2 宴会
冬休みもそろそろ終わりですね。
ふっ、と意識が覚醒する。立ったまま目が覚めるっていうのは今まで体験したことがなかったのでちょっと驚いた。
「さて、幻想郷についたわけだが…。」
ポケットに入っていた財布を開いてため息をつく。
中には壱万円札が二枚。小銭は一切入ってなかった。
「落ち込んでていても仕方がない。まずは、此処がどこかはっきりしなくては。」
辺りを見渡しても木だらけなので、しゃがみこんで地面に手を付く。
「干渉…開始」周囲の景色が手に取るように探知できた。
立ち上がって手についた土を払う。最初の目的地が決まったからだ。
「一番近いのは博麗神社か…急ごう。」
念のため近くにあった大きめの棒を拾って駆けていく。」
走って3分ぐらいのところでちょっと広い神社の境内に出た。ようやく付いた、と棒を手放し賽銭箱に近づく。
黙って全財産の1/2を入れる。
「この世界でも平和に生きたいね…。」
賽銭箱を離れた瞬間だった。
「待って!」
すごい勢いで奥から紅白の巫女装束に身を包んだ少女が出てきた。
「こんにちは…。」正直このパターンは想像してなかった。
「あんたでしょ!この賽銭箱に壱万円札入れたの!」
「え、ええ…。」なんで知ってんだこの紅白巫女…。
賽銭箱の中から壱万円札を取り出し、掲げてまじまじと見つめる紅白巫女…シュールすぎる。
「見ない顔ね…名前は?」霊夢はようやくこちらに興味を持ったのか聞いてきた。
「鬼灯神楽です。気付いたらここの近くの林にいたんです。」
「博麗霊夢よ。ここの巫女をやってるわ。お賽銭ありがとね!」
「霊夢さん、質問があるんですが…」このまま奥に帰られても困るので本題に入る。
「堅苦しいわね…さんとかいらないわよ。それで、何?」
「俺、どこに住めばいいんだろうか。」正直ここに来てからずっとこのことを考えていた。
「ここでいいんじゃない?」霊夢がさらりと答える。
「えっ…?」 一瞬判断が遅れ曖昧な返事をしてしまう。
「うん、ここに住みなさい。神楽は恩人でもあるし。」
別に俺としても異論はなかった。一通りの生活用具はあるだろうし、人里も近い。
「それじゃあ、お世話になります。」
少し疲れたので、横になる。
「あれ?もう寝るの?」霊夢が不思議そうに問う。
「今日はいろいろありすぎた…眠い。」
「それもそうね。おやすみ。」布団をかけられたので、おとなしく寝ることにした。
「まさか…あの子がうちに来るなんて…ね。」
後ろでなにか聞こえたような気がしたが睡魔には勝てない。意識が遠のいていく。
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「うん…?」やけに外が騒がしい。目をこすりながら、襖を開けた。
「お、主役の登場だぜ!」魔理沙が外の方へ叫ぶ。
「眩しい…。」眠い寝かせてくれ。
「ようやく目覚めたの?」ちょっと酔ったのか、顔がほんのり赤い霊夢が言った。
「なにこれ。」あまり難しく考えられないので短い文章で言葉を伝えていく。
「宴会よ。あんたが幻想郷に来たことを祝って、ね。」霊夢はさも当然のように言った。魔理沙たちもこちらに興味を持ったのかこちらを見つめてくる。
「ふーん…おやすみ。」
ふすまの先にある布団に向かって歩き出す。
「「えええええ!?」」
何に驚いてるんだこいつら。眠いなら寝るに決まっているだろうに。
「だ、誰か止めて!自己紹介をさせるまでは寝かせるな!」
霊夢が手を掴むが、あまり力が入っていないように思う。振りほどくのも面倒なのでそのままでふすまを開けて布団に入った。
「満足…。」あったかい布団にくるまれて幸せ…。
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気のせいか、布団が狭いように感じる…。
ふと、寝返りを打つと、霊夢がいた。
そして、手を握ってしまっていることに気づく。
手を払って、布団から飛び起きた。掛け布団は、霊夢に掛けておく。
「…顔洗ってこよう。」
外に出て、近くの水道で顔と手を洗う。
顔を洗ったというのに顔が熱い。思い出したくない…!
絶対に朝食中気まずくなる、と思っていたら霊夢は昨晩の記憶は完全に無いらしく普通の霊夢だった。
ちなみに、「まだ自己紹介をしていない」という理由で宴会は今日に延期されたらしい。