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森の悪魔  作者: 川島 蛍
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第16話

初めはほんの少しの興味と好奇心でした。

連れ帰った男の長く伸びた睫毛は目を伏せた顔をより艶やかに見せ白く細長い指は所々、傷があるものの何処か繊細で頼りなくそれでいて美しくもあるのでした。

悪魔はこのまま魂を取るのはとても惜しい気がし、また男の様な人間は珍しくもっと知りたいと考えました。

そして森に来た理由を知ると、ますます興味が湧き男にこの場所に留まるように話すとしばらく一緒に暮らす事にしたのでした。

男は今まで見た人間達とは違いとても優しく思いやりのある人間でした。

一緒にいると心が落ち着くようで不思議と穏やかな気持ちになるのです。

悪魔のこの空虚な生活にとても小さくて温かなものが芽生えた瞬間でした。

初めて聴いた楽器の音色は心に響き、花や空を見て美しいと思う気持ちも初めて知りました。

悪魔は男と過ごすうちに感じた事のない色んな感情を教わりました。

そして何より誰かが傍にいるというだけで安らげる事も。

悪魔はもう自分が何者であるかなど忘れていました。

目の前の窓硝子に映る女こそ自分だと思うのです。

しかし、自分が人間だと思うようになってからしばらくして心の中に黒くモヤモヤとした恐ろしい感情が生まれた事に気が付きました。

この感情は鉛のように重く醜くとてもひと言では言い表しにくいものでしたが、この気持ちが沸いてくると何故か愉快になる自分がいて、もう一人の自分がこちらを見て嘲笑いながら喜んでいるかのようで苦しく何とも不快なものでした。

悪魔は次々と溢れる感情を知り人間は優しく、そして悪魔よりも悪魔らしいと思うのです。


男が去り静けさが広がる湖に独り佇み男の事を想っていました。

自分は悪魔なのか人間なのかもうわかりません。

それに今となってはどうでもいい事のようにも思えます。

ですが孤独を知った悪魔はこのまま森で暮らすには辛く耐えられそうにもありませんでした。

雲で隠れた月は縁だけを薄っすら浮かびあがらせると森を真っ暗な世界へと変え悪魔は涙を拭いすーっと息を吸い込むと女の姿へ戻り空へ祈りました。


「どうかこれからもあの人が幸せでいられますように。」


そしてゆっくりと湖の中へ進むと身に付けていた白いワンピースは裾を地に擦れながら水の中で大きく広がると大輪の花を咲かせ湖の底へと消えていきました。

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