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森の悪魔  作者: 川島 蛍
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第19話

アンナは聞いて良いものなのか迷いましたがやはり気になったので男に尋ねる事にしました。


「あなたが無事戻って来てくれて本当に嬉しいわ。ずっと不安だったんですもの。でもあなたが森へ行ったのは昨日の事よ、時が過ぎるってどういう事?」


男はアンナの言葉に耳を疑わずにはいられませんでした。

何故なら森の中で過ごした長い時間は昨日の出来事になっていたのです。

男は一体何が起こっているのか見当もつきませんでしたがこれが本当なら父親の薬が間に合ったのも納得がいきます。

男は少しためらいながらも森の中での出来事を全てアンナに話す事にしました。

二人は外に出ると男は切株の椅子にアンナが腰を掛けるのを見届けると伏し目がちに話し始めました。

森で迷い梟に襲われた事、そこで女に助けられた事、女は介抱してくれただけでなく自分が今まで持つ事の出来なかった自信と誇りを与えてくれた事、その女に心惹かれてしまった事も。

一通り話し終えると男はうな垂れるようにため息を吐き目線はずっと下を向いたままアンナの方を見る事はありませんでした。

アンナはその様子を見て軽く吐息を吐くと男にこう言いました。


「人はとても弱いものよ。誰でも心に弱さを持っているわ、だからあなたが森で誰を想い必要としていたとしてもあなたのせいではないのよ。」


そして大切なのはあなたが自分の意思で戻って来たという事だと言うと変わらぬ笑顔を男に見せるのでした。


それから男はまた今まで通りの生活に戻りました。

男の作るバイオリンは以前よりずっと素晴らしいものになり、その評判は隣町だけでなくもっと遠くの町からも客がやって来る程です。

父親の具合もすっかり良くなり病気だった事がまるで嘘だったように元気になりました。

そうして平穏な日常が戻りしばらく日が経った頃、男は朝早くから出かける事にしました。

目的の場所に近づくにつれあの時と同じ甘ったるさが鼻につく匂いが段々と濃くなっていきます。

ートントンー

男は咽せかえりながら軽く戸を叩き少し開けると中から煙りを燻らせた変わり者の後ろ姿がありました。


「おはようございます。」


「そろそろ来る頃だと思っていたよ。」


変わり者はそう言うと揺ら揺らと椅子を揺らしながら大きく煙を吐き出しニタァと不気味な笑顔を見せるのでした。


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