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8・奴隷の女の子を従業員にしました

 俺達の前に現れた女の子はとても可愛らしい容姿をしていた。


 十二歳くらいだろうか?

 それなのに長い髪は白色であったが、とてもキレイで光り輝いているようにも見えた。


 キレイな白髪に白いワンピース。

 細い体つきをしているが、年相応の健康さも感じさせる。


 ぼーっとした薄い目も特徴的であった。

 常時、なにを考えているが分かりにくい……それともなにも考えていないのだろうか。


「このはレオナ。この奴隷屋の奴隷の一人よ」

「奴隷——」


 ヒルデの説明を聞いていたが、それにしても普通の女の子に見える。

 奴隷なんかに見えやしない。

 ……いや元の世界の奴隷とはそもそも意味合いが違っていたんだっけな。

 俺の価値観でものを見ては、色々と理解出来ないことがあるように思えた。


「こんな可愛い子でも奴隷になっているのか」

「ええ——この子は幼い頃に両親を亡くしてね。そのまま放っておいたら野垂れ死ぬところだから、奴隷になる孤児は多いわ。

 奴隷屋にいる間は生活を保障してもらえるし、いいご主人様に貰われればそれはそれで良い生活も出来るしね」

「そうなのか……」

「でも」


 ヒルデは続ける。


「もうレオナがこの奴隷屋に来て半年が経とうとしているわ。そろそろ他の奴隷屋に売り渡そうと思っているんだけど……」

「他の奴隷屋?」

「ええ。私の奴隷屋は比較的高級な部類に入ってね。奴隷を雇うにも維持費がかさむわけ。だから……他の、もっと劣悪な環境下に置かれた奴隷屋に安い金額で買ってもらおうって思って」

「劣悪な環境? ガチガチの法律に縛られていて、そういうのは出来ないんじゃなかったのか」

「もちろん。でもここだったら建物内部なら自由に歩き回ることが出来るけど、他の……安価な奴隷を扱っている店に行くとそうでもない。牢屋のような場所に閉じ込められて、三食のご飯を与えられるだけよ」


