表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼伝シリーズ  作者: 春ウララ
人鬼伝~INTRODUCE~
10/29

2

2

 

 

 

 

 ______

 

 

 女はどんな正直な女でも、その時心に持っている事を隠して、ほかの事を言うのを、男ほど苦にはしない。

 

 ___森鴎外『雁』より。

 

 ______

 

 

 

 『孔明には後継者がいなかった。その為大国"蜀"は滅んだと結びつけるのは容易なことである______ 蒋琬しょうわん費禕ひいという優秀な文官を死の間際に後継者として挙げました。彼らは孔明の留守を守り国力を蓄えることに______対して、姜維きょういは二人が死んだ後再び北伐を始め______』

 

 「何してるの?」

 「TTタイムテーブルをね・・・・・・全体LINEで回さないと」

 「授業中だよ」

 「昼までに流さないと」

 「言い訳でしょ」

 「うん、怠慢です。ごめんなさいっと。確認してもらっていい?」

 「・・・・・・ok」

 

 『クローン技術の発展において最も弊害となるのは当然、人間の脳である。そう結びつけるのは容易なことである。が______』

 

 「さっきまで三国志の話してなかった?」

 「ほら、全然聞いてないでしょう・・・・・・ねえ、この仕込み時間あと10分短く出来るんじゃない?」

 「うん? ・・・・・・ああ、出来なくはないが」

 「私の名前使っていいから」

 「使わないよ、竹居たけいと、おさむが担当だからな・・・・・・アイツらルーズなんだよ」

 「time is money」

 「オーイエスッサー・・・・・・よし、送信」

 

演劇部への業務連絡を終えて、

 隣に座る、班蛇口はんじゃくのノートブックを盗み見る。

 書いてる内容がさっぱりわからない。そもそもこの授業なんだっけ?

 先生の話が面白いから取ったというだけで、何を授業しているのかは、わからない。

 ルーズリーフを机に広げてはいるが、書いてるのは脚本のメモ書きのみ。

 

 『葡萄酒を浴びせられたヒットラー風の男』

 『野田秀樹のだひできの声』

 『上手より袴の袖、チラッ』

 『核時計の針は、手動だろ?』

 『おめでとう、おめでとう。まるでファンファーレ』

 

 自分で書いといて何がなんだが、わからない。

 

 この2限の授業で得られたことは。

 片手間で色々やれるほど、僕は器用じゃないということ。

 享受した。教授だけに。

 なんちゃって。

 僕が、ようやく携帯を仕舞いシャープペンシルを手でクルリと一回しし、教卓のホワイトボードに板書された文字を写し出すと。

 班蛇口も小さい溜め息を溢して、教授へと向く。

 

 「というわけで班蛇口、今日の夜空いてる? うちこない?」

 「そんなstraightに自宅に招かれると、女性としてなんかshockだな」

 

 そうそう、この授業を受ける目的・・・・・・いや、授業中に達成すべき目標は、班蛇口有栖はんじゃくアリスの予定を聞くことであった。

 僕が、"キッチリ"1分前に教室に入ると、班蛇口は窓際後方の席を二つキープしておいてくれた。

 僕は熱心によくわからない文字列を写しながら、熱を演じて続ける。

 

 「大丈夫、班蛇口は素敵だよ」

 「取って付けたように・・・・・・それに1限に来なかった理由が、showもないよ」

 「ショーもない?」

 「見せられないよってこと。やっぱり不安だな・・・・・・上鬼柳かみおにやなぎさんのこと」

 

 結局、時間ギリギリで駆け込んできた僕が、1限をブッチしたことを直ぐに見抜かれ、どうして講義に出れなかったのか?

 正直に答えたのだ。

 

 「いや、本当に何もなかったよ。開口一番暑苦しいって言って僕をソファから蹴落としたからな」

 「・・・・・・仲良しだね。姉弟みたいに」

 「ああ、それに近いかもな」

 「いいなあ、私一人っ子だからなぁ」

 「うちの実妹あげようか?」

 「jokeでも言っちゃダメだよ、そういうこと」

 「じゃあ、僕が班蛇口家の養子になるとしてだ」

 「ならないよ・・・・・・」

 

 意外と、瑠花るかさんのことについては余り問いただされなかった。

 居酒屋の話を気にしているのだろうか?

