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2・スキルオープン

 イアン、マルコムが先頭。

 それに続いて、ジェリーとローレシア。


 俺?


 俺は最後尾に決まっている。

 イアン達には悪いが、クリーピーインセクトに出会ったら、戦える自信がない。

 ってか腰が抜けて立ち上がれなくなってしまうだろう。


「むっ」


 イアンの足が止まる。


 見ると、イアンの前にゴキブリモンスターことクリーピーインセクトがいた。

 

 だが、今度は一匹だけではない。


 二、三、四……十匹を超えるクリーピーインセクトがイアンと対峙していたのだ。


「イアン、にににに逃げないとっ!」


 十匹のクリーピーインセクトを前にして、一瞬で戦意なんてものはなくなってしまう。

 ってか最初からなかったような気もするけどね!


「あんた、臆病すぎるわよ。クリーピーインセクトよ? あんなのにビビってたら冒険者になれないわよ!?」


 だから冒険者になんてなるつもりないって!


 スローライフ万歳。

 やっぱ戦闘系のスキルを選んでなくてよかった。

 例え一発で倒せるようなチートスキルを持っていても、あんなヤツ等相手に戦える自信なんてない。


「大丈夫だよ、コウキ。マルコム」

「ん」


 マルコム……筋肉男だ。

 マルコムは短く返事をして、俺の前に立つ。


 俺を守ってくれている、ということなのか?