 それは……。

 元の世界でいう囚人と変わらないのではないだろうか。


 成る程、それでも必要最低限の暮らしは出来るだろう。

 でもなにより退屈だし、体を壊すかもしれない。


 ヒルデは『安価な奴隷を扱っている店』と言っていたな。

 ならば——安いお金しか払うことの出来ないお客さんは、この女の子……レオナは酷く扱うのではないだろうか。

 それこそ、ボロ雑巾のように。


「??」


 そんなヒルデの思惑を知ってか知らないのか——いや理解していないのだろう。


 レオナはヒルデの服の裾を掴んだまま、首を傾げた。


「どうにかヒルデの店で雇ったままには出来ないのか?」

「私も慈善事業をしているわけではないわ。このままヒルデを雇い続けたら、こっちの方が奴隷になっちゃうかもしれないし」


 俺がヒルデの生活を保証出来るわけでもない。

 なので口を挟む問題でもないだろう。


 俺はレオナの顔を見る。


 ……こんなに可愛らしい子が酷い扱いを受けるかもしれない。


 そう考えたら、胸が締め付けられるような思いになった。


「なあ——ヒルデ」

「ん?」


 ヒルデが顔を近付けてくる。


 ……よし決めた。



「俺でも、奴隷を買えるのかな」



 そう言うと、ヒルデはニカーッと口角を吊り上げて、


「もちろん! お金を払ってくれればね!」


 と人差し指と親指でお金のマークを作った。


 ——どちらにせよ、アイテム職人なるにしても可愛い女の子の従業員は雇うつもりであった。


 街で適当な美少女を勧誘、なんて真似は俺には出来そうにないしな。

 ならばここで女の子を見つけてもいいのかもしれない、と思ったのだ。


 それに俺はレオナに一目惚れしちまっている。

 この子の将来を考えると、不憫に思ってしまうしな。

 ここで奴隷を買うという選択肢はそう間違っていることでもないだろう。


「どれくらいするんだ?」

「そうね——今なら大特価、200万ホープならどうだい?」


 ……高いのか安いのかよく分からない値段である。


 まあどちらにせよ、払えない金額ではない。


「ホレス」

「ええ……もちろん、良いですよ。元々あなたに渡すお金を考えれば、住むところを紹介しても安いものです」

「悪い、またこの借りは返すから」


 ホレスから貰う金額は1000万ホープのはずだった。


 だが、俺はそれを断って「住むところを紹介してくれ」と言ったんだしな。


 ならばこのことはホレスに借り一つと考えておく方が良いだろう。


「まいどあり——じゃあ」

「……嫌」


 話がまとまりかけてきたのに。

 レオナはそう短く言って、ヒルデの背中に隠れた。


「……レオナはヒルデのところで暮らし続けたい」

「レオナ。それは許されないことって何回も言ったでしょ。奴隷はいつかお客さんに買ってもらうんだから……」

「……嫌」

「もう一度、孤児に戻ってもいいのかい? 誰もレオナを買ってくれなくなったら、あの時に戻るんだよ?」

「——」


 そう言うと、レオナは瞳孔を開き沈黙。


 ——孤児時代に辛い思いをしたのかもしれない。


 それからレオナはなにも喋らなくなった。


「それで……契約ってのはどうするんだ?」

「ああ、ちょっとこっちに来てくれる?」


 ん?

 なんでヒルデはニヤニヤとしているんだ?


 俺とレオナが真正面に向かい合い、


「……こうするのよ!」


 ヒルデが俺の後頭部を無理矢理押し出してくる。


「んんんんん!」



 気付けば——俺はレオナと口づけをしていた。



 顔を離そうにも、ヒルデが強く俺の頭を押さえつけているため離すことも出来ない。

 官能的なレオナの唇の味を感じるたびに、頭に突き抜けたような刺激が与えられる。


「……ぷはあっ! なにしやがんだ!」


 押し出す手の力が弱まったのを見計らって、一気にレオナから顔を離した。


「これが奴隷との契約なのよ。ほら見てみなさい」

「——っ!」


 その変化は急に起こった。


 ——レオナの胸元が白く輝き始めたのだ。


 その光はだんだんと弱まっていく。

 光が完全になくなった胸元には蝙蝠こうもりの羽のような模様が新しく現れていた。


「これで完了。また奴隷屋『ヒルデ』ご贔屓に〜」


  ■ ■


「まさか奴隷の契約でキスが必要になるとはな」


 奴隷屋から出て。

 俺はホレス——そしてレオナと一緒にアルフガフトを歩いていた。


「まさか。キスなんて必要じゃありませんよ」

「えっ!?」


 ククク、と口元に手を当てて苦笑するホレス。


「奴隷の契約にはお互いの魔力を練り合わせる必要があります。これは《絆の刻印》を刻む時とほとんど同じ方法ですね。そのために——キスという手段は必須ではありません」

「それじゃあどうして!?」

「コウキさんは《異人》ですからね。

 お互いの魔力を練り合わせることは不慣れだ、とヒルデさんも考えたのでしょう。だからキス——つまりお互いの体液を交換することによって、自然と魔力を交わせた……といったところでしょうか」

「なんだ……一応理由はあったのか」

「『一応』ですけどね。もっと別の方法もありましたが……まあヒルデさんの趣味でしょう」


 あいつ……っ!

 とんだことをしてくれたものだ。


「?」


 隣で低い位置からレオナが顔を見てくる。


 ……まあいいや。

 良い買い物が出来たのは間違いない。

 俺はレオナのご主人様として、この子を大切にしていかなきゃな。


 レオナの胸元の蝙蝠のようなマーク。


 これは奴隷に刻まれる刻印であり、同時に奴隷を強制的に律する鎖でもある。

 なんでも、これがある限り奴隷はご主人様に逆らうことが出来ない、だとか。


「それに……コウキさん。コウキさんがご納得されていたようなので口を挟みませんでしたが、もっとよく考えてから買い物はしてくださいね」


 ホレスがこれ以上ないくらい真剣な声音をして言う。


「どういうことだ?」

「そもそもこの子の価値が200万ホープで適正だったのかも疑問です。半年間も買い手が付いていなかったら、なにかしら問題があると考えるべきです」

「特に問題があるようには見えないがな」

「だから、です。それだけ若く可愛らしい女の子なら、すぐに買い手が付くはずです」

「でもそうならなかったのは、性格的になにか問題があるのでは……ということか」

「そういうことです。そのようなこともあって——あくまで私は奴隷の専門家ではないので概算ですが——30万ホープが適正かと」


 30万ホープか……。


 人の値段が30万ホープだと考えれば、やっぱり安いように思える。


「……まあ別にいいよ。俺は納得しているんだから」

「コウキさんがそうおっしゃるなら」


 我ながら楽観的な考えである。


 異世界の雰囲気に俺も浮き足立っているのだろうか。


「…………」


 こうやってホレスと話している間。

 レオナは一言も口を挟むことはなかった。

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