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プロローグ〜過労死しました〜

新連載始めました!

よろしくお願いします!

 残業のし過ぎで頭が痛い。


 キーボードを叩くカタカタという音が、誰もいないフロアに響いている。


「一体、いつになったら終わるんだよ……」


 会社のみんなは帰った。

 節電のために、電気が消されているのでパソコンのデスクトップの光だけ。


 机の端っこには栄養ドリンクが山ほど積み重ねられている。

 ああ、そろそろ捨てないとな。

 頭が朦朧もうろうとしていたせいか、そんな簡単なことすら出来なくなっている。


「ブラック企業なんて潰れてしまえ……潰れてしまえ……」


 日本の政治家が『働き方改革』とかで、残業を減らす方向に仕向けているらしい。


 ハハハ、なかなか面白い冗句だ。

 そんなもん嘘に決まっている。

 そうじゃないと、俺が瞼を擦りながら仕事をしている理由が分からない。


 ——どうしてこうなっただろうか。


 俺が新卒で就職活動をしていた頃は、未曾有みぞうの就職難。

 十も百も会社の面接を受け、この会社に決まったのは年を跨いでからだった。

 

 長期間の就職活動のせいで、俺の心も体もボロボロ。

 ネットの評判は悪かったが、そこに就職するという選択肢しか与えられていなかった。


 今思えば、それが全ての間違いだったと思う。


 三日目にして研修は終わった。

 十人くらいいた同期は三年目を迎える前にみんなもう止めた。

 昇給があるらしいが、そんなもんは一度たりとも遭遇したことがない。

 月二百時間は優に超す残業時間。


 慢性的な睡眠不足。

 いつだって頭がクラクラしている。

 その上、無能な上司には怒られる。

 いつも胃がキリキリとして、ストレスのせいで眠れない日もある。


 そんな感じで俺も二十七歳。


 ハハハ、立派な社畜だよな。


 ……そういや、一日オフっていつだったけ?


「ああ……休みたい休みたい休みたい」


 呪文のように呟きながらでも、キーボードは打ち続ける。

 こんな状態で仕事なんてしていても、効率は落ちるだろう。

 でもあの無能な上司はそんなことに気付かない。

 効率は根性でカバー出来るもんだと思っているのだ、やっぱり死ね。


「仕事辞めたい……」


 スローライフというものを送りたい。


 そうだ、きっとそれが良い。

 

 とはいっても、お金がなければ生活出来ないだろう。

 それに全くなにもせずに、ダラダラしておくのも退屈に殺される。


 俺は想像する。


 満員電車に押し潰されないような世界。


 ……そうだな、職人とかいいんじゃないか?

 お客さんなり業者から依頼を受ける。


 だからといって、厳しい納期なんてもちろんない。

 何故なら、俺は職人だからだ。


 俺の作ったものが気に入らないなら他のところに行け。

 そんなことを言っても、次々と依頼が舞い込んでくる。

 その中で俺は気に入った依頼にだけ手を付けるのだ。


 それでも生活出来る。


 当たり前だ、俺は職人だからだ。

 誰もが出来るような仕事じゃない。

 サラリーマンのような会社の歯車ではなく、代えが効かない大切な存在なのだ。


 疲れたら休めばいい。

 納期もクレームも気にしなくていいのだ。

 何故なら職人だから。それでも生活していけるだけのお金なら得ることが出来るのだから。


 そんな感じで悠々自適な生活を送っていく。


 ——うん、最高じゃないか。


 そうと決まれば、こんな会社辞めてさっさと職人にでもなろう。


「なーんて上手い話にはならないんだよな……」


 何故なら俺には取り柄もなにもないのだから。


 腕一本で生きていけるだけの十分な力がない。

 それに納期やクレームも気にしなくていい、って。それどこの世界線だ。

 よっぽど腕の良い職人でもない限り、そんなことは有り得ない。


 だからこそ俺の考えていることは想像だったのだ。夢物語なのだ。

 ああ、考えたら余計に仕事辞めたくなってきた。

 でも辞めたら生活出来ない。仕事しよ。


「……もうこんな時間か」


 気付いたら日付を跨いでしまっていた。


 そういや、お腹減ったな。

 コンビニにラーメンでも買いに行こうか。


 そう思って、立ち上がった時であった。


「うおっ?」


 長時間座っていたせいで立ちくらみがする。


 なんだ、これは?

 やばいんじゃないか?

 視界が真っ白になっていくぞ?


「おいおい、誰か——」


 無論、そんなこと言っても誰も助けに来ないのである。


 立っていられなくなってしまう。

 自分の体じゃないみたいに、前のめりに倒れていく。

 そう思ったのが最後。

 意識がぷっつんと途切れてしまった。




 ——……。


「ここはどこだ?」


 目を開けると、辺りが霧で包まれている場所であった。


 それに地面がない?