 じゃあお言葉に甘えさせてもらおう。

 マルコムの大きな背中を盾にするようにして、前に躍り出たイアンとジェリーを眺める。


「はあっ!」


 イアンがクリーピーインセクトに斬りかかっていく。


 それはまるで嵐のようであった。


 たった一本の剣でクリーピーインセクトを虐殺していく。


 防御なんてものはいらない。

 あんなものは臆病ものしか必要がないのだ。

 イアンの戦いざまを見て、俺はふとそう思った。


「ジェリー!」

「任せて——フレイム・バースト!」


 ジェリーがそう言うと、息絶え絶えのクリーピーインセクトの集団に爆発が。


 爆風で吹っ飛ばされそうになるが、マルコムが前にいるのでなんとか立ってられた。


「ざっとこんなものかな」


 イアンがパンパンと手を払う。


 見ると、十匹もいたクリーピーインセクトが一匹残らず消滅していた。


「もしかしてもう倒したのか?」

「うん」

「凄すぎだろ……」

「そうでもないよ。ジェリーが言ったように、クリーピーインセクトはそれ程強くないモンスターだからね。これくらいなら朝飯前だ」


 金髪をふさあと掻き上げる。


 イケメンだけじゃなく、実力も兼ね備えているのかよ。


 イアンだけではない。


 最後に大爆発を起こし、クリーピーインセクトにトドメを刺したのはジェリーだ。


「さっきの爆発は?」

「魔法よ、魔法。《異人いじん》はそんなことも知らないの?」

「魔法なんてものは俺の世界にはなかったからな」


 肩をすくめる。


 魔法……そうか魔法か。

 やっぱり俺は異世界に来たみたいだな。

 イアンが剣を振るい、ジェリーが魔法を使っているのを見てだんだんと実感が湧いてきた。


「とはいっても——これだけ戦えるのはスキルのおかげでもあるんだけどね」


 謙遜のつもりなのか。

 イアンが剣の刀身を見ながら、おもむろにそう言った。


「スキル? イアンもスキルを所持しているのか」

「うん、僕のスキルは【勇者の証】。どんな武具でも一瞬で使いこなせることが出来るスキルさ」


 なにからなにまで、勇者みたいなヤツである。


「ちなみにジェリーのスキルは【歩く魔法の書】。どんな魔法でも使いこなせうることが出来るスキル」

「チートスキルばっかじゃねーか……ってかそんな簡単にスキルをバラしてしまっていいのか?」


 スキルってのはモンスターが闊歩する異世界にとって、切り札のようなものであろう。

《異人》とはいえ、俺みたいな初対面の人間にバラしてしまっていいのだろうか。


「まあ……【鑑定】スキルがあれば、相手のスキルを簡単に見ることができるからね。【鑑定】スキルを無効化するアイテムやスキルもあるけど……君なら大丈夫かな、って」

「なんだ、そりゃ。俺みたいなヤツにだったら絶対負けない、って思っているのかよ」

「そうじゃないよ。ただ……なんというか、君を見ていると不思議と安心出来るから」


 ——そういや、昔から言われていたな。


 君を見ていると警戒心なんてなくなってしまう、って。


 小さな子どもに好かれることも多かった。


 一方、そんな俺を口先だけで騙してくるような人間もいた。

 そのせいでいつも貧乏くじを引かされてしまった。

 安心出来る、って言葉は同時に『敵に値しない』という意味が含まれているのだ。


「そういや、ここに来る前に俺もスキルを授かったみたいだけど」

「ああ——君のスキルは……いや、実際自分で見てみた方が早いね」

「どうやって見られるんだ」

「スキルオープン、って唱えてくれるかな」


 そんな一言で大事な情報を閲覧することが出来るのか。

 少し恥ずかしさはあったものの、イアンの言葉を信じて、


「スキルオープン」


 と言ってみる。


---------------------------------------

コウキ・オクムラ

SP10


『所持スキル』

【全体効果付与】Lv1

ターゲット:ポーション(消費SP5)

---------------------------------------


 すると、頭の中にそんな文字が浮かんできた。


「【全体効果付与】……」


 そういや、神様に会って最後に聞こえたのもそんな言葉だったな。

 ちゃんとスキルを付けていてくれたようで、まずは一安心である。


 SP……ってのはスキルポイントの略だろうか。

 ポーションってのを使えば、5SP消費されると。


 ただターゲットとなっているのがよく分からない。

 それに【全体効果付与】って……?

 分からないことが多すぎた。


「聞いたことないスキルだね」


 きっと、イアンは鑑定スキルとやらで、俺のスキルは予め知っていたのだろう。


「イアンでもか?」

「うん、今までたくさんの冒険者に出会ってきたけど、こんなスキルは初めてだ。マルコム、ジェリー、ローランド。聞いたことがある?」


 そう話を振るが、皆は一様に首を振った。


「ハズレスキルかな?」

「分からない……けど僕の考えが合っていれば——いやこの先を言うのは止めておこう。ここから先は君が自分で考えた方がいい」


 なんだそりゃ。

 イアンも分からないとなったら、【全体効果付与】のスキルの詳細を聞くのは無理か。


「どうせ大したことのないスキルよ」

 

 ジェリーが口を挟んできて、ちょっとむっとなってしまう。


「クリーピーインセクトも倒せないような貧弱男だからね。どうせスキルもスライムすら倒せることが出来ないスキルに決まっているわ」

「ジェリー」

「イアン。やっぱりこいつ足手まといよ。恩を売っていても得はないわ」

「ジェリー、ちょっと口が悪すぎるよ。それに僕の考えが合っていれば、コウキのスキルは千載一遇のものだ」

「どういうことよ」


 イアンとジェリーが言い争っている。


 それにしても、ジェリーがやたら俺に突っかかってくる。

 他のマルコムとローランドはそうでもないというのに。


 それにちょくちょく視線を感じることもある。

 どんだけジェリーは俺のことが嫌いなのだろうか。


「良いっ!? 絶対私達から離れるんじゃないわよ。じゃないと、あんたみたいな男すぐにモンスターに食われるんだから」

「気を遣ってくれてありがとう」

「なっ……! お、お礼なんて言わないでいいわよ!!」


 ぷいっ、と視線を逸らしてしまうジェリー。


 無論、お礼のつもりではなく皮肉であった。

 

 なんだかんだいっても、俺のことを守ってくれるつもりかよ。

 ジェリーは気は強いものの、どうしても憎めない性格をしていた。


「よし、先に進むとするか」


 とにかく【全体効果付与】のスキルについては保留。


 もう一度、イアンを先頭に迷宮の探索を再開する。

今日は三回更新予定。

一回目。

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