第8話
家の裏側に無造作に置かれていた木を運び出すと男は適当な大きさに割り今度は割った二枚の板を接ぎ合わせ丸く型を切り出します。
型どった板に合うように部品を慣れた手付きで作るといつの間にか日は上まで上り随分時間が過ぎていました。
きりのいい所でひと息つこうと男は水を飲みに部屋へと戻って来ると台所では女が昼食の支度をしており火の着いた大きな鍋に湯がグツグツ音を立て白い蒸気をのぼらせています。
「おかえりなさい。もうすぐ出来るから待っていてね。」
女は額から汗を流す男にタオルを差し出すと微笑んで見せました。
その笑顔はまるで絵画に描かれている女神の様に白い光が周りに輝いて見える様です。
二人は他愛もない世間話に花を咲かせながらスプーンを口へ運びました。
一口、また一口と食べ進めるごとに二人の距離は縮まり、やがてお互いの好きな物や苦手な物が一緒だと知るととても初めて会った気がしないのでした。
それからまた男は続きを作り始めます。
今度は女も一緒です。
女は時々鼻歌など歌いながら男の肩に手を置くと背中越しに作業を見ていました。
板の裏側を平になるように削り取った男はフッと息を吹きかけ削りカスを吹き飛ばすと木の粉が舞う隣で女は楽しそうに手のひらを広げくるりと回りました。
どこからか誘われるように吹き始めた風にスカートの裾がひらひらと揺れるとそれだけでずっと見ていたい光景です。
女の仕草や表情がとても可愛らしく美しいので男は何とか喜んでもらいたいと思うのでした。
女もまた木を削る男の真剣な眼差しが情熱的で後ろ姿がとても頼もしく感じました。
それからしばらくして男は部屋の中に籠ると小さなランプを一つ灯して慎重にノミで模様を入れていきます。
散りばめられたダイヤみたく星達が光を放つ頃になっても男は部屋から出てきませんでした。
心配になった女が声をかけても男は返事もしません。
明け方、森の奥から微かに聞こえる鳩の鳴き声が静まり返った部屋の中に聞こえてくると男はズボンのポケットにあった羊の腸でできた弦を取り出し、しっかりと張っていきます。
馬の毛は松脂を丁寧に塗り込み弓へと仕上げました。
男は出来上がったバイオリンに顎を乗せ弓を滑らせていくと耳に残る高音が心地良い音色を部屋中に響かせるのでした。