第17話
樹のトンネルはアーチ状に枝と枝とを絡ませながら真っ直ぐ続き葉で覆われた先はまだ見えず出口へはもうしばらくかかりそうでした。
女の元を去り帰る事を選んだ男は父親の事、恋人の事を思いながら急ぎます。
走って、走って、ただひたすらに前だけを見て走り続ける男の頭にふとよぎった女の顔は何となく怪しげな予感を感じさせましたがそれでも立ち止まり振り返る事はせずまた前へと進んで行きます。
トンネルの中は何も無く、風や生き物の息づかいすら聞こえません。
しんと静まり返ったそこにあるのは真っ暗な道と聞こえてくる自分の呼吸と足音だけです。
男はこの暗闇の中で次第に自分自身と対峙し始めました。
自問自答を繰り返し罪悪感と責任感をごちゃ混ぜにしながら胸をきつく締め付けられ息苦しさを感じそれでも少しの希望を持ち出口へ向かいます。
(どうか薬が間に合いますように。)
男は考えれば考えるほど苦しく、情け無くなりながらもそれを受け入れ、決して絶望だけはしていけないと心に決めました。
その時、目の前に一気に光が射し込むとあまりの眩しさに目が眩み片腕を目に当てながらそっと目を開けるとそこはもう森の出口でした。
(いつの間にここまで辿り着いたのだろう?)
男は不思議に思いながらようやく後ろを振り返ると樹のトンネルは姿を消し最初に見たままの不気味な景色が広がっています。
一体何が起こったのかよくわかりませんでしたが、先を急ぐ事に変わりはなく男は真っ直ぐ家へと向かうのでした。
久しぶりに見る町の風景は前とは少し違うよに見え懐かしくも新しい雰囲気を感じさせていました。
男は町を出てもう随分経っているので今更戻った自分が皆んなに受け入れてもらえるのか不安になりながらも下を向く事はありませんでした。
幸いにも男を見てとやかく言う人はおらず男はほっと胸をなで下ろすと大きく息を吸い気を取り直しまた歩き出しました。