 

 ______この話題嫌い?

 

 おおっぴろげに話すことでは決してない。

 どんな理由があるにしろ、特に僕と瑠花さんが一緒に住んでいる理由は特別すぎるが。

 若い男女の同居生活なんて、いかがわしいイメージしか大学生には持たれないだろう。

 班蛇口以外にも、僕の声が聞こえてる生徒はいるかもしれない。

 僕の声というよりは、班蛇口有栖の声を聴いているか。

 

 班蛇口有栖は、僕なんかよりもよっぽど学内では有名人なのだ。

 態々、席を二つキープするほどに班蛇口と仲の良い男子。

 

 幌萌創ほろもえつくるは秀女の友達。

 幌萌創とは、何者だ?

 

詮索を恐れるのも過剰かもしれないが、

 少し声を潜めて、班蛇口に話しかけ、

 再び携帯を取りだし、今朝撮った写真を見せる。

 

 「花見でもしようよ、家のベランダから。ほら結構景色がいいんだぜ。

 気付かなかったけど。二人ってのもあれだし、蒔苗とか。灰沼は・・・・・・たぶん忙しいだろうけどさ」

 「楽しそう、是非joinしたいけど・・・・・・でもごめん。私、今日は用事あるんだ」

 

 何気ない動作で僕の携帯画面を、班蛇口はタッチして、横にスライドさせる。

 

 スライドさせた写真は、なんと僕と瑠花さんが写っていた。

 僕の肩を抱き寄せ、二人で自撮りしている写真。

 きっと、昨日の夜だ。

 二人とも茹でダコの様に顔を朱に染めている上に、撮ったこと自体の記憶がない。

 

 いやいや、そんなことよりも。

 こんな写真、班蛇口はおろか、他人に見せびらかせるモノじゃない。

 消しておかねば・・・・・・

 

 「・・・・・・ごめんね、また誘ってよ。結那ゆうなさんとも久々に会いたいし。

 愛鳥あいちさんは、私も会いたいな」

 

 僕が携帯を慌てて取り返そうとすると、班蛇口はスンナリと返してくれた。

 チラリと様子を窺うが特に、僕たちの写真に対してリアクションはないようだ。

オドオドと話を戻そうとする。

 

 「・・・・・・ああ。アイツ、多忙だからなぁ。予定を聞いてみるよ」

 

 何事もなかったように班蛇口は教授の言葉に耳を傾けだす。

 それを横目にLINEを開き、灰沼愛鳥はいぬまあいちへとLINEを送ろうとするが、

 

 「授業中だよ」

 

 班蛇口がヤンワリと注をいれてくる。

 それもそうだ。黙認されているとはいえ、授業中に携帯を弄るのはよろしくない。


 たぶん、灰沼は学食にいるだろうから、次の時間会いに行こう。

 

 「ねえ・・・・・・」

 「うん? ごめんごめん。授業に集中しますよ・・・・・・」

 「______桜の花言葉知ってる?」

 

 シャープペンシルをまた回し、教卓を向いた僕に対し。

 班蛇口は、窓の外を眺めていた。

 

 「______出会いとか。」

 

ぼんやりと返事を返す。

 窓の外には、葉桜になりつつある樹。

 散り際の桜の方が好きだ______

 そんなことを言った"人"もいた______

 

 出会いよりも、別れ・・・・・・

 その方が"僕たち"にはピッタリかもしれない。

 蛇足な話だ。

  

 「それもあるよ、桜は種類によって花言葉が色々あるんだよ。manyにね・・・・・・」

 「そうなんだ・・・・・・」

 「私が好きなのはね______」

 

 班蛇口の顔を見ようと、隣を向いた瞬間。

 終業のチャイムが鳴った。

 

 「やっべ・・・・・・」

 

 僕の肩をぽんぽんと叩いて、班蛇口は頬笑み

 

 「写させてあげないよ・・・・・・」

 

 学食に行くのは、もう少し時間がかかりそうだ

 急いで、シャープペンシルを走らせた______

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