第9話
バイオリンの音色に起こされた女は男の部屋へと向かいました。
そして、側にあった丸椅子に腰を下ろすと男の演奏にじっと耳を傾けているのでした。
男も自分の奏でるバイオリンを聴き入ってくれる事がとても嬉しくそれでいて気恥ずかしい気もします。
一曲弾き終えると男は軽くお辞儀をして照れたように笑いました。
女は立ち上がると拍手を贈り更には感極まって男に抱きつくほどの喜びようです。
男もそれには目を丸く見開き驚きましたがやはり嫌な気はしなかったのでしばらくそのままでいることにしました。
「とても素敵な演奏だったわ。それに見事なバイオリン。」
女は興奮した口調で話し始めると男の造ったバイオリンと奏でる音がどれほど素晴らしいのかを話しました。
男は今までバイオリンを沢山作ってきましたがこれほどまで褒められた事もなく演奏をしてみても然程上手いとは言われた事もありません。
音楽家ではないので当然演奏が褒められる事がないのは自分でも納得しておりましたが、やはりバイオリンの出来を褒められるのは嬉しく思うのでした。
そして、男は女の言葉で自分の腕に自信が持てたのです。
男は女を喜ばす為にバイオリンを作り音楽をプレゼントしましたが、女に自信という一番欲しかったモノをもらうのでした。
男には自分にとって女が居なくてはならない大切な存在になっていました。
女も退屈でまるで色の無い日々に男が来てから鮮明な色が付いたかの様に明るいものになったのです。
二人はもう同じ気持ちでした。
それからというもの男は女の為に音楽を奏で女は演奏に合わせて踊るとても楽しい日々を過ごしました。
「君といるととても幸せな気持ちになるよ。」
男は女の作る料理を食べる時も、力仕事を終え女の元へ戻る時もいつも言います。
女も頬を赤らめながら嬉しそうに頷き二人はこの幸せがずっと続くと思うのでした。