 なんだかふわふわしているような感覚。


「病院? ……いや病院にしては医者もナースもなにもいないぞ?」


 疑問を感じながら、歩き出そうとした時であった。



『パンパカパーーーーン!

 おめでとうございます!

 あなたは死んでしまいましたにゃ!』



「ぬおっ!」


 目の前に褐色の女の子が現れる。


「き、君は……?」

『私は神様にゃ!』


 ……。

 そうは言うものの、目の前の女の子に神様らしさは皆無だ。


 何故なら頭に猫耳を生やしている。

 お尻から尻尾を生やしている。

 よく見れば、頬から細いひげも出ている。


 こんなふざけた神様がいるか。

 

 そんな俺の考えを知ってか知らぬか『フフフ……!』と意味ありげな笑みを浮かべていた。


「神様? 一体ここはどこ——」

『もう一度言うにゃ。君は死んでしまったのにゃ! でも安心して欲しい。一兆人に一人の幸運で、君は別の世界に転移して第二の人生を歩むことが出来るのにゃ』

「死んでしまった?」


 それを聞いても、悲しさもなにも浮かんでこなかった。

 そっかー、死んでしまったか。

 さすがに四徹よんてつはまずかったかー。

 そういや、ろくにご飯も食べていなかったしな。

 死んでしまっても仕方がない。


 それにあのブラック企業から解放されると思えば、そう悪いことはない。


 なので死んだことは問題はなかった。

 問題は……。


「別の世界に転移ってのはどういうことだ?」

『最近、君の住んでいる日本では異世界転移ってのが流行っているんだろう? 簡単に言えばそういうことだにゃ』


 簡単に言いすぎである。


『異世界転移出来る権利は宝くじが当たるより凄いにゃ。もっと喜べにゃ』

「いや……まだ実感が湧いてこないと言いますか」

『そう君と話せる時間も残っていないにゃ。ただ異世界に転移するのも大変だろうからね。一つだけチートスキルかユニークスキルを授けてあげるのにゃ』


 スキル。


 俺もネットで小説を読むのはまあまあ好きだったので、異世界転移というのはどういうものか大体分かっている。

 チートスキルを授かり、異世界に転移して無双するのだ。


 ん?

 意外にアリなんじゃないか。


『好きなのを選ばせてあげよう。

 どうする?

【一撃必殺の誓い】のスキル? それとも【鉄壁の体】? それとも——』

「あのー、もっと戦いに関係なさそうなスキルはないのか?」

『ん? ん??』


 その二つを聞くに、攻撃力と防御力上昇のスキルだろう。


『どういうことだにゃ?』

「戦闘なんて物騒じゃないか。どれだけチートなスキルを授かっても、死んでしまう可能性もある。それに戦闘に自信があるヤツは魔王を倒したり、パーティーを組んだりしないといけない。そんなの真っ平だ。俺は生活していければそれでいい」

『ぐぅぅー、なかなか我が儘なヤツにゃ』


 もしかしたら。

 現実では無理だったスローライフを異世界で送ることが出来るかもしれない。


「生産職系のスキルはないのか?」

『生産職系……生産職系……うーん、私が授けられるスキルは戦闘系に偏っているからね。生産職系は少ないにゃ』


 見た目と反して、なかなか物騒な神様である。


 生産職。

 アイテムとかを作り出したり、強化することが出来る職である。


 これがあれば、生前俺の抱いていた『職人として生きていく』という夢を達成出来るかもしれない。

 人と交わるのは最低限にすればいい。

 いや、可愛い女の子を従業員に雇うか?

 人とはあんま喋りたくないが、可愛い女の子は別なのだ。


 可愛い女の子に囲まれたハーレム職人ライフ。


 うん、これぞ最高のスローライフ計画である。


『……あっ、あったあった! 唯一の生産職スキルがね』


 神様が飛び跳ねていると、だんだんと周りの霧がなくなってきた。


『い、いけないにゃ! もう時間だにゃ! 早く君を異世界に転移させないとね』

「ちょっと待ってくれ。まだ聞きたいことは山ほど……」

『じゃあ頑張るのにゃ! 異世界で幸せな第二の人生を!』


 霧がなくなっていくと同時に、空を飛んでいるような浮遊感。

 同時にまた目の前が真っ白になってきた。



《——あなたは【全体効果付与】のスキルを得ました》



 最後に。

 そんな言葉が聞こえてきたところで、とうとう神様の姿が完全に見えなくなった。


本日、あと一度更新予定です。

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