸上部に顔をだして。夜には市民体育館で柔道の出稽古に行くくらいだけど」

 「・・・・・・ごめん」

 

 放課後に三種目のスポーツ活動をするのが、"くらい"だと?

 相変わらずの体力バカだ。相変わらずの八面六臂の活躍である。

 

 「何で謝んのよ?」

 「暇人でごめんなさいと・・・・・・僕は今日の飲み友達を探してるというのに。神は不公平だな、サンタマリア。オツベルと象な気分だよ」

 「暗い! そんなんだから、ひな先輩に振られんのよ!」

 「掘り返すなよ、この野郎。大きな声で言うな・・・・・・今日も上手そうな弁当だな」

 「何? アタシのご飯が食べたかったの? 言ってくれたらお弁当作ってあげたのに」

 「灰沼の時間を取るのは忍びないよ・・・・・・だがそれもある。灰沼のご飯が食べたい僕と。あとは、班蛇口がさ。また三人で遊びたいなぁって。蒔苗とかも混ぜてさ」

 「うーん・・・・・・ちょっと待ってね」

 

 自分の手帳を開いて予定を確認する灰沼。

 "ひな先輩"の話はやめてほしい。

 血ヶちがだいらひなと、僕。その両方とも深く交遊がある灰沼に対して、僕たちの別れはいくらかのショックを与えたであろう。

 特に血ヶ平とは仲が良かった。こんな灰沼が忠犬よろしく血ヶ平に対して、なついていたのだ。

 それも血ヶ平が持つカリスマ性と気高い居姿によるものか。

 血ヶ平ひなのことは、まだ時間を経てから伝えたいと思う______

 

 「いや、無理に空けなくていいよ」

 「アタシが空けたいのよ、ネガティブ君」

 「そか、ありがとう・・・・・・そうそう、これ見てくれよ」

 

 班蛇口に見せたのと同じ写真を灰沼に見せる。

 今回は、画面がスクロールしないように細心の注意を払いながら。

 

 「綺麗だろ。今朝、ベランダから撮ったんだよ」

 「おおー、綺麗じゃん」

 「花見がてらにうちで遊ばないかと思ってたんだけどさ・・・・・・」

 

 上目使いに灰沼を覗くと、頭をかきながら彼女は、

 

 「今日は無理かな・・・・・・今週末にでもどう? 」

 

 今日二人目の予定確保失敗。

 班蛇口の予定も聞いて、日程を調整するとして、

 

 「うーん・・・・・・」

 「なに? 都合悪いわけ?」

 「いや、悪くない。ただ、あの人が」

 「あの人?」

 

 瑠花さんがいる以上、易々と家に誰かを招けないか。

 瑠花さんと灰沼なら、案外気があいそうだが。それ以前に僕と彼女の同居生活に対して、灰沼はアラートを鳴らしそうだ。

 瑠花さんには、また何処かに出掛けてもらうことにしよう・・・・・・聞き入れてくれればの話だが。

 

 「いやいや何にも・・・・・・手帳なんて使ってんだな灰沼」

 「うん、そりゃ使うでしょうよ」

 「携帯にメモとかしないわけ?」

 「あー・・・・・・それはよく言われるけどね。

 アタシはスマホをあまり携帯しないんだ。歩きながらとか使わないし、だいたいバックに入れたままなんだよねー、気づいたら電池切れとか有りがちでさー、あっはっはっ」

 

 から笑いと共に、バックの中からスマートフォンを取り出す灰沼。

 

 「姿勢が悪くなっちゃうからね。それにポケットになにかが入っている感覚が嫌いなんだ・・・・・・だいたいのスポーツは、ポケットに何も入れないでしょう?

 携帯がある感覚になれるとどうしても動いたり走ったりする姿勢がおかしくなっちゃうんだよね」

 

 スマホをポンポンとお手玉しながら灰沼は僕のちょっとした疑問に答えてくれた。

 

 「努力してるんだな」

 「うん・・・・・・そうだよ・・・・・・と、何か辛気くさいや。

 取り合えず今日は、大人しく独り身で過ごすんだね。ひな先輩はもういないんだし」

 「亡くなったみたいにいうなよ」

 「冗談よ! 時間は帰ってこないんだし、前を向かなきゃ!」

 「お前みたいにポジティブアクティブになりたいよ」

 「それがアタシの取り柄でしょ」

 「いや、お前の取り柄は美人で料理も上手く、スポーツ万能なのに、全然モテないという残念なところだ」

 「うっさい!」

 「いって! 生傷が絶えないわっ!」

 「少しはワイルドになるでしょ! アンタとアタシの関係はこんなもんよ、今のところアタシの全戦全勝じゃん?」

 「歯痒いことを・・・・・・よし、じゃあ勝負しよう。僕が勝ったら、灰沼の予定を1日貰おう」

 「また、回りくどいことを・・・・・・でも乗った。バスケでいい?」

 「国体得点王と僕が勝負になると?」

 「じゃあ、柔道」

 「この前、100キロ級の後輩を投げ飛ばしたらしいな?」

 「じゃあ何がいいわけ?」

 「うーん・・・・・・ウノとか」

 「却下、ゲームと勝負は違うのよ」

 「ゲームでくらい勝たせてくれないか?」

 「勝負に勝たないと、アンタがアタシに求めることなんて出来ないのよ」

 「女王様かよ・・・・・・よし、考えとく」

 

 話の落ちを着けたところで予鈴が鳴る。

 ふと、顔を時計の方へ向けると。

 

 ______何かがいる。

 黒い何か。

 こちらをジーっとみる。黒い塊についた赤い眼。

 何だろうか、凄く嫌な感じがするが。

 その眼は僕に向けられているというよりは、僕の目の前に座る灰沼に向けられているような気がした______

 

 「・・・・・・灰沼、最近。調子悪くないか?」

 「いや、絶好調だよ。短距離のタイム更新したし!」

 「・・・・・・なら、いいんだけど」

 

 灰沼に目をやり、もう一度時計の方を向くと、黒い塊は消えていた。

 霧散するように跡形もなく。気味悪いが消えてしまってはしょうがない

 帰ってきたら、瑠花さんにでも聞いてみようか______

 

 「あっもう1時だ、ソフトの昼練行かなきゃ」

 「おう、行ってらっしゃい。またな灰沼」

 「アンタ、授業は?」

 「5限まで無し! ちょっと駅前にでも行こうかな」

 「暇人め・・・・・・」

 

 憎らしいと言い、テキパキとお弁当を仕舞い、席を立つ灰沼に。ちょっとした悪戯心で、

  

 「僕がもし勝ったらデートしようよ」

 「・・・・・・え?」

 「お前の1日・・・・・・貰えるんだろ?」

 「・・・・・・な、なに。言ってんのよ、バカ!」

 

 目を丸くして、僕の言葉に驚いた灰沼に微笑むと、灰沼は顔を背けて、走り去っていった。

 こういうところが灰沼の素直で可愛らしいところ。

 こういうところが、彼女の愛される所だろうか。

 

 ・・・・・・さてと、しかし灰沼もダメだったか。

 独りの夜は嫌だ。

 さっき見た黒い塊のこともあり、一層にそう感じる・・・・・・

 

 次の授業までだいぶ時間もあるし。駅前のカフェにでも執筆がてらに行ってみようかな・・・・・・

 

 そうだ。

 この時間ならいつものカフェに、伊予山いよやまがいるかもしれないな______

 

 

 

 

 

 

 

 

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